株式買取請求権とは?わかりやすく解説!使えるケースと「公正な価格」の決まり方

株式買取請求権とは?わかりやすく解説!使えるケースと「公正な価格」の決まり方

2025.11.13

監修者情報

前川 英麿 さん
プロトスター株式会社 代表取締役
2008年、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。エヌ・アイ・エフSMBCベンチャーズ株式会社(現、大和企業投資株式会社、SMBCベンチャーキャピタル株式会社)に入社し、ベンチャーキャピタルに従事。その後、常駐のターンアラウンド支援に特化したフロンティア・ターンアラウンド株式会社を経て、2015年スローガン株式会社に参画。投資事業責任者としてSlogan COENT LLPを設立し、執行役員カンパニープレジデント就任。2016年11月に挑戦者支援インフラを創るべくプロトスター株式会社を創業。
 
他にサイトビジット社外監査役、経済産業省 先進的IoTプロジェクト選考会議 審査委員・支援機関代表等を歴任。ホロラボ社外監査役、東京都 政策目的随意契約認定審査会 外部審査委員、青山学院大学「アントレプレナーシップ概論」非常勤教師、グローバルビジネス研究所プロジェクト研究員。早稲田大学ビジネスファイナンス研究センター招聘研究員等。日本ベンチャー学会所属。
この記事では、まず「株式買取請求権とは何か」をできるだけ専門用語を使わずに、やさしく解説します! 法律(会社法)の詳しいルールや、「公正な価格」の専門的な決まり方については、記事の最後の【補足】で詳しく解説しています。まずは、わかりやすく株式買取請求権とは何かを説明します!
 
 

わかりやすい解説編

株を持っていると、あなたがその会社のオーナーの一人だ、ということになります。 そして、時には「この株、会社に買い取ってほしい!」とお願いできる特別な権利があります。
 
それが「株式買取請求権(かぶしき かいとり せいきゅうけん)」です。
 
でも、この権利、「売りたい!」と思ったらいつでも自由に使えるわけではありません。 いったい、どんな時に使えるのでしょうか? やさしく解説します!
 

「買い取って!」と言えるのは主にこの2パターン! 

あなたが会社に対して「株を買い取って!」とお願いできるのは、大きく分けて次の2つの場面です。

 

パターン1:市場で売れない「中途半端な数」の株を持っている

株にはふつう、「100株セット」のように、取引所で売買できるまとまった数(これを「単元(たんげん)」と言います)が決まっています。 もし、あなたが「100株セット」の会社で「99株」や「10株」だけ持っていたら、これは「単元未満株(たんげんみまんかぶ)」と呼ばれ、取引所で売ることができません。
 
そんな時、「この売れない株、会社さん、買い取ってください!」とお願いすることができます。
 
 

パターン2:会社の「とっても大事な決定」に反対する時

会社が「別の会社と合体します(合併)」とか、「会社のルールを根本から変えます!」といった、とても重大な決定をすることがあります。 株主であるあなたは、その決定に対して「賛成」か「反対」か、意見を言うことができます。
 
もし、あなたが「その決定には、どうしても賛成できない!」と思ったとします。 そんな時、ただ「イヤだ!」と反対するだけでなく、「私は反対なので、私が持っている株を、ちゃんと公正な値段で買い取ってください!」と会社に請求できるのです。
 
これは、会社の大きな決定に納得できない株主さんを守るための、大切なルールです。
 

【超重要!】「反対」する時に守るべき2つのルール 

パターン2(会社の決定に反対する時)に「買い取って!」とお願いするには、絶対に守らないといけないルールが2つあります。 ただ「反対!」と叫ぶだけではダメなんです。
 
 

ルール1:事前に

「反対します」と会社に伝えておく 株主が集まる大事な会議(株主総会)が開かれる前に、「私は、今度の会議の、あの議案に反対するつもりです」と、あらかじめ会社に通知しておく必要があります。
 
 

ルール2:当日に

会議で、ちゃんと「反対票」を投じる そして、株主総会の当日に、その議案に対して、実際に「反対」の票を入れる必要があります。
 
この「事前の通知」と「当日の反対票」、2つともやらないと、「買い取って!」とお願いする権利がもらえないので、絶対に忘れないでください!
 

こんな「うっかりミス」に注意!権利がなくなるかも? 

せっかくの権利も、手続きを間違えると使えなくなってしまいます。
 
ミス1:さっきの「事前の反対通知」を出し忘れた…。(→これだけでNGです)
 
ミス2「株を買い取ってください」と正式にお願いする書類を、決められた期限までに出し忘れた…。(→期限はとても短いです!)
 
ミス3:買取の値段で会社と話がまとまらなかった時、裁判所に「値段を決めて!」とお願いする手続きも、期限までにしなかった…。(→この場合、会社が決めた値段に従うしかなくなるかもしれません)
 
 

買取の値段は、どうやって決まるの? 

「じゃあ、いくらで買い取ってくれるの?」というのは一番大事なところですよね。
 

まずは「話し合い」

基本は、あなた(株主)と会社とで、「この値段でどうでしょう?」と話し合って決めます。
 

決まらなければ「裁判所」

もし話し合いで値段がまとまらなければ、裁判所に「公正な値段を決めてください!」とお願いすることになります。 裁判所は、その会社の価値(資産や将来のもうけなど)を計算して、公平な買取価格を決めてくれます。
 

まとめ 

「株式買取請求権」は、株主が会社に「株を買い取って!」と言える権利。「売れない中途半端な株(単元未満株)」を持っている時と「会社の重大な決定に反対する」時に使えます。
 
特に反対する時は、「事前の通知」と「総会での反対票」の2つが必須です! 手続きの期限はとても短いので、もしこの権利を使う場面が来たら、忘れたり間違えたりしないよう、専門家にも相談しながら慎重に進めてくださいね。
 
 

【補足編】

法律・価格決定についての詳細解説 ここからは、上記の解説について、会社法の条文なども含めてより詳細に補足します。
 

■権利の正式名称

「わかりやすい解説」で説明した2つのパターンは、会社法で以下のように定められています。

単元未満株式の買取請求(会社法 第192条)
パターン1(中途半端な株)のことです。単元未満株主は、いつでも会社に対し、その株式の買取りを請求できます。

反対株主の株式買取請求権(会社法 第116条、第469条、第785条など) 
パターン2(重大な決定に反対)のことです。株主の利益に重大な影響を及ぼす特定の行為に「反対する株主」が、投下資本を回収するために行使できる権利です。
 

「反対」できる重大な決定とは?

会社法でこの権利が認められている「重大な決定」には、主に以下のようなものがあります。
 
事業の全部または重要な一部の譲渡(第469条)
吸収合併、株式交換、株式移転などの組織再編(第785条、第797条、第806条)
株式併合(第182条の4)
すべての株式に「譲渡制限」を設ける定款変更(第116条)
特定の種類株式の株主に損害を及ぼす内容の変更(第116条)
 

正式な手続きの「期限」に注意 

「わかりやすい解説」の「うっかりミス」は、法律上の厳格な期限を守れなかった場合に起こります。
 
事前通知: 株主総会の2週間前まで、など議案によって期限が定められています。
買取請求: ステップ1(事前通知)とステップ2(総会で反対)を満した株主は、原則として「効力発生日の20日前から前日まで」の間に、会社へ正式な買取請求を行う必要があります。
価格協議と申立て: 会社と株主で「価格」の協議がまとまらなかった場合、「効力発生日から30日以内」に協議が調わないと、株主(または会社)は「その後の30日以内」に裁判所へ「価格決定の申立て」をしなければなりません。
 
この期限を過ぎると、会社が提示した価格に同意したとみなされてしまうリスクがあるため、非常に重要です。
 

【詳細】「公正な価格」は、どうやって決まるのか? 

「公正な価格」の決め方は、上場株式か非上場株式かで、価格算定の難易度が大きく異なります。
 

1. 上場株式の場合

市場価格(株価)があるため、それが基本的な基準になります。 ただし、合併などの「重大な決定」が公表されたことで株価が不当に上下した場合、その影響がなかった時点の価格(公表日直前の株価など)を基準にすべき、と裁判所が判断することがあります。
 

2. 非上場株式の場合(最大の争点)

市場価格がないため、「いくらが公正か」が会社と株主で最も揉めるポイントです。 裁判所が「価格決定の申立て」を受けた場合、会社の財務状況や将来性などを多角的に評価します。具体的には、以下のような専門的な評価方法(株価算定)を組み合わせて判断します。
 
DCF(ディスカウンテッド・キャッシュフロー)法: 会社が将来生み出すであろう利益(キャッシュフロー)を予測し、それを現在の価値に割り引いて株価を算出する方法。
 
純資産法: 会社のすべての資産を売却し、すべての負債を返済した後に残る「純資産」を基準に株価を算出する方法。
 
類似会社比較法(マルチプル法): 業種や規模が似ている上場企業の株価などを参考に、株価を算出する方法。
 
裁判所はこれらの方法を使い、その会社の状況に最も適した「公正な価格」を決定します。
 

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監修者より

この記事で解説した「株式買取請求権」は、株主であるあなたの大切な財産を守るための、非常に強力な権利です。
 
特に、合併や事業譲渡など、会社の将来を左右する大きな決定に「どうしても納得できない」時、この権利は株主を守る最後の砦となります。
 
しかし、その手続きは非常に厳格で、期限も短く設定されています。 「うっかり」通知を忘れたり、期限を1日でも過ぎたりすれば、せっかくの権利が使えなくなってしまいます。
 
もし実際にこの権利を行使する可能性が出てきたら、「この記事に書いてあったな」と思い出し、ご自身だけで判断せず、必ず早い段階で弁護士や公認会計士などの専門家に相談してください。
 
(免責事項) 本記事は、株式買取請求権の概要をわかりやすく解説することを目的としたものであり、法的な助言ではありません。この権利の手続きや価格算定は非常に専門的です。具体的なケースに直面した際は、必ず弁護士や公認会計士などの専門家にご相談ください。
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