スタートアップ企業が資金調達をする際、まず必要となるのが自社の投資ラウンド(資金調達ラウンド)の把握です。
投資家によって投資対象となる投資ラウンドが異なり、自社のラウンドを正しく把握していなければ、資金調達活動を進めることができないといっても過言ではありません。
投資ラウンドとは、投資家がスタートアップ企業の事業段階をわかりやすく区別するために使用される指標です。
事業を行うため資金調達をしたいけど、
・どのように資金調達をしたら良いのか?
・どんな資金調達先が適しているのか?
・そもそも自社が今どこの事業段階に位置しているのか?
・実際に資金調達をする上で、どんな投資家に具体的にアプローチしたらいいのか?
など、様々な疑問をもたれる方がいらっしゃるかもしれません。
そこで今回は、
過去に100社以上のスタートアップを支援してきた栗島さんに、
投資ラウンドのそれぞれのフェーズの特徴や適した資金調達先、また創業前後の段階であるエンジェルラウンド〜プレシリーズAでの具体的な資金調達先を教えていただきました!
また、資金調達する上での気をつけるべき点も紹介しています。
監修者情報
投資ラウンド(資金調達ラウンド)とは?
投資ラウンドとは、投資家が把握しにくいスタートアップ企業の事業段階をラウンド分けし、企業側と投資家が共通認識を取りやすくするための指標です。
「投資ラウンド」は投資家サイドの表現で、投資を受ける企業サイドからみた場合は、資金調達をするラウンドのことを指すため、「資金調達ラウンド」とも呼ばれます。
投資ラウンドは事業段階順にエンジェル、シード、プレシリーズA、シリーズA, B, Cのように分けられており、
それぞれラウンドに関してチームの有無、プロダクトの状況、トラクション(新規顧客数、継続率、解約率などの数値や顧客からのフィードバック)の有無などで分けられています。
それぞれのラウンドの特徴をまとめて見やすいように表にまとめました。
投資ラウンドは、チームができているか、製品サービスのプロトタイプやα/β版ができているか、初期のトラクションが得られているか、ユーザー拡大の軌道に乗っているか、マネタイズができているかどうかなど、マイルストーンと呼ばれる中期的な目標が達成される毎に変化します。
それぞれのラウンドについてわかりやすく説明します。
エンジェル(プレシード)
事業段階
エンジェルラウンド(プレシード)は、チームもまだ結成されておらず、プロダクトに関してもまだない状態で、製品・サービスのアイデアのみあるという状況です。
まだ、法人化もされておらず、ビジネスとして始動していない段階です。
調達金額・期間
エンジェルラウンドでは、まだビジネスとして動いていないので、そこまで多くの資金は必要としておらず、資金調達金額の相場は、100万円〜1,000万円程度となります。
ここでの資金は、ビジネスを動かしていく上で必要となる人材を確保するために使用されます。調達までに必要な期間としては、1日〜1ヶ月と比較的短時間で資金を調達ができます。
資金調達先
エンジェルラウンドでの資金調達先としては、主に以下の3つが挙げられます。
・エンジェル投資家 ※1
・インキュベーター ※2
・株式投資型クラウドファンディング ※3
※1 エンジェル投資家とは、創業前後の企業に対して、資金を直接出資する個人投資家のことです。
エンジェル投資家は自ら会社を創業した経験がある方が多いため、資金だけでなくエンジェル投資家の持つ人脈の提供や経営に関するアドバイスを得ることができます。
※2 インキュベーターとは、創業直後のスタートアップ企業に対して、資金や開発設備、人脈、経営に関する知識の提供など、創業に際して必要なサポートを行う団体・組織(VC, 地方自治体など)のことです。
※3 株式投資型クラウドファンディングとは、クラウドファンディング事業者を通じて、未上場のスタートアップ企業に対して投資ができる比較的新しい資金調達方法です。
今まで個人が未上場企業へ投資するのは金額面などから敷居が高くあまり活発ではなかったですが、
株式投資型クラウドファンディングではインターネット上で少額から投資ができるため、個人でも手軽に出資ができます。
具体的な資金調達先
具体的な資金調達先としては、
・Open Network Lab
・EAST VENTURES
・Skyland Ventures
が挙げられます。
また、エンジェル投資家と知り合うためには、
・TwitterなどのSNSで直接起業家にコンタクトを取る
・起業家仲間の紹介(エンジェル投資をすでに受けている起業家からの紹介が特に有効)
・ピッチイベントに参加
などの方法が挙げられます。
関連記事:エンジェル投資家とマッチングするには?おすすめ方法4選と落とし穴
関連記事:エンジェル投資家が狙うリターンを紹介!ハイリスクハイリターン?
シード
事業段階
シードラウンドは、ビジネスモデルが定まり、法人を設立し、実際にビジネスを始める前の準備として、
自社ビジネスに関連する市場を調査したり、サービスの開発体制を整え、プロトタイプを作成している段階です。
調達金額・期間
シードラウンドでは、まだ本格的にビジネスをスタートしているわけではないですが、
・法人設立の費用
・自社ビジネスに関する調査費用
・開発体制を整えるための費用
・プロトタイプの研究開発費用
・人件費
が発生する可能性があります。資金調達金額の相場は500万〜5,000万円となります。
調達まで必要な期間としては、数ヶ月が必要となってきます。
資金調達先
シードラウンドの資金調達先としては、主に以下の4つが挙げられます。
・VC(ベンチャーキャピタル)※4
・政策金融公庫 ※5
・株式投資型クラウドファンディング
・エンジェル投資家
※4 VCとは、高い成長が見込まれるベンチャー企業やスタートアップ企業などの未上場企業に対して投資を行う会社のことです。
出資する代わりに出資先の会社の株式を取得し、出資先の会社が上場したり、大企業への合併や売却などをして、株価が上がった時に取得した株式を売却することで利益を得ることを目的としています。
VCでは資金を出資するだけでなく、ハンズオン(経営アドバイス、人脈の提供、施設の提供など)と呼ばれる経営支援を行うところもあります。
※5 政策金融公庫とは、国の経済発展や地域活性化を目的として支援をしており、民間の金融機関では融資されない、リスクの高い事業への融資も行う公的金融機関です。
関連記事:シードステージとは?特有の課題や最適な資金調達手段を紹介
具体的な資金調達先
・Gazelle Capital
・ANOBAKA
・ジェネシアベンチャーズ
・インキュベイトファンド
・B Dash Ventures
以下の記事ではStartupListで独自取材したシードラウンドを対象とするVCの特徴や投資判断のフローに関して、詳しくまとめているので、さらに深く理解したい場合にはご一読ください。
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投資家の判断基準(エンジェル〜シードラウンド)
投資家がエンジェル〜シードラウンドのスタートアップ企業に投資するか判断する上で重要な点としては、
①起業家の人間力(人柄、過去の実績、事業、野心、仲間を巻き込む能力)
②市場の切り口
が挙げられます。
シードラウンドに関しては、以下の記事により詳しくまとめられているので、さらに深く理解したい場合にはご一読ください。
【関連記事】
シードラウンドとは?資金調達手法や特徴、基準、投資ラウンドを紹介
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StartupListでは、投資家の投資レンジや評価基準、
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現在、登録済のベンチャー企業は8,500社以上、投資家数は3700名以上。
プレシリーズA
事業段階
プレシリーズAは、シードラウンドで定められたビジネスを開始し、プロトタイプを実際にユーザーに試してもらい、顧客からのフィードバックをもらいながら、製品サービスを改善している段階です。
ユーザーの反応を見て、実際に自社の製品サービスが市場で受け入れられるかを判断しなければなりません。
プレシリーズAを乗り越えられるかが、会社と事業の存続をになっており、企業や事業にとって、このラウンドが勝負のラウンドとなることが多いです。
調達金額・期間
プレシリーズAでは、実際にビジネスを開始しており、ユーザー、市場の反応を見て製品サービスの改善を進めなくてはならず、
また事業を認知、拡大させなくてはならないため、エンジェルラウンド、シードラウンドと比べある程度の運転資金が必要になります。必要になってくる費用としては、
・製品サービスを開発するための設備への投資
・研究開発費用
・マーケティング費用
・人件費
が発生する可能性があります。資金調達金額の相場は、5,000万〜1億円となります。調達までに必要な期間としては、数ヶ月が必要となってきます。
資金調達先
プレシリーズAでの資金調達としては、主に以下の2つが挙げられます。
・VC
・株式投資型クラウドファンディング
具体的な資金調達先(VC)
・XTech Ventures
・ANRI
・Coral Capital
・JAFCO
投資家の判断基準
プレシリーズAの投資家が重視する点は、
・プロダクトが実際にユーザーに使われているか
が挙げられます。
α/β版の製品サービスをユーザーに使用してもらい、その登録率、継続率、解約率、満足度などを定量的に測り数字として投資家に示すことで、投資家に好印象を与えることができます。
シリーズA
事業段階
シリーズAは、プレシリーズAを通して、市場で受け入れられることを検証できた自社の製品サービスをより多くの人に使ってもらうため、
ユーザーを増やし、売上を拡大する段階です。マーケティングを積極的に行い、企業の認知及び、ユーザーの獲得をしていきます。
調達金額・期間
シリーズAでは、ユーザーの獲得を積極的に行っており、それに伴い、製造ラインの拡充や営業やマーケティングを行う人材が必要になります。
そのため、必要となってくる費用としては、
・マーケティング費用
・人件費
・製造ライン拡大に伴う設備投資費用
が発生する可能性があります。資金調達金額の相場は、数億円となります。調達までに必要な期間としては、半年が必要となってきます。
資金調達先
シリーズAの資金調達先としては、主に以下の2つが挙げられます。
・VC
・CVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)※6
※6 CVCとは、本業は投資とは別にある事業会社が、自社の事業とのシナジーを期待して、投資を行う組織のことを指す。
VCが純粋なキャピタルゲイン(株式の売買時と購入時の差額による利益)を目的としており、事業とは独立しているのに対して、
CVCは事業会社の資産で運営されており、自社事業とのシナジーを主な目的として行われている。
シリーズAに関しては以下の記事により詳しくまとめられているので、さらに深く理解したい場合にはご一読ください。
【関連記事】
シリーズAとは?資金調達における特徴や調達先、投資ラウンドを紹介
シリーズB
事業段階
シリーズBは、自社製品・サービスが市場で評価され、ユーザーが増え、事業が軌道に乗り始めた段階です。
シリーズBでは、さらに売上を伸ばすために、新規顧客の開拓や、さらなる顧客体験の向上が行われます。
また、創業者や投資家が投資資金の回収を行うイグジット(上場やM&Aによって利益を得ること)の時期が近づくため、黒字化することが求められます。
調達金額・期間
シリーズBでは、さらに売上を伸ばすために、新規顧客の開拓や積極的な販売促進が行われます。
また、優秀な人材を確保したり、顧客体験の向上を目的とした製品サービスの機能拡充のために、研究開発も同時並行で行われるため、必要とされる資金が多くなります。
そのため、ラウンドBでは、数億〜数十億円が資金調達金額の相場となります。資金調達までに必要な期間は、投資金額が大規模なため審査が長期にわたるため、半年以上かかります。
資金調達先
シリーズBでは、事業が安定し、社会的信用度が高まったことにより、審査が厳しい方法でも調達できるようになります。
シリーズB資金調達先としては、主に以下の3つが挙げられます。
・VC
・金融機関からの融資
・補助金・助成金
シリーズB以降は調達金額が大規模になってくるため、複数のVCなどからの調達となることが多くなります。
シリーズC以降〜
事業段階
シリーズC以降は、事業が安定し、黒字経営がコンスタントになってきた段階です。
シリーズC以降では、上場やM&Aなどによるイグジットを意識する段階です。また、事業の多角化や海外進出などを狙う段階でもあります。
調達金額・期間
シリーズC以降では、事業の多角化や海外も含めた事業規模の拡大を進める企業もあります。資金調達金額の相場は、数十億〜数百億円となります。
調達までに必要な期間としては、シリーズB同様、審査が長期にわたるため、半年以上を必要とします。
資金調達先
シリーズC以降では、数十億〜数百億円ととても高額な資金を短期間で調達する必要があるため、シリーズB以前の調達方法に加え、以下の2つの方法が挙げられます。
・株式公開(IPO、上場)
・シンジケートローン ※7
※7 シンジケートローンとは、複数の金融機関が「シンジケート団」と呼ばれる団体を結成し、融資契約書に基づき同一条件で融資を行う資金調達手法です。
資金調達でのリスク
VCや個人投資家から出資されるときには、以下の3点のリスクに注意する必要があります。
・経営権を外部に取られ、経営の自由度が低下するリスク
・投資契約による経営の自由度低下するリスク
・上場できなくなるリスク
経営権を外部に取られ、経営の自由度が低下するリスク
スタートアップ企業は出資を受ける際、資金と引き換えに保有株式の一部を投資家に渡さなければなりません。
この際に注意しなければいけないのが、株式を投資家に渡しすぎてしまった場合、会社の経営に口を挟まれ、起業家の思い通りに事業を進めることができなくなってしまう可能性があります。
出資比率の過半数以上が外部投資家に握られると、経営陣を解任できる権利が外部に渡るため、最悪の場合には経営陣が解任されてしまう可能性があります。
投資契約による経営の自由度低下するリスク
スタートアップ企業が投資家から出資を受ける場合、「投資契約書の締結」を多くの場合求められます。
投資契約書はスタートアップ企業の経営状況等を知るために用いられますが、契約によっては、経営者が経営の舵を取る上で不利となる事前承認条項が盛り込まれている場合があります。
そのため、スタートアップ法務に慣れた弁護士に相談してから契約を締結することが好ましいとされています。
上場できなくなるリスク
投資家の中には、反社会的勢力・反市場勢力に分類される投資家もいます。これらの投資家と関係を持ってしまうと上場が困難になってしまいます。
特に出資者を募りにくい、エンジェル〜シードラウンドで甘い提案に乗ってしまう起業家が多いため、気をつける必要があります。
資金調達のリスクに関しては以下の記事により詳しくまとめられているので、さらに深く理解したい場合にはご一読ください。
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【実例多数】ベンチャー企業が活用すべき資金調達方法ごとの利点とリスク
資金調達を成功させるために必要なポイント
資金調達の際に、以下の2点に気をつけることでより良い資金調達をすることができます。
・自社の事業段階とあった信頼できる投資家から資金を調達する
・先を見越した資金調達を
自社の事業段階とあった投資家から資金を調達する
資金調達の際に、自社の事業段階とあった投資家から投資を受けることで、より短期間で効率的に資金を調達できるだけでなく、ビジネスを行っていく上で必要になってくる人脈や設備、経営的アドバイスなどを受けることができます。
先を見越した資金調達を
基本的に、スタートアップ企業が投資を受ける際、実際に手元に資金を調達できるまで数ヶ月の期間が必要になります。
資金が底ついてしまってから、新しい資金調達先を探しても、すぐには資金を調達することは困難です。
そのため、スタートアップ企業は中長期的に必要になってくる費用を予測し、先を見越した資金調達をする必要があります。
関連記事:VC一覧!シード向けや独立系ベンチャーキャピタルも紹介
まとめ
この記事では、
スタートアップ企業の支援を行うプロトスター株式会社でFounder / Producerを務める栗島さんに投資ラウンドに関するお話をうかがいました。
今回紹介した資金調達における気をつけるべき点や、実際に資金調達する際にどのようなところから資金調達したらよいのかをもとに、自分の会社や事業に合った投資家から資金調達をし、事業の成功を勝ち取りましょう!
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