資金調達の壁に直面したとき、起業家はどう動くべきか
地方で創業したスタートアップにとって、投資家との接点をどうつくるかは、最初にぶつかる壁の一つです。
株式会社パンフォーユーは、2017年1月に群馬県桐生市で創業しました。全国のパン屋とお客様を、独自の冷凍技術でつなぐ事業を展開しています。創業期は個人投資家に支えられ、2021年にシリーズAを、2022年にシリーズBで約6億円を調達しました。2026年4月には、グローバル・ブレインが運営するファンドから出資を受けています。
VCからの評価が得られず苦しんだ時期を、どう乗り越えたのか。断られた投資家と、どのように関係を続けてきたのか。代表取締役の矢野健太さんに伺いました。
株式会社パンフォーユー

地域のパン屋とお客様をつなぐ
―――――― まず、パンフォーユーの事業について教えてください。
地域のパン屋さんや、最近では地域のパン工場さんと、さまざまなお客様をつなぐ事業をしています。パンをおいしく簡単に冷凍する技術と、パンを簡単に出荷できるシステムを使って、個人宅向け、オフィス向け、業務用にパンを届けています。個人向けがパンスク、オフィス向けがパンフォーユーオフィス、業務用がパンフォーユーBizです。
―――――― それぞれ、いつ頃立ち上げたのでしょうか。
最初に立ち上げたのは、パンフォーユーオフィスです。2018年に、ランチ難民という社会課題に対して、福利厚生サービスとしてパンの提供を始めました。今は400社以上に使っていただいています。
オフィス向けを展開する中で、個人宅にも届けてほしいという声をいただき、2020年2月にパンスクを始めました。ちょうどそのタイミングでコロナ禍が来て、パンスクは大きく伸び、今は累計6万会員のサービスになっています。さらに、レストランやホテルからも仕入れたいという声をいただき、2020年の夏頃に業務用のパンフォーユーBizを始めました。こちらは数百社にご利用いただいています。
―――――― オフィス向けの福利厚生サービスは、お弁当などほかのサービスも多い領域です。どう差別化したのでしょうか。
パンに特化すること自体で、ユニークなポジションを取れると考えていました。オフィスで野菜やおかずを提供するサービスに対して、パンは軽食のカテゴリーです。そこで差別化できていたと思います。
―――――― 3つのサービスを並行して展開してきたのは、最初から考えていたことなのでしょうか。
すべてを計算しきれていたわけではありません。ただ、最初から複数の事業チャネルを世に出して、市場に刺さったところにリソースを注力しようという構想はありました。
この多面展開というやり方は、初期の投資家の方、特に出資に至らなかった方からはあまり賛同を得られませんでした。まずは一つの事業に絞りなさい、と言われましたね。しかし結果として、コロナ禍のときも今も、複数のチャネルを持っていたことで、需要の変化にバランスよく対応できたと実感しています。
パンは、これからインターネットの力を活かせる余地が大きい商材だと考えています。インターネットの産業は、広告や金融、不動産などの領域から先に広がってきました。ECの中でも、食品の中でも、ベーカリーはこれから伸びていく市場だと捉えています。新しい技術で広がった市場に後から加わっても、十分に価値を届けられるのではないか、という考えが元々ありました。
―――――― 今後、力を入れていく領域を教えてください。
一つはリアル店舗です。パン屋さんとお付き合いする中で、店舗の運営を任せたい、という声を多くいただくようになりました。パンの市場は人口が減る中でもまだ伸びていますが、パン屋さんの数は年々減っています。そのギャップを、これまでは既存事業で埋めてきました。事業が広がり、扱えるパンの種類や価格の幅も広がってきたので、パンが一番流通する場所であるパン屋さんの店舗に踏み込もうとしています。
もう一つは生成AIです。音声入力や写真撮影で情報を入力できる技術は、パソコンに向かう時間がなかなか取れない、忙しいパン屋さんととても相性がいいと考えています。パソコンを開いたり、スマートフォンで文字を打ったりしなくても、写真や音声でデータを入力でき、そこから提案までできるプロダクトの提供を始めています。
群馬から東京へ。ピッチと直接の連絡で投資家と出会う
―――――― 創業当初は、投資家との接点をどのようにつくっていたのでしょうか。
当時の群馬では、スタートアップに出資する投資家と出会う機会が少なかったので、東京に出て接点をつくろうとしました。一番効率がよかったのは、ピッチイベントに出ることです。ビジネスアイデアへの反応をすぐに見られるので、積極的に登壇していました。プロトスターが運営する起業家コミュニティ、StarBurstのピッチイベントにも出させてもらいました。
―――――― 群馬ベンチャーサミットでの受賞が、GxPartnersからの調達につながったと伺いました。
群馬ベンチャーサミットに出場して、賞の特典として、全国のピッチイベントに参加できる権利をいただきました。それで福岡や静岡のイベントに参加し、福岡で登壇したときに、GxPartnersの中原さんがたまたま見てくださっていて、興味を持っていただきました。パンスクを立ち上げる直前の時期で、そこから出資につながりました。これがプレシリーズAです。
―――――― それ以前は、どのように資金を確保していたのでしょうか。
日本政策金融公庫などから融資を受けていました。それから、個人投資家の方々から出資していただいていました。
―――――― エンジェル投資家とは、どのように出会ったのでしょうか。
最初は知り合いからの紹介です。あとは、直接メッセージを送ってピッチをしに行くなど、あらゆる手段で会いに行ってピッチをしていました。
最初のエンジェルラウンドで、1,000万円ほどを調達しました。その後もエンジェルラウンドを続けて、個人投資家の方々だけで1億円強を集めています。シリーズAまでの期間が長く、苦しかったこともあって、それだけ個人投資家の方々に支えていただきました。
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個人投資家に支えられた、シリーズAまでの道のり
―――――― 資金調達で、一番苦しかったのはどの時期でしょうか。
シリーズAまでが、本当にしんどかったです。シリーズAは、個人宅向けのパンスクがうまく立ち上がったことを受けて実現しました。それまでは、パンフォーユーオフィスだけでした。当時のオフィス向けの事業は売上の伸び方が直線的で、なかなか評価していただけませんでした。先行して成長しているオフィス向けの野菜やおかずのサービスと比べられることも多く、うまく説明できなかったと思います。その時期は、VCからの出資は難しく、ずっと個人投資家の方々に支えていただいていました。
―――――― では、その時期に断られてしまった投資家の方々とは、その後関係が途絶えてしまったのでしょうか。
いえ、実はシリーズAとシリーズBで出資してくださった方々は、まさにしんどかった時期に会いまくっていた人たちです。初回面談ではご縁がなかったものの、シリーズA以降に事業の進捗を見ていただいて、お久しぶりです、ここまで成長したんですね、と出資していただきました。
―――――― 会い続けるという考え方は、どこから来たのでしょうか。
起業して1年ほど、プレシリーズAの前の時期にお会いした投資家の方が、とてもいいアドバイスをくださいました。投資家にはたくさん会っておいたほうがいい、投資家は起業家がどう仮説を立て、どう軌道修正していくかの過程を見ている、だから早いうちに会っておいて、進捗をアップデートしていくことが大事だ、と教わりました。
エンジェルラウンドでも、最初は断られた方が、その後お会いして進捗を話したら出資してくださったことがありました。しっかり連絡を取り続ける大切さを、そこで学びました。結果にもかなりつながったと思います。シリーズAとシリーズBも、2020年より前にたくさんお会いしていた方々が、進捗を見て出資してくださったものです。
既存株主からの追加出資と、投資家が出しやすい土台づくり
―――――― 今回のグローバル・ブレインからの出資は、どのような経緯だったのでしょうか。
グローバル・ブレインは、既存株主でもあります。KDDI Regional Initiatives FundやKIRIN HEALTH INNOVATION FUNDを通じて出資していただいてきました。その間、事業のことや細かいところをずっと共有し、ディスカッションしてきました。当社の特徴として、追加投資が多いことがあります。2回、3回と出資してくださっている投資家が多いです。とにかく投資家の方々とは、丁寧にコミュニケーションを取るよう心がけています。
―――――― 追加投資につながるコミュニケーションで、意識していることはありますか。
投資家にも、出資する理由と同じくらい、出資できない理由がたくさんあります。担当者の方が出したいと思ってくださっているなら、出せる土台やロジック、背景をどれだけつくれるかが、起業家の役割としてとても大事だと考えています。
―――――― 具体的には、どのような工夫をされていますか。
事業が伸びていること、業績がいいことはもちろん大事です。それ以上にスタートアップのエクイティファイナンスで大事だと思っているのが、ファンドのコンディションです。今は積極的に投資するタイミングなのか、絞っているタイミングなのか、出すとしたらどんなテーマなのか。そのときのコンディションとテーマに合うよう、どう説明するかをとても大事にしています。
逆に、それを意識しすぎて、事業よりもそちらに向いてしまった時期もありました。今はそうならないよう、今の事業の延長線上で、このテーマなら響くだろう、と考えるようにしています。投資家の方も、社内で説明したうえで出資に至ることが多いので、説明しやすいようにすることには特に気をつけています。
お金だけでなく、一緒に事業を伸ばしたいと正直に伝える
―――――― 地方発の食の事業を、投資家にはどのように説明してきたのでしょうか。
当社の株主の特徴は、CVCや地域金融機関、銀行が多いことです。CVCとは、協業の相性を一定評価していただけたと思っています。財務リターンを重視する投資家からは、検討の対象になりにくいこともありました。そこに無理に合わせて目指す姿を変えるよりも、いろいろな方と一緒にこの事業を伸ばしたい、求めているのは資金だけでなくアライアンスなのだ、ということを正直にお伝えしてきました。それが評価された点だと思います。
―――――― 厳しく確認されたのは、どのような点でしょうか。
出資に至らなかったときは、たいてい業績の伸ばし方の目線が合わなかったときです。事業を広くやっていると、どれも芽が出ないのではないか、一つに絞ったらどうか、と言われがちです。ただ、長期で経営することを考えると、ある程度分散しておくことは大事だと考えています。そこは評価されにくい点でもありました。
―――――― アライアンスは、どこまで形になってきたと感じていますか。
協業の形をつくることは、かなりできてきたと思います。ただ、収益へのインパクトという点では、まだ満足していません。事業の幅が広がってきたので、これからは収益面でも大きなインパクトを一緒に出せると考えています。
―――――― そのためには、何が必要だとお考えですか。
トップのコミットだと思っています。日々の協業はメンバーが進めてくれていますが、大きなアライアンスは、サービスをつくるのと同じくらいの時間や工夫、アートのような感覚も必要です。だからこそ、経営者自身が責任を持って取り組むべきだと考えています。形にするまでには時間がかかるので、粘り強く続けることが大事だと思います。
これから資金調達に臨む起業家へ
―――――― これから資金調達に臨む起業家へ、メッセージをお願いします。
お金が集まらないときは、本当に集まりません。だからこそ備えておくことが大事だと、改めて感じています。そのうえで、とにかく人に会うことと、事業を伸ばすことです。
事業に向き合いながら市場のチャンスを見ていないと、資金調達のときに打ち出すキーワードも出てきません。残高が減っていく中で、どれだけ事業に向き合えるかという話でもありますが、事業が伸びていないとお金はつきにくいと改めて思っています。人に会うことと事業を伸ばすことの両方をどうやるかは、腹をくくってやるしかないと思います。
みんな苦しいのは同じです。すごくうまくいっているところが目立つだけで、それ以外の会社は、どこも苦労しながらなんとかやっています。そういうものだと思ってやれば、頑張れるのではないでしょうか。
StartupListを使っている起業家の方も多いと思いますが、アーリーステージの起業家が言うことは、なかなか理解されないものです。あのとき言っていたことはこういうことだったのか、と証明するには、何年か時間がかかります。それくらいのスパンで考えれば、頑張れるのではないかと思います。
創業期から、将来の資金調達につながる接点を
パンフォーユーの事例のように、投資家との関係は、一度の面談で終わるものではありません。早い段階から接点を持ち、進捗を伝え続けることが、数年後の資金調達につながることもあります。
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株式会社パンフォーユー について
地域のパン屋さんが抱える運営や販路拡大などのあらゆる課題を、独自の冷凍技術とDXによって解決するスタートアップ企業です。「新しいパン経済圏を作り、地域経済に貢献する」をミッションに、”冷凍×IT”でパン屋さんと消費者をつなげる様々なプラットフォームサービスを提供しています。
URL:https://panforyou.jp/
本社所在地:群馬県桐生市本町五丁目368番9号
設立日:2017年1月17日
代表者:代表取締役 矢野 健太
企業ビジョン:魅力ある仕事を地方にも
事業ミッション:地域パン屋のプラットフォームとして、地域経済に貢献し、新しいパン経済圏をつくる。
事業内容:
・全国のパン屋さんから冷凍パンが届く定期お届け便「パンスク」の企画・運営
https://pansuku.com/
・カジュアルギフトとして「パンスク」を活用できる「パンスクギフト」の企画・運営
https://gift.pansuku.com/
・冷凍庫を置くだけ!食の福利厚生サービス「パンフォーユーオフィス」の企画・運営
https://office.panforyou.jp
・事業者向けのパンプラットフォーム「パンフォーユーBiz」の企画・運営
https://panforyou.jp/biz
・ネットで贈れるパンギフト券「全国パン共通券」の企画・運営
https://bakery-gift.com
・インストアベーカリーの企画・運営



