日本政策金融公庫の創業融資は、これから起業する方や、創業して間もない事業者が、事業に必要な資金を借りるための融資です。売上実績が少ない創業期や、VCから出資を受けたシードのスタートアップも、要件を満たせば利用を検討できます。
代表的な制度が「新規開業・スタートアップ支援資金」です。新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方が対象となります。このうち、創業前または事業開始後税務申告を2期終えていない方は、原則として無担保・無保証人で利用できます。(出典:日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」「創業融資のご案内」)
初めての融資で重要なのは、創業計画書で事業が成り立つ根拠を、代表者経歴で事業を実行できる理由を伝えることです。この記事では、制度の条件から必要な準備、エクイティとの使い分けまで解説します。
監修:松尾慎太郎(プロトスター株式会社 取締役 兼 ファイナンス事業責任者/情報経営イノベーション専門職大学 客員准教授)
- この記事で分かること
- 現在の創業融資制度と、名称変更の経緯
- 限度額7,200万円と、借入希望額の考え方
- 自己資金が少ない場合に整理したいこと
- 申込みに必要な書類
- 創業計画書・代表者経歴と審査面談の準備
- 融資とエクイティの使い分け・進める順番
「新規開業資金」は「新規開業・スタートアップ支援資金」へ名称変更
2025年3月に「新規開業資金」から「新規開業・スタートアップ支援資金」へ名称が変更されました。スタートアップも利用できることを分かりやすくするための改称です。「新創業融資制度」などの旧制度に関する情報と混同せず、現行条件を確認してください。(出典:日本政策金融公庫「名称変更のお知らせ」)
新規開業・スタートアップ支援資金の条件
現行制度の主な条件は、次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 新たに事業を始める方、または 事業開始後おおむね7年以内の方 |
| 資金使途 | 事業に必要な設備資金・運転資金 |
| 融資限度額 | 7,200万円 |
| 返済期間 | 設備資金20年以内、運転資金10年以内 |
| 据置期間 | 上記の返済期間のうち5年以内 |
| 利率 | 基準利率。要件に応じて特別利率などが適用 |
| 担保・保証人 | 個別に相談。ただし、創業前または 税務申告を2期終えていない方は 原則無担保・無保証人 |
| 自己資金 | 一律の最低額・割合は 利用要件として示されていない |
利用には、適正な事業計画を策定し、その計画を遂行する能力があると認められることが必要です。再挑戦支援などでは条件が異なる場合があります。(出典:日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」)
金利は資金使途や返済期間、適用される特例などで異なります。日本政策金融公庫の金利情報で最新の利率を確認してください。
限度額7,200万円と、実際の借入希望額は分けて考える
7,200万円は制度上の上限であり、自社が借りられる金額ではありません。創業期だから一律いくら、自己資金の何倍なら借りられる、という判断はできません。
借入希望額は、「何に、いつ、いくら必要か」から考えます。
必要な金額は業種・業態で変わる
| 事業の例 | 必要資金を整理する際の着眼点 |
|---|---|
| 受託開発・コンサルティング | 納品・入金までに先行する 人件費や外注費 |
| SaaS・Webサービス | 開発費、サーバー費、顧客獲得費と 継続収入の見通し |
| ハードウェア・研究開発 | 試作・設備・製造費と、 販売開始までの期間 |
必要な支出を積み上げ、手元資金、事業からの入金、確定した出資などを踏まえて、融資で賄いたい金額を検討します。未確定の出資や受注は、確定済みの資金・売上と分けてください。
支出が大きければ、その分だけ融資額が増えるわけではありません。希望額を借りた場合の返済負担も確認しましょう。
据置期間中も利息の支払いは必要
据置期間とは、元金の返済を据え置く期間です。通常、この間も利息は支払います。
例えば、返済期間10年・据置期間2年なら、元金を返す期間は残り8年です。総返済期間が同じなら、据置期間を長くするほど返済開始後の元金負担は大きくなります。売上が立つまでの期間と、返済開始後の資金繰りを踏まえて検討しましょう。
自己資金はいくら必要?「何倍まで借りられる」の考え方
現行制度には、一律の最低自己資金要件や、自己資金の何倍まで融資するという基準は示されていません。例えば「1,000万円を借りるなら自己資金はいくら必要か」という質問も、自己資金額だけでは答えられません。(出典:日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」)
ただし、自己資金も計画の判断材料です。公庫は、借入に依存した調達計画になっていないかを確認するよう案内しています。公庫の創業サポートページから「創業計画セルフチェックリスト」を確認できます。
預金残高に加え、給与からの貯蓄、退職金、資産売却など、資金の出所を説明できる資料を準備します。
親族や共同創業者からの資金は、贈与・出資・借入のどれかを明確にしてください。法人では、株主からの出資と役員借入金も区別します。返済が必要な資金は、その返済を含めて計画を立てます。
自己資金が少ない、またはない場合は、初期投資を分割できないか、受注を確保してから支出できないか、出資と組み合わせる必要がないかを検討しましょう。
代表者の経験や受注見込みだけでは現金の不足を補えないため、支出と調達の両面から計画を見直します。
公庫の創業融資に必要な書類
必要書類は、法人・個人の別や創業前後の状況、申込内容によって異なります。主な書類は次のとおりです。
| 書類 | 対象・用途 |
|---|---|
| 創業計画書 | 創業の動機、代表者経歴、事業内容、 資金・収支計画を説明 |
| 履歴事項全部証明書など | 法人の場合 |
| 本人確認書類 | 運転免許証、マイナンバーカードなど |
| 見積書 | 設備資金を申し込む場合 |
| 許認可証など | 許認可が必要な事業で、取得済みの場合など |
| 確定申告書・決算書など | 事業開始後、申告を終えている場合 |
インターネット申込みでは、紙の借入申込書は不要です。提出書類の詳細は公庫の申込案内で確認してください。これに加え、状況に応じて次の補足資料を準備します。
- 状況に応じて用意する補足資料
- 代表者経歴書・実績資料:経験や能力を補足する
- 月別収支計画書・資金繰り表:収益と資金残高の推移を示す
- 預金明細・出資の払込資料:資金の準備状況を説明する
- 契約書・発注書・試算表:売上見込みや足元の業績を裏付ける
補足資料は一律に必須ではなく、公庫からの案内に応じて準備します。計画書の様式・記入例は公庫の書式ダウンロードページで確認できます。
創業融資の審査に向けた4つの準備
創業期は会社としての実績が限られます。そのため、事業の見通しと、それを裏付ける経験・数字・資料を整理することが重要です。
以下は、公庫の創業計画書やセルフチェックリストを踏まえた準備のポイントです。審査の採点順を示すものではありません。
1.創業計画書で、事業が成り立つ根拠を示す
創業計画書には、創業の動機、経営者の略歴、商品・サービス、取引先、必要資金、収支の見通しなどを記載します。様式は公庫の書式ダウンロードページから入手できます。特に具体化したいのは、次の内容です。
| 項目 | 伝えること |
|---|---|
| 創業の動機 | 自身の経験や、顧客のどのような課題を 起点に始めたか |
| 商品・サービス | 誰に、何を提供し、どのように収益を得るか |
| 強み・販売方法 | 顧客が選ぶ理由と、最初の顧客を獲得する方法 |
| 売上・利益の見通し | 単価、顧客数、受注件数、原価、経費の根拠 |
売上予測は、SaaSなら「月額単価 × 契約社数」、受託事業なら「受注単価 × 案件数」のように分解します。市場が大きいという説明だけで、自社の売上が裏付けられるわけではありません。
契約済み・商談中・今後開拓する顧客を分け、売上が発生する時期と確度を示しましょう。SaaSであれば、契約開始時期や解約の想定も反映します。
根拠資料として、契約書・発注書、試験販売の結果、顧客へのヒアリング記録などを必要に応じて添えます。好意的な反応と、実際の契約・購入は区別してください。
2.代表者経歴で、事業を実行できる理由を示す
代表者経歴は、勤務先や在籍年数に加えて、本人が担った仕事・成果と、今回の事業とのつながりを伝えることが重要です。公庫の創業計画書でも、担当業務や習得した技能などを記載するよう求めています。
例えば、「IT企業に5年間勤務」だけでは、何を任せられる人なのかが伝わりません。
記載例:製造業向けの業務システム開発に5年間従事。顧客への要件ヒアリングから開発・導入までを担当した。その経験で把握した現場の課題をもとに、中小製造業向けのサービスを提供する。
上記は架空の記載例です。実際には本人の担当範囲と成果を、事実に基づいて記載してください。
異業種での営業、マーケティング、開発、事業運営の経験も、今回の事業にどう活かせるかを説明できます。職歴が短い場合は、研究・開発、インターン、個人での受注、顧客検証などを整理してください。
不足する経験は、共同創業者や外部パートナーとの役割分担でどう補うかまで示します。経歴欄だけで伝えきれない場合は、代表者経歴書や実績資料を補足します。
3.利益に加え、月ごとの資金繰りを確認する
利益が出る見通しと、その時点まで現金が足りるかは、別々に確認する必要があります。
売上が計画どおりでも、入金が翌々月で、人件費や外注費の支払いが先なら資金が不足する可能性があります。
月別収支計画では売上・費用・利益を、資金繰り表では実際の入金・支払い・資金残高を確認します。元金返済は損益計算上の経費にならないため、利益だけで返済余力を判断しないことも重要です。
給与、社会保険料、外注費、広告費などに加え、税金や借入返済の支払時期を織り込みます。売上や次回調達が遅れた場合に、延期・縮小できる支出も確認しましょう。
4.必要資金・借入希望額・返済計画をつなげる
創業計画書、月別収支計画書、資金繰り表の前提をそろえ、「なぜその金額が必要か」「借入後にどの収入から返済するか」を一つの計画として説明できる状態にします。
法人と代表者それぞれの既存借入も整理し、現在の返済負担を含めて確認します。
面談では、計画と経歴を自分の言葉で説明する
面談の準備では、次の質問に答えられるか確認しましょう。
- 面談で問われること
- なぜこの事業を始め、どの経験を活かせるのか
- 誰に、どのように販売し、売上を見込んでいるのか
- なぜこの金額が必要で、どの収入から返済するのか
- 計画どおりに進まなかった場合、どう対応するのか
専門家の支援を受ける場合も、経営者自身が数字の根拠や事業の背景を説明できるようにしましょう。
創業計画書が完成していなくても、相談を始められます。自社が融資を検討できる段階か、代表者の経験をどう整理するか、必要な準備から一緒に確認できます。
エクイティを検討している会社が、融資を使う理由
通常の融資は、新株発行による株式の希薄化を伴わずに事業資金を確保できる手段です。返済負担を踏まえながら、出資と組み合わせて活用する選択肢があります。
以下はStartupListの融資支援事例です。公庫の本制度に限定した実績や、融資額の相場を示すものではありません。
シード調達後に1,000万円の融資が決定|CONFLICT
株式会社CONFLICT(旧:CLEAR INNOVATION株式会社)は、シードラウンドで3,000万円を調達した後、1,000万円の融資決定を受けました。
株式の希薄化を伴わずに成長資金を確保することに加え、将来を見据えて金融機関との関係を築くことも、融資を検討した理由です。インタビューでは、事業計画の根拠や必要資料を整理した過程を紹介しています。CONFLICTのインタビューを読む
VC調達経験のある経営者が800万円を調達|Algoboa
株式会社Algoboaは、日本政策金融公庫から800万円を調達しました。代表の三池氏は、以前CTOとして関わったAIスタートアップでVC調達を経験しています。
今回は、持株比率の希薄化を伴わずに経営の選択肢を広げることを重視。融資支援を活用し、自身の時間を事業に集中させるという判断も紹介されています。Algoboaのインタビューを読む
融資とエクイティ、どちらから動くべきか
順番は、収益化までの期間と、借入後の返済を見込めるかで考えます。通常の融資と、株式発行によるエクイティ調達の主な違いは次のとおりです。
| 項目 | 融資 | エクイティ |
|---|---|---|
| 返済 | 元金返済・利息の 支払いが必要 |
原則として元金返済・ 利息支払いは不要 |
| 持株比率 | 新株発行を伴わず、 直接の希薄化は 生じない |
新株発行により 既存株主の持株比率が 下がる |
| 検討の軸 | 資金使途と返済を 続けられる計画 |
成長戦略と投資家との 合意・資本政策 |
受託事業などで売上・入金の見通しがあり、返済を見込める場合は、融資を先に検討する選択肢があります。一方、開発や実証に時間がかかり、収益化までの資金が必要な場合は、エクイティとの組み合わせを検討します。
VC調達前から融資の相談を始めても構いません。出資後に申込みを進める場合も、出資金の使途と融資で賄う支出を整理しておくと、資金計画を説明しやすくなります。
出資実績があっても融資が保証されるわけではありません。また、次回のエクイティ調達が予定どおり決まることだけを前提にせず、調達が遅れた場合の資金繰りも確認してください。
よくある質問
Q.売上がなくても、創業融資を検討できますか?
A.創業前も対象のため、売上がないことだけで対象外になるわけではありません。ただし、融資には審査があります。開発や顧客獲得の進捗、売上が立つまでの必要資金、返済の見通しを説明できるよう準備しましょう。(参考:日本政策金融公庫「創業企業を支援」)
Q.公庫に直接申し込むこともできますか?
A.できます。公庫はインターネット申込みや事前相談を受け付けており、支援会社の利用は必須ではありません。準備に使える時間や必要なサポートに応じて、自社で進めるか、専門家の支援を利用するかを選べます。(参考:日本政策金融公庫「お手続きの流れ」)
Q.申込みから融資実行まで、どのくらいかかりますか?
A.基本的な流れは、事前相談・計画と書類の準備、申込み、面談・審査、融資決定・契約、入金となります。
公庫は、申込みから融資決定までの平均所要日数を2〜3週間程度と案内しています。ただし、条件や混雑状況などによって長くなる場合があります。(参考:日本政策金融公庫「よくあるご質問」)
この日数には、申込み前の準備期間や、決定後の契約・入金までの期間は含まれません。資金が必要な日から逆算して、早めに相談しましょう。
初めての融資、必要額と準備することから相談できます
創業計画書や借入希望額が固まる前でも、ご相談いただけます。StartupListを運営するプロトスターは、スタートアップの融資とエクイティの双方を踏まえ、次の内容を一緒に整理します。
- ご相談いただける内容
- 現状で検討できる融資と、申込みに向けた準備
- 創業計画書・代表者経歴で伝えるべき強み
- 借入希望額・資金使途・返済計画
- エクイティとの組み合わせ方や進める順番
融資支援は着手金0円・完全成功報酬。事業計画の作成支援や面談シミュレーションを通じて、経営者ご自身が事業と資金計画を説明できるようサポートします。
「自社は融資を検討できる段階か」というところから、現在の状況をお聞かせください。
※支援内容・料金の詳細はサービスページをご確認ください。融資の可否・金額・条件は、金融機関の審査により決定されます。
エクイティでの調達も検討する場合は、StartupListで投資家を探せます。StartupListには1万社以上のスタートアップと3,000名以上の投資家が登録しており、条件で絞り込んで直接オファーを送れます。
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この記事の監修者
松尾慎太郎(プロトスター株式会社 取締役 兼 ファイナンス事業責任者/情報経営イノベーション専門職大学 客員准教授)
スタートアップを中心に、創業融資をはじめとする融資と、エンジェル投資家・VC・CVC・事業会社からのエクイティによる資金調達を支援。起業家と投資家をつなぐ「StartupList」の運営に携わり、資金調達戦略の策定、投資家紹介、資本政策の検討まで伴走する。創業期の資金調達からM&Aまで、事業フェーズに応じた戦略の策定と実行を一貫して支援。
本記事で紹介した融資支援事例にも、支援担当者として登場しています。



