コンバーチブルエクイティとは、有償新株予約権を発行することで資金調達を行う方法です。
転換社債と異なり、返済の必要がなく利息の支払いがありません。
新株予約権の発行時に企業価値の評価を行わないので、創業期のスタートアップ企業であっても資金調達が可能です。
しかし、アメリカから日本に入ってきたばかりの資金調達方法ですので、認知度はまだまだ低く、特徴がよくわからない人も多いと思います。
本記事では、コンバーチブルノートとの違いに触れながら、コンバーチブルエクイティを解説します。
コンバーチブルエクイティは、有償新株予約権を発行することで資金調達を行う方法です。
創業期のスタートアップ企業であっても資金調達が可能です。
本記事では、コンバーチブルエクイティの特徴やコンバーチブルノートとの違いを解説します。
コンバーチブルエクイティとは?
新株予約権を発行する資金調達方法
コンバーチブルエクイティとは、将来的に株式の交付を受けられる新株予約権を有償で発行することで資金調達を行います。
株式に転換されるため、返済が不要で利息の支払いもありません。
投資家は将来的に権利を用いて株式を獲得することができ、キャピタルゲインを狙うこともできます。
アメリカでAdeo Ressi氏が提唱したのが始まり
2012年にスタートアップ企業向けのメンタリングプログラム「Founder Institute」を運営するAdeo Ressi氏が提唱しました。
同氏によれば、それまでスタートアップ企業の有力な資金調達方法は転換社債でした。
しかし、転換社債はあくまで社債。それではスタートアップ企業が債務超過に陥るリスクがあります。
そこで、返済の必要のないコンバーチブルエクイティを提唱しました。
会計上の処理
コンバーチブルエクイティは新しい資金調達方法であり、出資側の会計上の処理方法が定まっていません。
新株予約権ですので、BS上の評価は投資有価証券となります。
「簿価で計上した新株予約権をいつ評価するのか」、「減損処理の必要があるのか」については各監査法人の判断次第です。
J-KISS型新株予約権とは?できること
J-Kissの”Kiss”とは、「 Keep It Simple Security」の略称であり、手軽な資金調達という意味を持ちます。
“Kiss”は、アメリカで活用されている有償新株予約権による資金調達を指します。
J-Kissとは、日本版Kissであり、ベンチャーキャピタルのCoral Capitalが日本の法規制の下で利用できるように調整し、無償公開している日本語版の投資契約書です。
弁護士や税理士監修の上で作成されているので、法的課題をクリアしているのが特徴です。
このため、投資契約に関する交渉を大幅に削減しスタートアップ企業と投資家の取引コストを極限まで減らしています。
有償新株予約権は転換社債ではないので、債務超過となりません。返済の必要がないというメリットがあります。
この投資契約書を使えば、弁護士費用は不要で簡単かつ安価な資金調達が可能です。
かかるのは、登記費用のみとなっております。
投資契約書を締結する際には「新株予約権の数」「1個当たりの払込金額」といった事項について交渉します。
コンバーチブルエクイティに関連する用語
コンバーチブルエクイティについて理解するために、関連する用語の理解が必要です。
コンバーチブルエクイティを説明する際に使われる関連用語を説明します。
コンバーチブル・デット方式
コンバーチブル・デットとは、転換社債のことです。
コンバーチブル・デット方式とは、転換社債で資金調達を行うことを指します。
社債の元本については通常の社債発行と同様に行われるので、発行と同時に資金調達が可能です。
コンバーティブルボンド(新株予約権付社債)
新株予約権を付与された社債を指します。
株式に転換してキャピタルゲインを獲得できる、というメリットがあります。
通常の社債よりも利回りが低い点も発行企業にとってメリットです。
バリュエーション(企業価値)
企業の価値を算定・評価することです。
評価された企業価値は、資金調達の時に投資家やベンチャーキャピタルの重要な判断材料になります。
スタートアップ企業は売上高が低く、実績が少ないので利益ベースで企業価値を評価することは難しいと言われています。
新株予約権
発行した会社に対して権利行使することで、その会社の株式の交付を受けられる権利です。
例えば、1,000円の新株予約権を保有している時に株価が2,000円に値上がりしていれば差額の1,000円の利益を獲得できます。
コンバーチブルエクイティとコンバーチブルノートの違い
有償新株予約権による資金調達を指すコンバーチブルエクイティに対して、
コンバーチブルノートとは転換社債による資金調達のことを指します。
どちらもスタートアップ企業に人気の資金調達方法ですが、どのような違いがあるのでしょうか。
資本か負債か
コンバーチブルエクイティは負債ではなく、資本です。
貸借対照表では資本として計上されます。
一方でコンバーチブルノートは転換社債ですので、発行企業にとって負債となります。
ただし、権利行使を受けて株式に転換されると負債が減少し、純資産が増加します。
返済の必要性
コンバーブルエクイティは資本ですので、返済の必要がありません。
発行企業は負債を負うことなく、資金調達が可能です。
一方でコンバーチブルノートは転換社債、つまり負債ですので返済の必要があります。
定期的に利子を支払い、満期を迎えると額面を償還しないといけません。
極端な話、満期を迎えた時点で返済を求めることで次の資金調達を前にしてスタートアップ企業を乗っ取ることも可能です。
滅多にありませんが、発行企業はリスクを抱えることになります。
コンバーチブルエクイティの種類
アメリカで発展した契約形態を参考にして、日本国内のニーズに応える形で独自に発展し、いくつかの種類が誕生しています。
新株予約権付社債(ゼロクーポン・無担保永久劣後債型)
転換社債から満期・利息を除いたものですので、一般的な有償新株予約権に分類されないこともあります。
しかし、簡易的な企業価値評価で済むと同時に利息の支払いがありません。
貸借対照表上では負債に分類されます。
無議決権種類株式方式コンバーティブル・エクイティ
無議決権ですので、キャピタルゲインや配当は受けられますが議決権は制限されています。
払込金額は貸借対照表で純資産計上され、返済の必要がありません。
ただし、種類株なので定款の変更が必要になり、株主総会開催費用がかかります。
みなし優先株式方式コンバーティブル・エクイティ
発行する株式を普通株式とする簡易的な方法です。
種類株の発行がなく、通常通り普通株式を発行する手続きで済みます。
日本では投資家が普通株式で投資することが多く、日本の現状に即したコンバーティブル・エクイティと言えます。
有償新株予約権型コンバーティブル・エクイティ
現在では最もメジャーな種類であり、J-KISSの投資契約書もこの種類を想定しています。
資金調達の金額は新株予約権の発行の時に払込金額として処理します。
投資契約書のフォーマットがあるので、発行手続きが簡単で、株主総会も不要ですので、余計なコストもかかりません。
コンバーチブルエクイティによって解決すること
コンバーティブルエクイティが登場したことで、スタートアップ企業の資金調達にどのような変化があったのでしょうか。
創業期に資金調達が可能
従来、資金調達をするためには適切な企業価値の評価が必要でした。
企業の売上高や利益をベースに実施された企業価値を参考にして、投資家やベンチャーキャピタルは投資の可否を決定します。
業歴が浅く、利益が出ていないスタートアップ企業の場合、革新的なビジネスアイデアを持っていても企業価値の評価が困難でした。
仮に資金調達に成功しても投資家が企業価値を保守的に見積もることで、株価を安価で持っていかれる会社もあります。
コンバーティブルエクイティでは資金調達時ではなく、シリーズAなどのラウンド時点で企業価値評価を行うため、創業期に資金調達ができます。
返済が利益を圧迫しない
従来、スタートアップ企業の資金調達として人気であった転換社債では、返済の必要があります。
一定期間利息を支払い、満期に額面で償還する必要があるのです。
創業間もないスタートアップ企業は、利益に余裕がなく、返済に追われることも珍しくありません。
コンバーティブルエクイティでは、新株予約権を発行するので、返済の必要がありません。
コンバーチブルエクイティによる資金調達の注意点や問題点
メリットの多いコンバーティブルエクイティですが、注意点や留意点もあります。
投資家に税制面のメリットが少ない
投資家がスタートアップ企業に投資すると、投資時点と売却時点で税制上の優遇が受けられます。
しかし、コンバーティブルエクイティはエンジェル税制の対象外です。
優遇を受けたい投資家にとって魅力の少ない投資対象になるでしょう。
対応可能な専門家が少ない
コンバーティブルエクイティは、2012年にアメリカで誕生した新しい資金調達方法です。
日本では、活用事例が少ないため、対応可能な専門家も限られています。
弁護士を探すために労力と時間が必要になるかもしれません。
法的リスクの存在
新株予約権も有価証券の一種です。
したがって、新株予約権を50名以上の投資家に配分する場合、有価証券報告書の提出が義務付けられています。
提出を怠ると、金融商品取引法違反となります。
コンバーチブルエクイティがシード期の資金調達に適切なのはなぜ?
コンバーティブルエクイティが、立ち上げの準備期間であるシード期の資金調達として適切な理由はなんでしょうか。
厳正な企業価値評価が不要
資金調達の時には企業価値の評価が必要になります。
算定された企業価値を判断基準として、投資家が投資の可否を決めるのです。
業歴の浅いスタートアップ企業は企業価値評価が難しいという課題がありました。
しかし、コンバーティブルエクイティでは、企業価値評価を先送りできます。
迅速な資金調達ができる
シード期には、事業開発の状況に合わせて迅速な資金調達が必要です。
コンバーティブルエクイティは、企業価値評価が不要で、発行手続きもJ-KISSのフォーマットを流用できます。
株主総会の開催も不要ですので、迅速な資金調達が可能です。
発行コストが低い
シード期のスタートアップ企業は十分な資金力がありません。
有償新株予約権の発行には株主総会の開催が不要です。
権利の行使を受けても株式の発行に多くの工数が必要ありません。
結果として、発行コストが低く済みます
コンバーチブルエクイティによる資金調達事例
実際に日本国内でコンバーティブルエクイティによって資金調達に成功した事例を紹介します。
GROOVE X
次世代家庭用ロボットを開発するGROOVE Xは、シード期に製品発表や開発費用及びマーケティング費用への活用を目的にコンバーティブルエクイティによる資金調達を行いました。
【会社HP】https://groove-x.com/
SPACE WALKER
有翼式再使用ロケットの開発を行うSPACE WALKERは、コンバーティブルエクイティによって5.25億円の資金調達に成功しました。
宇宙事業は正確な企業価値評価の難しいという課題がありましたが、簡易企業価値評価のみで資金調達ができました。
【会社HP】https://space-walker.co.jp/
スマートラウンド
起業家と投資家のためのプラットフォーム smartroundを手掛けるスマートラウンドはプロダクト開発と事業開発を目的として、コンバーティブルエクイティによる1.5億円の資金調達を行いました。
【会社HP】https://jp.smartround.com/
まとめ
コンバーティブルエクイティは創業期のスタートアップ企業でも活用できる画期的な資金調達方法です。
日本では活用事例が少ないので、相談実績のある弁護士などの専門家にアドバイスを求めましょう。
自社に合ったVC・投資家を効率的に見つけませんか? StartupListでは、投資家の投資レンジや評価基準、過去の経歴等から
自社に合った投資家を検索可能。
StartupList上で、見つけた投資家とそのままコンタクトをとることもできます。
現在、登録済のベンチャー企業は8,500社以上、投資家数は3700名以上。
|
画像出典元:pixabay