新型コロナでスタートアップのM&A・資金調達市場に起こること

新型コロナでスタートアップのM&A・資金調達市場に起こること


オンラインM&Aマッチングプラットフォーム「M&Aクラウド」を運営するM&Aクラウドの及川です。


本記事では、新型コロナウィルス感染症の影響でスタートアップのM&A・資金調達市場に何が起きているのかを実感ベースで紹介するとともに、リーマンショックなど過去の不況時の例も踏まえつつ、M&Aや資金調達を検討されているスタートアップの皆さんにとって重要なポイントを整理します。


また、新型コロナ後のM&A業界にもたらされる変化、スタートアップがコロナ不況を乗り越えるために大切なことに関しても、私の考えを紹介します。





スタートアップのM&A現場から見える新型コロナの衝撃


インバウンドやサービス・小売関連中心に業績を直撃


第二次世界大戦以降最悪といわれるパンデミックを引き起こし、世界各地の人々の健康と社会生活、経済活動を脅かしている新型コロナウィルス感染症。日本でもついに緊急事態宣言が出され、東京など大都市の繁華街は閑散としています。ディズニーリゾートをはじめとする観光施設や百貨店、カラオケ店などの休業が連日伝えられる中、スタートアップ界隈を見渡しても、その影響は大きく広がっています。


まず、海外からの入国が早くに制限されたことから、インバウンドに関連するビジネスへの打撃は深刻です。訪日外国人を対象にしたツアー、宿泊、レジャー、物販などに関わるサービスは、軒並み凍結状態を余儀なくされています。


国内でも外出の自粛が呼びかけられるようになり、飲食などのサービス業や小売業、イベントやスポーツ関連ビジネスなども厳しくなってきました。知り合いのスタートアップ経営者の中でも、店舗周辺系ビジネスを運営している人などからは、悲鳴が聞こえています。


一方で、リモートワークが広がり、家での消費活動が盛んになっていることで、特需が起きているビジネスもあります。オンライン会議関連のサービスが目覚ましい勢いで伸びているほか、料理動画、ゲームなどの関連ビジネスも好調のようです。また、健康関連では、遠隔診療サービスの導入が広がっていることも聞いています。ただ、全体的に見れば、こうした特需の見られる業種は、ごく一部に留まっていると言わざるを得ません。


M&A交渉も長期化・先送りが相次いでいる


サービス業をはじめとするビジネスが苦戦を強いられる中、M&Aの世界でも、市場環境悪化の影響により、進んでいた交渉がストップしたり、立ち消えたりするケースが出ています。また、買い手企業の経営陣は買収に前向きな思いを持ち続けている場合でも、今は買い手の株主の方から「このタイミングで買収するのか」という懸念の声が上がりかねないため、株主への説明のハードルが上がるという状況も起きています。特に本業でコロナの影響を受けている買い手企業の場合には、この先行き不透明な中でM&Aを行うことを株主に納得してもらうのは至難の業です。


ディールが長期化する傾向も出てきました。売り手と買い手それぞれの業績予想が不透明になっていることに加え、感染予防のために対面での面談が避けられていることも大きな要因です。交渉開始から成約まで、従来であれば半年程度、早いケースでは3カ月ほどで決まっていましたが、現在のこの状況下では、少なくとも6~9カ月はかかると想定しておいたほうがよいでしょう。特に、売り手の店舗や工場、倉庫、保有資産などを実際に見に行くことが必要なリアルビジネスの案件は、影響が大きくなっています。


ディールが長期化すると、まず資金繰りのひっ迫している売り手は、時間が経てば経つほど苦しい状況に追い込まれます。また、デューデリジェンスが延びていくうちに、売り手の業績状況が変化し、バリュエーションが変わってしまうことも多く、買収価格の見直しが発生しやすくなります。この間、買い手側、売り手側ともにやり直しの作業が増え、M&Aそのものにかかるコストもふくらんでいきます。


M&Aプロセスに及ぼすコロナ影響


ちなみに、一時はバブル状態にあったスタートアップのバリュエーションが下がってきたことで、M&A市場だけでなく、IPO市場にも影響が出ています。IPO時の株価が抑えられている現状を踏まえ、このタイミングでの上場を取りやめるスタートアップが増加。上場の承認を受けた後に取りやめたというニュースが、特に3月以降相次ぎました。こうした会社の多くは、業績そのものは好調に推移してきており、資金に余裕があります。このため、上場取りやめで浮いた資金を活用して、M&Aの買い手に回るケースも出てきており、私の身近でも何件かこうした話を聞いています。



知っておきたい、不況下のM&A・資金調達市場に起きがちな変化


リーマンショック級ともいわれる今回のコロナ不況。先が見通せない環境下で、スタートアップのM&Aや資金調達にはどのような影響が表れるのか、詳しく見ていきましょう。


求められるのは買収効果の確実性


まず、買い手のM&A戦略においては、買収効果の確実性を重視する傾向が強まります。新規事業の創出や技術開発のための投資は抑えられ、既存事業の強化を目的としたM&Aの割合が増えます。


M&A先を選ぶ際も、単体で確実に利益を出せる企業に人気が集中します。アーリーステージの企業、プロダクトがまだマーケットにフィットしていないような企業を買い、長い目で育てていこうという買い手は限られていくでしょう。また、会社としてはまだ黒字化していない、あるいは業績が悪化しているようなケースであっても、平時であれば、売り手の経営者や幹部の持つスキルやノウハウなどを高く評価し、積極的に買収を検討する買い手が一定数見られます。不況下では、このようなポテンシャル重視型のM&Aも減っていきます。


バリュエーションもシビアになります。今回のコロナ危機が始まる少し前から、すでにその傾向は目立ち始めていましたが、コロナ危機後は一層、現状でしっかり利益を上げていることが重視されるようになっています。スタートアップの中でも、業績堅調な会社はバリュエーションに大きな影響を受けていない一方で、赤字体質の会社、実績ではなくKPIベースでこれまで高いバリュエーションを獲得していたような会社に対する目線は、明らかに厳しくなっています。


持分法適用や段階取得でリスクを抑えて買う傾向


M&Aスキームに関しても、リスクヘッジを重視した選択が行われるようになります。まず一つには、傘下に迎えた会社の業績が思うように上がらなかった場合でも、買い手企業自身のPLに影響が出ないよう、連結子会社(議決権51%以上)ではなく、持分法適用会社(同20~50%)としてグループ化するケースが増える傾向が見られます。持分法適用会社であれば、親会社のPLに合算する必要はないからです。

また、完全子会社化を見据えているケースでもまずは51%の取得に留める、あるいはアーンアウトを付けるなど、支払いを段階的にしたがる買い手も多くなるでしょう。


一方、売り手のスタートアップ側も、「できるだけ独立経営をしていきたいが、目下の危機を乗り越えるためには資金調達が必要。今、VCから出資してもらうのは難しいので、力のある事業会社の傘下に入って助けてもらおう」といった考えでM&Aを検討する会社が増え、買い手・売り手の双方ともに出資比率を低く留めようとする傾向が強まります。いったんグループ入りして、将来の子会社上場を狙うという会社も多くなっていくでしょう。


資金調達しやすい企業としづらい企業の二極化へ


次は資金調達市場で起こることを見ていきましょう。


資金調達しようとする多くのスタートアップにとっては、VCが最も身近な存在でしょう。VCにとっての至上命題は投資先の株価を上げたうえで売却し、ファンドの出資者にリターンをもたらすことです。そして、これはリーマンショック後にも起きたことですが、今、新規に上場する会社の数が大きく減っています。こうなるとVCとしては確実に上場できそうな会社、かつ上場時に高い株価が付きそうな会社を慎重に見極めるようになります。


リーマンショック前後のIPO件数

参照:日本取引所グループ「新規上場基本情報」

https://www.jpx.co.jp/equities/listing-on-tse/new/basic/04.html

※経由上場含む

※外国会社・テクニカル上場は除く

※2020年は3月31日までの集計




これによって起こるのは、資金調達をしやすい会社としづらい会社の二極化です。ファンドに集まる資金量自体は、今、史上最高レベルに達しており、VCとしてはよい投資先を見つけたいものの、リターンが見込める投資先がなかなかないというジレンマを抱えています。このため、一部の有望なスタートアップには出資の打診が集中していく一方、まだ成果を出せていないスタートアップにとっては厳しい状況が続きます。資金調達できたとしても、ダウンラウンドとなるケースも増えていくでしょう。


なお、ファンドには償還期限がありますから、この不況下で投資先の成長可能性に自信を持てなくなったVCは、早めに他のVCや事業会社に売却しようとします。未上場の対象会社をめぐる、こうした外部株主間の株のやり取りは、これまで国内ではあまり多くありませんでしたが、今後はより一般的になっていくことが予想されます。



“コロナ後”のM&A・資金調達市場の姿を予測してみる


今回のコロナ危機で全体的に下がったスタートアップのバリュエーションが回復していくには、おそらく数年レベルの時間がかかるでしょう。かつてのように期待値でハイバリュエーションを獲得することは、当分望めないと考えた方がよいと思います。


一方で、外出自粛の影響で、社会全体がリモートワークの必要性に直面したことにより、M&Aの世界に新たな可能性が生まれてくることも考えられます。たとえば、今回、社員が普段デスクトップPCを使用している企業では、自宅で同じ環境にアクセスするための仕組みを短期間で整えることができず、結果として業務が混乱したケースも多いようです。こうした経験を経て、コロナ後は、M&Aの狙いの一つとして、社内のDXを進めるためにフレキシブルな働き方を確立しているスタートアップを迎える、といったケースが増えてくるかもしれません。


M&Aのプロセスにおいても、外出自粛の結果としてオンライン面談に馴染む人が増えていくと、特に遠方の企業間のM&Aでは、スピードアップにつながっていくことも考えられます。決算書などの資料も、プリントアウトして持参する代わりにクラウドなどでやりとりするケースが増え、ペーパーレス化が進むといった効果もありそうです。



コロナ不況を乗り切るためにM&Aクラウドが実践していること


私たちM&Aクラウドも、まだ設立から5年目のスタートアップです。コロナ不況でM&Aを控える買い手も出てきている中、当社のバリュエーションを維持していくために何ができるのか、私なりに考え、実践していることを紹介します。


足下の業績を重視したリソース配分を徹底


これまで述べてきたように、現在の局面では、投資家の関心は対象会社の業績に集中しています。これを踏まえ、まず直近の売上をしっかり立てていくことを重視し、社内のリソースを重点的に振り向けています。

キャッシュアウトの抑制も重要です。昨年からほぼ月に一人のペースで進めてきた社員採用の計画を見直したほか、広告配信なども今は実験的な試みは避け、効果の確実なものに絞っています。また、手元資金を十分確保しておくため、銀行からの借り入れは最大限行っています。


ちなみに、スタートアップにとって大きな負担となりがちな経費に、オフィスの家賃があります。当社は昨年3月に今のオフィスに移転してきましたが、都内各地へのアクセスがよい割には家賃相場の低い八丁堀を選んだおかげで、家賃に苦しめられる展開は避けることができました。内装や備品もシンプルで、デスクチェアの一部は知り合いの会社からもらい受けてきたもの(笑)。こんな地味めのカルチャーに救われている部分もあります。


コロナ影響下でも前向きな買い手・売り手を全力サポート


売り手は無料で、かつオンラインで直接買い手の情報を閲覧できるという手軽さ、利便性を前面に打ち出してきた「M&Aクラウド」ですが、このコロナ危機により、「感染リスクのある対面での面談を行うことなく買い手を探せる」という新たなメリットが生まれています。実際、「M&Aクラウド」への売り手登録数は、この3月に過去最高を記録しました。


当社では今、このメリットを最大限に活かすべく、新たな取り組みを始めています。このコロナ危機の中でもM&Aに積極的な買い手、そしてオンライン面談での対応が可能な買い手を選んで打診しやすい仕組みを作り、早期にM&Aもしくは資金調達を行いたいと考えている多くの売り手の皆様をサポートしていこうとしています。


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コロナの終息時期が読めない今、この状況でもできること、この状況だからこそすべきことを見つけていくことも、一つの手ではないでしょうか。皆さんもぜひ、この状況に負けず、むしろ逆手に取るようなアイディアを模索してみていただければと思います。

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