株主が保有する株式を会社に対して「買い取ってくれ」と請求できる権利が「株式買取請求権」です。
しかし株式買取請求権を提出しても、条件を満たしていなければ買い取ってもらうことができませんし、買取価格も株主が不利になることもあります。
株式買取請求権の概要や種類、認められる条件、さらには株式の評価方法について詳しく解説していきます。
株式買取請求権とは?
株式買取請求権とは、少数株主の権利を保護するため会社法で定められている権利で、株主が会社に対して「保有する株式を買い取ってくれ」と請求できる権利のことです。
ただし、この権利を行使できるのはあくまでの例外的な一部の条件下に限られます。
また、行使可能期間や価格決定申立期間(公正な価格を裁判所に決めてもらうための申し立ての期間)も限定されています。
特に非上場企業の少数株主が保有株を売却する際には買い手が見つかりづらいため自ら買い手を探す必要があるため、ぜひ知っておいた方が良いでしょう。
株式買取請求権の種類
株式買取請求権の種類は、以下の2種類があります。
単元未満株の買取請求- 反対株主の買取請求
株式買取請求権が認められるのは次の2つのケースに限られます。
- ・市場で売却できない単元未満株を所有している株主
- ・組織織再編に対して反対している株主
「市場で売却できないから、その分を会社に買い取ってもらうケース」
「株主の権利や利益を侵害するおそれのある組織再編を行うケース」
このいずれかのケースに該当する場合には、会社に株式を買い取ってもらうことができます。
この二種類のパターンをそれぞれ
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単元未満株の買取請求と反対株主の買取請求と言います。それぞれのケースについてわかりやすく解説していきます。
株式買取請求権が認められるケース
株式買取請求権が認められるケースは単元未満株なのか、反対株主の株式買取請求権なのかによって異なります。
それぞれの条件について詳しく見ていきましょう。
単元未満株式の買取請求
単元未満株とは、市場で売買できる単位に満たない株式です。
例えば単元が100株になっている会社の株式を99株持っていたら、99株は単元未満株です。
単元未満株を所有している人は、会社に買取請求を行うことができます。
市場で売却できないので、会社に買い取ってもらい現金化する目的があります。
反対株主の株式買取請求が認められる条件
株主の利益や権利に影響を及ぼすような次の組織再編を会社が計画し、その組織再編に対して「反対」の株主は以下の法律によって株式買取請求権を行使できます。
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・譲渡制限を付す定款の変更(会社法116条1項1号)
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・スクイーズアウト(株式併合)(会社法182条の4)
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・事業譲渡(会社法469条)
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・吸収合併、吸収分割又は株式交換(会社法785条、会社法797条)
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・新設合併、新設分割又は株式移転(会社法806条)
- なお「反対」の意思は次のタイミングで会社に2回伝えなければなりません。
- 株主総会が行われる前に会社へ反対する意思を通知する
- 株主総会に出席して反対票を投じる
事前に会社へ反対通知を送り、さらに株主総会へ出席して反対票を投じることで株式買取請求権を行使できるようになります。
株式買取請求権が行使できないケース
株式買取請求権は次にいずれかの手続き上のミスがあると行使できないので注意しましょう。
- 反対通知を送付していない
- 株式買取請求通知書の送付期限に遅れた
- 裁判所への株式買取価格決定申立の期限を過ぎた
株式買取請求権を行使できない3つのケースについても頭に入れておきましょう、
反対通知を送付していない
反対株主が株式買取請求権を行使するためには、株主総会の前に反対通知を会社へ送付する必要があります。
この事前の反対通知を送付せずに、株主総会で反対するだけでは株式買取請求権が付与される条件を満たしたことにはなりません。
この場合は株式買取請求権を行使することはできません。
株式買取請求通知書の送付期限に遅れた
株式買取請求通知書の送付期限に遅れた場合も株式買取請求権を行使することはできません。
一般的に株式買取請求権は、株主総会へ株式買取請求権通知書を持参し、決議で反対した後すぐにその場で請求権を行使するのが基本です。
株式買取請求通知書の期限はとても短いので、送付期限に遅れてしまった場合にも株式買取請求権を行使することは不可能です。
裁判所への株式買取価格決定申立の期限を過ぎた
発行会社と株式買取価格が折り合わなかった場合には、裁判所へ株式買取価格決定申立を行い、裁判所に対して株式買取価格を決めてもらいます。
しかし株式買取価格決定申立については以下のように期限が決められています。
『買取価格の話し合いが効力発生日から30日以内にまとまらない場合は、期間満了後の30日以内に裁判所へ価格決定の申立をすること』
期間を経過してしまうと、株式買取価格決定申立を行うことができません。
この場合は、買取に応じてもらうことはできますが、価格については会社が決めた価格に従わざるを得ません。
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株式買取請求権を行使した後の流れ
株式買取請求権を行使した後には、価格を決めるまでに次のようなプロセスが必要になります。
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①株主が会社に反対の旨を通知および株主総会で反対する
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②株式会社が効力発生日の20日前までに株主へ通知または公告
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③効力発生日の前日までに株式買取請求権を行使する
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④会社と株主によって株式の買取価格を話し合って決める
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⑤価格が決まらない場合は裁判所に申し立てを行い決定
まず、反対の意思を2回表明することで株式買取請求権を得ることができます。
次に会社が効力が発生する日の20日前までに株主へ「株式買取請求権がある方は買取に応じます」という通知または公告を行います。
そして、効力発生日の前日までに、権利を行使したい株主が株式買取請求通知書を会社へ提出して権利を行使します。
効力発生日から30日以内は会社と株主が買取価格を協議します。
協議によって価格が決まらない場合には、期間満了後の30日以内に裁判所に対して「株式買取価格決定申立」を行い、裁判所に価格を決定けってしてもらい、発行会社へ株式を買い取ってもらいます。
買取価格の決め方
株式買取請求権が行使された場合には、株式の買取価格は次のいずれかの方法で決定します。
- 時価
- 純資産価格
- 類似業種比準
- 配当還元
- 収益法
それぞれの方法について詳しく見ていきましょう。
時価
上場企業の場合には、市場価格をベースに時価で買取価格を決定します。
市場で売却したらいくらになるのか、ということを客観的に知ることができるので、最もわかりやすい価格決定方法だと言えます。
ただし、上場企業でなければ使用できない方法です。
純資産価格
純資産価格をベースに買取価格を決める方法です。
以下の数式で1株あたりの価格を算定します。
1株あたりの評価額=純資産÷自己株式を抜いた発行済株式数
純資産の算定には含み損も加味されるので、会社の資産を正確に評価した上で株式の価値を算定することができます。
類似業種比準
類似業種の株価がいくらなのかを基準に評価する方法です。
上場企業で同業種、同規模の会社があるのであれば、その企業の株価を参考に買取価格を決定します。
ただし、上場企業に同規模同業種はそれほど多くはないので、上場企業においては利用する機会の少ない方法です。
配当還元
株式への配当金額を基準にして買取価格を決定する方法です。
毎期ごとに配当金を支払っている上場企業では活用できる方法ですが、配当を支払っていない中小企業では利用できません。
また、ベースになっているのはあくまでも配当金ですので、会社の資産が加味されない点はデメリットです。
収益法
会社が将来的にいくらの収益を出すのかということを基準として株価を算出する方法です。
具体的な計算方法は次の通りです。
1株あたりの評価額=(将来的に予想される利益÷資本還元率)÷自己株式を抜いた発行済株式総数
収益力の高い会社であればメリットがありますが、やはり資産が加味されていないので資産が大きな会社でこの計算方法を使用すると、株主にとっては損になる可能性があります。
譲渡制限株式の株式買取請求と少数株主の株式買取請求権の違い
譲渡制限株式と少数株主の株は譲渡制限がかかっています。
双方ともに自由に譲渡されることによる弊害を防ぐためです。
譲渡に制限がかけられている株式については、一定の条件を満たせば会社に対して譲渡を認めるよう請求することができます。
しかし次の2点は譲渡制限株式と少数株主では違いがあります。
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譲渡できる条件
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譲渡が拒否された場合の対応
譲渡制限株式の株式買取請求と少数株主の株式買取請求権の違いについて詳しく解説していきます。
譲渡できる条件
譲渡制限株式と少数株主では譲渡できる条件が異なります。
◼️譲渡制限株式
・会社の承認を得ること
◼️少数株主
- ・事業の譲渡等をする場合
- ・合併、会社分割、株式交換、株式移転など、組織再編をする場合
- ・株式の併合をする場合
- ・株式に全部取得条項を付す場合
- ・ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれのある一定の行為を行う場合で、種類株主総会の決議が定款で排除されている場合
譲渡制限株式は基本的に会社の制限を得れば譲渡できますが、少数株主の場合には譲渡できる条件が細かく定められています。
会社から譲渡を拒否された場合
買取請求権を行使して、会社から譲渡することを拒否された場合も譲渡制限株式と少数株主では対応が異なります。
譲渡制限株式
会社または会社の指定する指定買取人が株式を買い取るように請求できる
少数株式
発行会社に買取請求を行うことができる
まとめ
株式を発行会社に対して買取ように請求する権利を「株式買取請求権」といいます。
株式買取請求権を行使できる場面は次の2つです。
- 単元未満株の株主
- 反対株主であること
条件を満たせば買い取りを依頼することはできますが、反対の意思表明を2回しなければならないなどの注意点もあります。
買取請求権を行使できる期間も非常に短いので、スケジュールには十分注意してください。
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画像出典元:photo-ac