スタートアップやベンチャーを対象としたアクセラレータ―ですが、どのような取り組みを指すのでしょうか?インキュベーターやベンチャーキャピタルとの違いや、アクセラレータ―に参加するメリットやデメリットについて解説していきます。
アクセラレーターとは
まず最初に、アクセラレーターとプログラムについて説明します。
アクセラレーターとは
アクセラレーター(accelerator)とは、英語で加速や促進を意味する言葉です。
自動車の加速装置であるアクセル(accel)が言葉としてイメージしやすいでしょう。
転じて、スタートアップ・ベンチャー、企業内の新規事業部門に対して、事業の立ち上げや成長を促進するためにサポートする企業や組織に対して使用されます。
アクセラレータープログラムとは
アクセラレーターが主体となって実施するスタートアップ・ベンチャーの成長促進プログラムのことです。
主催するアクセラレーター1社で実施するよりも、ノウハウを持つ大企業や自治体、大学とも連携し協同で実施することが多くなっています。
参加するスタートアップ・ベンチャーに対してシナジーを創出していくには、より多くの可能性を検討していくことが重要であるためです。
後述しますが、ノウハウやリソースが慢性的に足らないスタートアップ・ベンチャーだけではなく、支援側企業にとってもメリットがあります。
自社内では新たな構想が生まれづらい中、企業間や企業と自治体の連携により、オープンイノベーションを加速する仕組みとして注目されている手法です。
インキュベーター・ベンチャーキャピタルとの違い
アクセラレーターと混同されやすい対象に、インキュベーターとベンチャーキャピタル(以下、VC)が挙げられます。
それぞれの違いについて見ていきましょう。
アクセラレーター | インキュベーター | ベンチャーキャピタル | |
---|---|---|---|
支援をする目的 | 新規事業や起業の成長スピードを支援 | 事業の創出・支援 | 将来的なキャピタルゲイン |
支援の対象企業 | シード期以降のスタートアップ・ベンチャー・企業内の新規事業 | 創業直後やシード期以前のスタートアップ・ベンチャー | 上場前のスタートアップ |
支援期間 | 数週間〜数ヶ月 | 数年〜 | 数年〜エグジットまで |
支援の方法 | 支援企業との業務提携やノウハウ、出資、融資 | 場所の提供・資金・ノウハウ | 出資と成長のための助言 |
支援を受けた側の自由 | 高い | 低い | VCの方針によるが、制約が多く低い |
支援を受けるメリット | 支援企業との連携による早期の事業成長 | 事業構想段階における経営資源の確保 | 事業成長段階における資金の確保 |
参加してもできないこと |
支援の延長 ※可能なプログラムも存在する |
入居施設における設備の独自変更 |
VCとの事業連携 ※CVCの場合はあり |
中でもアクセラレーターは短期間で成果を挙げることにフォーカスが当てられる立場です。
アクセラレータープログラムの種類
アクセラレータープログラムの種類としてどのようなものがあるのか、主要な取り組みについて挙げてみます。
アクセラレーター1社が主体となって進める自社運営型、大手企業が入る共創型、スタートアップ企業同士を結びつけるビジネスマッチング型が典型的です。
自社運営型プログラム
主催するアクセラレーター1社が中心となってプログラムを実施するもので、自社で公募、選定、支援を一貫して行います。
おもなメリットとして、自社内で全てを行うため、他の参加者との調整や確認がいらずに、支援企業に対してスピード感ある対応ができることです。
デメリットとして、1社が中心となるため支援には限界があることや、ノウハウが偏ることが挙げられます。
共創型プログラム
参加する支援企業とともに、アクセラレーターがプログラムを実施するものです。
おもなメリットとして、参加する支援企業のノウハウが得られることや、幅広い業種のスタートアップ・ベンチャーに対して支援が可能となります。
スタートアップ・ベンチャーにとって、企業内部の構想では全く着想しなかったことが生まれてくることもあるでしょう。
デメリットとしては、各支援企業間での調整が必要となり、スピード感が落ちることが挙げられます。
さらに、複数の支援企業間での意思決定の違いにより、進め方によっては新たな方向感が定まらないことがあるかもしれません。
ビジネスマッチング型プログラム
新規事業を行う企業同士のビジネスマッチングにより、新たな事業構想を図る場を提供します。
スタートアップ・ベンチャーだけではなく大企業の新規事業部門にとっても、新たな事業創出の可能性があり想定し得ないきっかけが生まれる可能性があるでしょう。
一方で、結果的に片方だけのメリット創出となってしまい、双方にとってのWin-Winな関係が必ずしも築ける訳ではありません。
伴走型プログラム
アクセラレーターのノウハウを活用して、スタートアップ・ベンチャーの企業の内部に入って支援する形態です。
組織づくりや人材育成、アイデアの事業化に向けての具体的な検討など、対象企業と伴走しながら支援していきます。
ノウハウによる企業変革が進む半面、企業風土とあわない場合には混乱が生じる可能性があるでしょう。
アクセラレータープログラムの流れ
アクセラレータープログラムに参加した際にはどのような進行で進んでいくのでしょうか。
おもな流れを簡単に紹介します。
ビジネスアイデアの募集
スタートアップ・ベンチャーだけではなく、大企業の資金事業部門に対して、今回募集のテーマを提示して広くビジネスアイデアを募集します。
募集はセミナーや専用WEBページ等を通じて行われますが、多くの支援企業が参加する場合は、PRやメディアでの告知も大々的に行われるでしょう。
ビジネスアイデアの選抜
集まったビジネスアイデアの中から、書類審査とともに、経営者や事業責任者との面談を行います。
提出されたビジネスアイデアの可能性に加え、経営者や事業責任者のビジョンや、事業計画に対するヒアリングが複数回実施されることとなるでしょう。
アクセラレーター支援企業とのシナジーの可能性や、スタートアップ・ベンチャーのステージを検討して、アーリーからレイターまで、バランスよく選定されることもあります。
支援期間
選抜された場合には、アクセラレーターからの支援が一定期間受けられることとなります。
期間中にどのような事業成長が考えられるのか、スタートアップ・ベンチャーにとってはノウハウを持つ企業から受けることができる貴重な機会です。
しかし、時間が比較的短期間であることから、成長のための事業検討や検証に集中しなければならないでしょう。
成果発表
支援期間終了ののち、得られた成果を発表します。
この成果発表会において、今後の更なる支援を得ることができたり、新規事業の新たな芽が生まれることとなります。
選考を通過するためのポイント
アクセラレータープログラムは、比較的目の肥えた審査員が厳しい目で審査を行います。
選考を通過するポイントについて確認してみましょう。
事業プランに対して市場成長性や魅力があるか
審査にあたり、事業プランに市場性があり、魅力的なものでなければなりません。
また、絵に描いた餅ではなく、実現可能なものであるか、更に新規性がある事業であるかも厳しくチェックされるでしょう。
支援期間中のメンターとの壁打ちで更に実現可能性に向けてブラッシュアップしますが、入り口の段階で、事業が魅力的に映る必要があります。
支援企業や社会の課題解決になるものであるか
アクセラレーター支援企業とのシナジーが生め、新たに事業課題の解決に繋がるものであるか、また社会課題の解決に寄与するものであるかも大切なポイントです。
また、応募する企業だけではなく、支援企業に対しても実現可能な、Win-Winとなる事業構想が必要になります。
責任者のビジョンやチーム編成が固まっているか
応募する責任者のビジョンや事業にかける想い、また共に事業を作っていくチーム編成も重要なポイントです。
スタートアップ・ベンチャーは少数精鋭のため事業に関わる全員となりますが、大企業における新規事業は事業に全力でコミットするチームになっている必要があります。
支援企業側が継続的に支援しつつ事業を伸ばしていくために、チーム編成が強固なものであるかが面談を通じてチェックされるでしょう。
アクセラレータープログラムに参加するメリット
アクセラレータープログラムに参加するメリットとしては、参加企業や企業の置かれている状況により様々ありますが、主なものを以下に紹介します。
ノウハウやリソースの確保
特にスタートアップ・ベンチャーにとって大きな課題である、ノウハウやリソースの確保が挙げられるでしょう。
事業を成長させるための人的リソースや、販路開拓、さらには双方で実施することによりコスト削減が図れるなどの効果があります。
アクセラレーターである大企業には、参加企業にとっての支援材料となるリソースが各所にあり、上手く活用できれば事業拡大の可能性が大いに広がることとなるでしょう。
スタートアップ・ベンチャーにおける信用の向上
スタートアップ・ベンチャーが名の通っている大企業と協業する場合、その企業のお墨付きを得ることができるでしょう。
その場合、プログラム終了後に事業展開していくにあたって、新規顧客獲得や、他企業との新たな事業提携の可能性も期待できます。
新たな考え方の吸収
プログラムを通じて、スタートアップや大企業の新規事業双方に共通することとして、お互いにない新たな考え方が吸収できる点が挙げられます。
社内では中々考え方が固まってしまい、新規性ある発想が生まれないという難点に対して、自社で活用すれば新たな企業価値向上に繋がるでしょう。
事業企画案に対する的確なフィードバック
プログラムには知見がある専門家が参加するため、事業のブラッシュアップを通じて、的確なフィードバックを得ることができます。
社内だけでは成しえなかったアドバイスが入手でき、改善や成長のヒントが得られるでしょう。
アクセラレーターに参加してもできないこと・デメリット
スタートアップ・ベンチャーにとってリソース等におけるメリットはあるものの、逆にデメリットもありますので、具体的に見ていきます。
お互いのカルチャーの違い
スタートアップ・ベンチャーは、独自のカルチャーや外せない考え方を持っているのが一般的です。
事業を行うにあたって、スピード感や、ビジョン、ミッションに合致しているかも重要な指標でしょう。
対して、大企業においては社内のフローや決済など、一定のプロセスの中で決めていくことが一般的です。
これらが相容れない場合においては、事業を進めたくても先に進まない事情も発生する可能性があります。
決裁の遅さにより、スタートアップ・ベンチャーが持つスピード感が削がれることもあり、予め制約条件がないかも見ておくことが大切です。
事業の方向性の違い
スタートアップ・ベンチャーが持つ事業の方向性と、大企業が考えているものとが合致しないというものです。
お互いにWin-Winとなるのが理想的ですが、どちらかにしかメリットがない場合は、途中で頓挫してしまうこともあるでしょう。
アイデアの漏洩や無断使用の可能性
お互いに温めてきたアイデアが、何らかの形で漏洩し他に無断で使用されてしまうということが発生するかもしれません。
参加企業はお互いに参加プログラムの規約や、契約を遵守しながら進めていく必要があります。
出資や融資が保証されるものではない
参加により、企業からの出資や融資が保証されるものではありません。
参加企業の事業を伸長させるものとして取り組み、結果的に出資が実行されると考えておく方が良いと考えられます。
アクセラレーターを開催するメリット
開催側としてのメリットはどのようなものがあるのでしょうか。
大企業において、普段の環境からは中々得られ難い効果があるのも事実であるので紹介します。
新規事業の発掘
応募してきた多くのスタートアップ・ベンチャーと接することにより、数多くの事業プランを確認することができます。
テーマによっては、自社が検討したい領域の提案も考えられるため、新たな事業の芽を発掘できる可能性があるでしょう。
市場の最新トレンドの吸収
スタートアップ・ベンチャーは市場性や、社会にあるSDGs等の課題にフォーカスをして起業し、事業展開しています。
一方の大企業においては、既存事業を重視する余り、中々新たなトレンドには目が向かず、インプットしづらい状況下にあることが普通でしょう。
審査の段階で支援側では気付かなかった着眼点に、スタートアップ・ベンチャーは注力していることが分かります。
支援側企業のモチベーション
支援企業側においては、普段は企業内で新規事業を構想する側であることも多いでしょう。
そのような中で、スタートアップ・ベンチャーにおける、新規事業の企画を見ることにより、チャレンジ精神を目の当たりにすることとなります。
チャレンジする姿勢が普段は社内にはない支援企業側にとっては大きな刺激となり、新たな事業機会創出の意欲に繋がるでしょう。
創業支援を通じた社会貢献
大企業が創業間もない有力企業を発掘、支援していくことは、今後の日本経済の活性化において社会的に意義があることです。
新規創業が増えると、成長段階では多様なスキルを持つ人材が必要となり、新たな労働力の担い手としての貢献度も上がるでしょう。
また支援企業が将来的に成長して、利益が出てきた段階では、国や自治体に対する納税にも影響があります。
アクセラレータープログラムの成功事例・失敗事例
最後にアクセラレータープログラムにおける成功事例を確認してみましょう。
【成功事例】Sony Startup Acceleration Program
ソニーが手がけるスタートアップの創出と事業運営を支援するプログラムで、2014年から9年で、2022年6月末時点で、120件以上の事業化検証、20事業の創出実績をあげています。
これまで培った経験やノウハウを生かし、アイデア出しから事業運営、販売、アライアンス・事業拡大に至るまで総合的に支援する仕組みを整備し、新規事業支援サービスとして提供しているのが特徴です。
アクセラレーターとしての支援実績を持つ専門性の高いプロフェッショナルを多数抱えています。
各領域の専門家同士が横串でスキル、ノウハウを融合することにより、幅広い分野での対応を可能としている点が成果に結びついているのでしょう。
https://sony-startup-acceleration-program.com/article462.html
【成功事例】TOKYO STARTUP GATEWAY
東京都が主催する、15歳〜39歳までの若手起業家を対象とした事業プランコンテストで、「東京発・400字から世界を変える」をテーマに毎年開催されています。
テクノロジーから、モノづくり、ソーシャルイノベーション、リアルビジネス、グローバルを見据えた起業などが対象です。
分野を越えて、「東京」から世界を変える若き起業家を輩出するスタートアップコンテストとの位置づけで毎年開催されています。
リリースによると、2022年度の開催において、7月25日現在で1,114件の応募があったとのことで、2014年度の初開催から9年間での応募は1万件を越えているようです。
【失敗事例】YJキャピタル(現Z Venture Capital)のアクセラレータープログラム
2016年8月にスタートしていますが、当初、3年間で20社程度採択し、10社程度は追加で資金調達を達成しています。
しかしながら、本来シード期の事業を中心に採択していたにも関わらず、シリーズAやBクラスの事業の位置づけでメンタリングしていたことでした。
シード期には、プロダクトを創ることが先決であるため、メンタリングよりもコーチングが重要とのことで対応を切り替えています。
まとめ
アクセラレーターについて、プログラムの種類やプログラムの流れ、参加するメリットやデメリットなど、概要を確認しました。
また、スタートアップ・ベンチャー側だけではなく、支援する企業側が開催する際のポイントにも踏み込んでいます。
アクセラレータープログラムは、参加する側、支援する側、双方にとってWin-Winなものでなければなりません。
各々の立場において、どのようにすれば有意義なプログラムになるか、検討材料になれば幸いです。
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現在、登録済のベンチャー企業は8,500社以上、投資家数は3700名以上。
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画像出典元:ODAN