「資金調達したい。エンジェル投資家に投資をお願いしよう。」
「エンジェル投資家」という言葉が比較的一般的になってきたこともあり、そのように考える起業家が増えています。
資金繰りに悩まされる創業間もない企業。
そこに救世主として手を差し伸べる存在が「エンジェル投資家」です。
エンジェル投資家とは、創業間もない企業に投資をする個人投資家です。
若手起業家は実績や業績のないことから、金融機関に断られてしまうケースが多いことが知られています。若手起業家がスタートアップやベンチャーを始めるとき、『まずはエンジェル投資家に投資をしてもらおう』と考える人が増えてきています。
しかし、個人投資家とどこで出会えるのか、どのように対策すれば出資をしてもらえるようになるのか、そもそも安全なのかも気になりますよね。
本記事では、エンジェル投資家はどのような存在なのか・出会い方・出資してもらう方法、そして知っておくべきエンジェル投資家の恐ろしい裏の顔を分かりやすく解説します。
前川英麿さん 監修 プロトスター株式会社 代表取締役CEO 早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。エヌ・アイ・エフSMBCベンチャーズ株式会社(現、大和企業投資株式会社、SMBCベンチャーキャピタル株式会社)に入社し、ベンチャーキャピタルに従事。その後、常駐のターンアラウンド支援に特化したフロンティア・ターンアラウンド株式会社を経て、2015年スローガン株式会社に参画。投資事業責任者としてSlogan COENT LLPを設立し、執行役員カンパニープレジデント就任。2016年11月に挑戦者支援インフラを創るべくプロトスター株式会社を創業。 |
エンジェル投資家とは?
エンジェル投資家は個人投資家
エンジェル投資家とは、創業間もないスタートアップ企業やベンチャー企業に対して投資をする個人投資家のことです。
金銭面だけでなく、経営のノウハウの伝授や広い人脈を活かしたサポートなど、起業家に対し様々な援助をします。
なぜ起業家はエンジェル投資家に頼むのか
創業間もない企業では、実績や業績、社歴がないことから銀行から融資を受けられない、VCから投資を断られてしまう場合がほとんどです。
資金調達が困難な若手起業家にとってエンジェル投資家は、資金調達の重要な役割を果たします。
資金援助以外にもエンジェル投資家は元起業家である人が多いこともあり、経営のアドバイスや人脈づくりに積極的に支援してくれる人も多いです。
経営経験や人脈の少ない起業家にとっては、様々な点で手助けをしてくれる救世主、まさに”エンジェル”と言えます。
エンジェル投資家とVCの違い
エンジェル投資家は創業間もない企業に投資をする個人投資家で、投資額は100万〜2,000万円、資金援助以外にも経営の助言をするなど新たな起業家を応援したい想いで活動している人が多いです。
一方で、VC(ベンチャーキャピタル)は未上場のスタートアップに投資する投資会社で、投資額は1,000万〜数億円、中には数十億円になる場合もあります。未上場のスタートアップを上場(IPO)させることで購入時よりも上昇した株価の差分(キャピタルゲインといいます)を得ることを目的にしています。
なぜエンジェル投資家は投資するのか
エンジェル投資家は出資する代わりに投資先の企業の株式を取得します。
最終的な投資の目的・ゴールは、投資先の企業が上場し、IPO(新規公開株)による売却益です。この点はVCと同じと言え、基本的にこの目的で活動しているエンジェル投資家がほとんどです。
しかしエンジェル投資家の中には、IPOによる売却益以外に、株主として経営に関わり、経営者・起業家として知見を広めたい、若手起業家を応援したい・支援したいと考え、投資をしている方も多くいます。
エンジェル投資家の中には、かつて起業家として資金調達に悩んだ経験をしている方も多いです。そのため、自身の経験や経営のノウハウ、広い人脈を活かして、同じ困難を抱える若手起業家を応援したいと思うエンジェル投資家も少なくないです。
関連記事:エンジェル投資家が狙うリターンを紹介!ハイリスクハイリターン?
”良い”エンジェル投資家とは?
起業家と程よい距離感
エンジェル投資家は先述の通り資金支援を前提としていますが、資金援助以外にも経営のノウハウやナレッジを共有して手助けをしてくれる方も多くいます。その手助けが過剰になると経営に支障をきたす場合があります。起業家と程よい距離感で支援してくれるエンジェル投資家が理想です。
相性がいい・ちゃんと時間をかけてくれる
エンジェル投資家は個人投資家なので、投資家と起業家は1対1の関係で距離が近くなります。価値観が近く話しやすい、同じ方向性を向いて経営ができる、投資家との会話が負担にならないなど、経営を進める上で投資家との相性は重要です。
またエンジェル投資家は、自らも起業家・経営者である場合が多いので、日々忙しくしています。その限られた時間の中でも起業家に寄り添って経営を考えてくれるエンジェル投資家が理想です。
会社の成長後、新たなVC・投資家を紹介してくれる
エンジェル投資家は創業間もない企業に対して、100万〜2,000万円の投資をして資金援助および経営の手助けをしてくれます。
しかし、企業が成長するにつれて、資金が数億円必要になります。そこで広い人脈を用いて、VCや別の投資家を紹介してくれるエンジェル投資家は、起業家が事業を発展させていくうえでとても重要な立場です。また、営業先を紹介してくれることもあります。
成長する上で、より多くの出資をしてくれる上記を紹介する架け橋を担ってくれるエンジェル投資家が理想です。
”悪い”エンジェル投資家(ダークエンジェル)とは?
起業家に不利益な投資契約を押し付けてくる
エンジェル投資家は起業家に出資する代わりに、企業の株式を取得します。
株式の持分比率は株主総会での議決権行使に直結するので、持ち株比率が会社の支配権に影響します。エンジェル投資家の持ち株比率が多くなると会社の支配権が強くなり、最悪の場合経営権を失うこともあります。
中には、起業家の株式の無知に付け込んで起業家を騙し、経営決定権を奪うケースもあります。
エンジェル投資家と投資契約をする際は、株式を渡し過ぎないよう注意しましょう。相場として、株式の譲渡は数%、多くて10%です。安心して経営するには、少なくとも持ち株比率を2/3以上であることが重要です。エンジェル投資家の契約内容のエンジェル投資家の持ち株比率が妥当であるかどうかは、周りの起業家や投資家、VCに相談して確認するようにしましょう。起業家自身も投資に関して最低限のファイナンス知識は持っておくことが重要です。
経営に介入してくる
エンジェル投資家は資金援助をする代わりに会社の株式を取得し、株主になります。株主なので経営に対してアドバイスや意見を述べる権利がありますし、起業家は株主に対してある程度丁寧に対応する必要があります。しかし中には過度に口を出す人もいます。過度な口出しは起業家が事業を進めるのに支障が出かねないです。過度に口出しをしてくるエンジェル投資家なのか、あらかじめそのエンジェル投資家の情報を仕入れておく必要があります。
時間をかけてくれない
エンジェル投資家の中には、投資だけしてくれてサポートやアドバイスを全くしてくれない方もいます。実際に起業の段階で、「サポートをしてもらいながら起業」と聞かされていたのにも関わらず、起業した後には他の事業を手伝う中で覚えるよう言われ、エンジェル投資家からのアドバイスも人脈紹介もなかったといいます。サポートもアドバイスもないエンジェル投資家は起業家思いでなく、起業家にとって不利益を与える可能性があります。
エンジェル投資家を装う反社会的勢力
エンジェル投資家を装ってスタートアップ企業に投資をする反社会的勢力がいます。一度関係を持ってしまうと、従業員が去ってしまう、株主や投資家の信頼を著しく損なう、IPOが出来なくなるなど、起業家がそれまでに築き上げてきたすべて、最悪の場合会社そのものも失うことも考えられます。
上場を目指すスタートアップの経営者であれば、自ら進んで反社会的勢力と関わりを持つ人はいないでしょう。
しかし実際には、反社会的勢力と知らずに投資を受けてしまうどころか、リスクを正しく理解しておらず、反社会的勢力と知りながらも投資を受けてしまうスタートアップ企業も少なくありません。
反社会的勢力と関係を持ってしまうと、起業は成功しません。エンジェル投資家に限らず投資を受ける際には必ず、取引相手が反社会的勢力なのかそうでないかを確認することが必要です。
確認方法は、信頼できる起業家や投資家、反社の情報に詳しい調査会社・人などにヒアリングをすることが有効な手段です。しかし、有名な投資家であっても反社会的勢力に関わりを持ってしまっているケースもあり、自分自身でエンジェル投資家の評判を調査することも重要です。
関連記事:エンジェル投資家とマッチングするには?おすすめ方法4選と落とし穴
エンジェル投資家から投資を受ける3つのポイント
エンジェル投資家を見つける
まずはエンジェル投資家を見つけて出会うことから始まります。次の章で詳しく述べますが、出会う方法として最適なのが、「紹介してもらう」ことです。信頼できる起業家や投資家、VCからの紹介がいいでしょう。他には専門のマッチングサイトの利用やセミナー・ビジネスコンテストに参加するなどが挙げられます。普段出会うことのできないエンジェル投資家とのコンタクトのチャンスをつかみましょう。
ビジネスプランをアピールする
エンジェル投資家に出会った後は、ビジネスプランの魅力を最大限伝え、魅力に思ってもらわないといけません。そのためにも、事業計画や資金調達の計画など詳しく掘り下げて、整理をしておく必要があります。
起業家本人の「魅力」・「熱意」を伝える
エンジェル投資家は、出資する企業からのリターンが最大の目的ではありますが、実績や業績のない起業家に対して「支援したい」・「応援したい」という想いから投資するケースもあります。
起業家本人の「魅力」・「熱意」は、出資する決断に大きく関わります。エンジェル投資家が支援したいと思う人物像は何かを考え、ビジネスに対する熱量を伝えることが重要です。
エンジェル投資家との出会いは?
直接紹介してもらう
信頼できる起業家・投資家・VCが人脈にいれば、直接紹介してもらうことが最適です。
信頼できる人の紹介であれば、起業家・投資家の両者とも少なからず安心を得ることができます。また、信頼できる人の紹介であれば、「この人が言うのだから投資しよう」と投資の確率も上がることがあります。
しかし、信頼できる起業家・投資・VCであっても、見誤っている場合もあります。起業家は、自らの目で投資家を見定めるリテラシーが求められます。
マッチングサイトへの登録
エンジェル投資家に出会うためには、起業家と投資家をマッチングさせる専門サイトを利用する方法があります。専門のマッチングサイトを利用することで、起業家・投資家双方のミスマッチを減らすことができます。
しかし、マッチングサイトの中には投資家の審査が厳正でなく、怪しい投資家も登録されているサイトもあります。起業家は、直接紹介してもらう場合と同様に自らの目で投資家を見定めるリテラシーが求められます。
起業家とエンジェル投資家とのマッチングサイトの代表例は次の通りです。
【ANGEL PORT】
URL ANGEL PORT - スタートアップとエンジェル投資家のコミュニティ (angl.jp)
ポイント
エンジェル投資家と起業家のマッチングサイトで、エンジェル投資家に注力したマッチングサービスです。
【Founder】
ポイント
日本最大級の起業家・エンジェル投資家マッチングサイトです。起業家はサイト上で完全無料で全国に会社のPRが可能で、その情報を読んだエンジェル投資家からメッセージを受け取ってマッチングできるサービスです。
※【StartupList】
URL 国内最大級の起業家・投資家マッチングサービスStartupList
ポイント
国内最大級の起業家・投資家の情報検索サービスです。起業家はかなり厳しい審査を通過した優良な投資家を調べることができ、同様に投資家も起業家を検索することができ、最適な形の一期一会を提供するサービスです。
※かなり厳重な審査を行う、優良起業家・投資家マッチングサービス
エンジェル投資家ではなく、VC・CVCとマッチングできるサービスです。
イベント・ビジネスコンテスト・ピッチへの参加
エンジェル投資家の多くは個人投資家で、常にアンテナを張って起業情報を収集します。そのため、スタートアップ企業・ベンチャー企業が集まる交流会やセミナー、ビジネスコンテストに登壇者、審査員で参加している方も多いです。
【Venture cafe tokyo】
URL ベンチャーカフェ東京|Venture Café Tokyo (venturecafetokyo.org)
【TORYUMON】
URL TORYUMON ONLINE|未来は、起業家に学べ。 (studio.site)
※【StartupListピッチ】
URL 国内最大級の起業家・投資家マッチングサービスStartupList
※エンジェル投資家ではないですが、VC担当者と会うことができます。
直接連絡してアポイントメントをもらう
エンジェル投資家とFacebookやTwitterといったSNSで直接DMを送って、アポイントメントを取るのもいいです。
しかし、エンジェル投資家にとっては同じような資金援助のDMがたくさん来ているので、返信すら来ないと思った方がいいでしょう。フォロワー数が多くいることや、自身の業績に関する記事のURLを貼るなどの、エンジェル投資家の目に留まる工夫も必要です。
名前の分かる著名なエンジェル投資家に限られてしまいますが、彼らから投資をしてもらえなくとも、彼らの広い人脈から別の相性のよいエンジェル投資家を紹介してもらえる可能性もあります。
エンジェル投資家5名
ここでは、エンジェル投資家として有名な方・実績のある方を紹介します。
青柳 直樹 氏
Naoki Aoyagi @メルカリ(@naoki)
ドイツ証券投資銀行部門を経て、グリー株式会社に入社。10年ほどグリーの取締役を努めた後、グローバルでの金融およびテック業界の知見を活かして、メルペイ代表取締役を歴任し、現在はメルカリ取締役、株式会社メルコイン代表取締役 CEOを兼任しています。
川田 尚吾 氏
川田尚吾(@shgk)
マッキンゼーでコンサルティング経験を3年経験し、マッキンゼーの同僚であった南場智子氏(現 株式会社DeNA 代表取締役会長)とDeNAを共同創業。現在はエンジェル投資家として活動し、日本のITやTech分野を支援しています。
投資サイズは一社当たり1,000万円未満〜数千万円。株式のシェアは5〜10%としています。
有川 鴻哉 氏
アリコ―(@ari_kou)
女性向けメディア「MERY」を運営する株式会社ペロリの創業メンバー。2017年に株式会社Hotspringを創業。
投資方針は基本的にサービスよりも起業家自身を重視されています。
投資サイズは一社当たり100〜500万円。
小泉 文明 氏
小泉 文明/Fumiaki Koizumi(@Koizumi)
2007年までmixiにて取締役執行役員CFOとしてコーポレート部門全体を統轄し、退社後にはいくつかのスタートアップ支援をしたのち、2013年12月株式会社メルカリに参画。メルカリ取締役President(会長)と株式会社 鹿島アントラーズ・エフ・シー代表取締役社長を兼任しています。
有安 伸宏 氏
有安 伸宏(@ariyasu)
ユニリーバ・ジャパンを退社後、2007年にコーチ・ユナイテッド(サッカー指導者向けサイト)を創業。2013年に全株式を主要株主のクックパッドに売却。2015年にTokyo Founders Fund(TFF)を8人の起業家と共同設立。
投資サイズは、年間15社、毎月1〜2社投資、一社当たり500〜5,000万円。
関連記事:エンジェル投資家8選!有名人や女性個人投資家を紹介
エンジェル投資家と出会う前の準備
ビジネスプランと起業家自身の人物像の深い理解
エンジェル投資家に出資してもらうためには、ビジネスプランと起業家自身を「魅力」だと思ってもらう必要があります。エンジェル投資家にその魅力を伝えるためには、まず起業家自身が事業内容や起業家本人について深く理解しておく必要があります。
自分と本当に相性がいいのか
エンジェル投資家に対して、資金調達を求めるのは前提条件としてありますが、先述の注意点にもありましたが、アドバイスの域を超えて経営権が握られてしまうケースもあり、エンジェル投資家と起業家の距離感や相性がとても重要になります。
エンジェル投資家が本当に自分と合っているのか、自分に対して良い効果を与えてくれるのかを慎重に見極めましょう。
実際にMVPを作る
起業家が事業計画書を入念に練っても、熱量を持って取り組んでいたとしても、口頭だけの説明では熱意が伝わりにくいことがあります。
起業家の事業の魅力度・事業に対する熱意を投資家に伝えるためには、実際にMVP(Minimum Viavle Product)を作りましょう。
MVPとはユーザが価値を感じることができる最小限の製品・サービスのことです。
事業計画書であってもピッチであっても口頭の説明だけでは、投資家に真に理解してもらうことは難しいです。実際に製品サービスを見てもらい使ってもらいながら、価値や魅力を伝えるとより効果的と言えます。同時にMVPを作る行動は、起業家が口先だけではなく行動を起こしていける人物・事業に対して熱意がある人物であることの根拠となり、人物像の魅力も伝えることができます。
関連記事:MVP開発とは?リーンスタートアップに基づく新規事業開発を紹介
まとめ
エンジェル投資家の存在を知り、出会い方を知り、実行に移して資金調達の幅を広げる。エンジェル投資家から投資を受けるのは創業間もない時期で、企業には次の成長ステップがあります。
企業の今後の成長につなげるために、企業にとってエンジェル投資家は次のステージに進むための重要な懸け橋の存在であると考え、慎重に時間をかけて調べて最高のマッチングをしましょう。
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画像出典元:ODAN,pixabay,Unsplash home