この記事の監修・執筆:前川 英麿(プロトスター株式会社 代表 / 元VC)早稲田大卒業後、エヌ・アイ・エフSMBCベンチャーズ株式会社(現、大和企業投資株式会社、SMBCベンチャーキャピタル株式会社)等でVC投資活動に従事。現在はプロトスター株式会社代表取締役として、起業家支援インフラ「StartupList」を運営し、115回以上続くリアルイベント「SLピッチ」を主催。
「学生のうちに起業してみたいが、何から始めればいいかわからない」
「就職するか、起業するか迷っている」
「失敗して借金を背負ったり、留年したりするのが怖い」
近年、大学発ベンチャーや学生起業家が増え、起業は「特別な天才だけのもの」ではなくなりました。
しかし、ネット上には「学生起業はノーリスク!」という無責任な甘い言葉や、逆に「意識高い系」と揶揄する冷ややかな声が混在しており、「本当のところ、どうなのか(勝算はあるのか)」が見えにくくなっています。
私は元VC(ベンチャーキャピタル)として、そして起業家支援プラットフォーム「StartupList」の運営者として、数多くの学生起業家を見てきました。
結論から言えば、「学生起業は、人生における『最強のボーナスタイム』である」と断言できます。
失うものが何もなく、大人たちが勝手に助けてくれる時期は、人生でこの数年間しかありません。社会人になってからでは絶対に得られない「特権」が、学生にはあります。
一方で、「学生ゆえの無知」につけ込まれ、致命的なミス(株式配分や契約)を犯し、将来の可能性を自ら潰してしまう若者も数多く見てきました。
この記事では、StartupListで115回以上のピッチイベントを主催してきた経験とデータに基づき、きれいごと抜きの「学生起業のリアルなメリット・デメリット」と、「学生が陥りがちな死の谷(失敗パターン)」を回避するためのロードマップを、6,000字のボリュームで徹底解説します。
1. ひと目でわかる!「学生起業」vs「社会人起業」徹底比較
まずは、学生起業の立ち位置を客観的に理解しましょう。「社会人になってからでいいや」と思っていると、手遅れになる要素があります。
【図解】起業環境の比較表

【元VCの視点】
この表で一番見てほしいのは「リスク」と「協力者」の欄です。社会人が起業する場合、「家族の生活費」「住宅ローン」という重りが足かせになります。一方、学生にはそれがありません。
また、大人は「若者の挑戦」には無償で手を貸しますが、社会人の挑戦には「対価」を求めます。この「応援される力(ボーナス)」を使えるのは今だけです。
2. なぜ今、「学生起業」なのか? 元VCが見る3つの「最強メリット」
一般的に言われる「経験になる」といったレベルの話ではありません。ビジネス的な視点で、学生起業には「構造的な勝ち筋」があります。
メリット①:「学生カード」という最強のドアノックツール
これが最大のアセットです。社会人になってから、上場企業の社長や有名VCに「話を聞かせてください」とメールを送っても、営業だと思われて門前払いです。
しかし、「学生で起業を考えています。勉強させてください」というメールには、驚くほど返信が来ます。
決裁者に直接会い、業界の課題をヒアリングし、あわよくば最初の顧客になってもらう。この「学生カード」という特権を使わない手はありません。
この手法で成功した有名な事例が、世界的ベストセラー『サードドア(The Third Door)』の著者、アレックス・バナヤンです。 彼はごく普通の大学生でしたが、「ビル・ゲイツやレディー・ガガはどうやってキャリアをスタートさせたのか?」を知るために、「学生」という肩書きをフル活用してアポイントを取り付け、彼らへのインタビューに成功しました。
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バナヤンは人生の成功への入り口をこう例えています。

「学生起業」とは、まさにこの「サードドア」を叩く権利を持っている状態です。 大人は「若者の挑戦」に対してはガードを下げます。この「学生カード」を使って決裁者に直接会い、業界の課題をヒアリングし、あわよくば最初の顧客になってもらう。この特権を使わない手はありません。
メリット②:失敗しても「就活無双」できる(キャリアのヘッジ)
「起業に失敗したら就職できないのでは?」と不安に思うかもしれませんが、逆です。
VCや企業の採用担当者視点で見ると、サークル長やバイトリーダーの経験よりも、「自分でPL(損益計算書)を作り、プロダクトを売り、そして失敗した経験」の方が、100倍価値があります。
「なぜ失敗したのか」「次はどうするか」を語れる人材は、どこの企業も喉から手が出るほど欲しい人材です。つまり、起業した時点でキャリアのリスクヘッジは完了しているのです。
メリット③:大学という「無料のインキュベーション施設」
大学の環境を使い倒していますか?

- これらを全て自費で調達しようとすれば、月数十万円の固定費がかかります。固定費ゼロで事業検証ができるのは、学生だけの特権です。
3. ここが地獄!学生起業の「3つのデメリットと罠」
一方で、学生ゆえの弱点もあります。ここを理解していないと、事業だけでなく人生設計まで狂う可能性があります。
デメリット①:社会的信用(Credit)がゼロ
「情熱」はあっても「実績」がありません。
そのため、オフィスを借りる審査に通らない、法人口座が作りにくい、大手企業との取引口座が開けない、といった壁に直面します。
これは、信用のあるパートナー(大人や企業)を見つけるか、泥臭く実績を一つずつ積み上げるしかありません。
デメリット②:学業との両立と「中退」のリスク
事業が面白くなると、大学に行く時間が惜しくなります。
休学は選択肢としてありですが、中退は慎重になるべきです。イーロン・マスクやマーク・ザッカーバーグの真似をして中退するのは危険です。
事業が軌道に乗る確証がないまま中退し、事業も失敗した場合、日本社会では再起のハードルが少し上がります。「学位は取っておく(セーフティネット)」というバランス感覚も、経営者には必要です。
【最大の罠】デメリット③:「株式(Equity)」の知識不足
これが最も恐ろしく、そして最も多くの学生起業家がハマる罠です。元VCとして、これでチームが崩壊するのを何度も見てきました。
失敗ケース1:仲良し「50:50」の悲劇
「俺たち親友だから、株は半分ずつな」と創業。
半年後、方向性の違いで喧嘩。株を50%ずつ持っているため、どちらかが辞めない限り何も決められず(解任もできず)、会社はロックアップ(凍結)。結局、解散するしかなくなりました。
教訓:株は必ず、代表者が「2/3以上(66.7%以上)」持つべきです。民主主義はスタートアップには向きません。
失敗ケース2:「悪い大人」の搾取
「経営を教えてあげるし、人脈も紹介するよ」と近づいてきた大人(自称コンサルタント)に、「じゃあ株の30%を渡して」と言われ、契約。
その後、その大人は何もしてくれず、逆に次の資金調達(VC)をしようとした時に「不明な大人が30%も持っている会社には投資できない」と断られ、詰みました。
教訓:実働しない部外者に、安易に株(1%以上)を渡してはいけません。
4. 元VCが推奨する「失敗しないロードマップ」
いきなり登記(会社設立)をしてはいけません。登記には費用もかかりますし、廃業するのも手間です。
以下のステップを踏んで、「勝てる確証」を得てから登記してください。
STEP 1:仲間集めと「課題」の発見(〜1ヶ月)
まずは「誰とやるか」です。自分にないスキルを持つ仲間(例:自分が営業なら、相手はエンジニア)を探します。1か月と書きましたが、実際はどんな仲間とスタートするかは重要です。妥協してはいけません。
そして、次にアイデア探しではなく「課題探し」をしてください。「自分が欲しいもの」ではなく「他人がお金を払ってでも解決したい深い悩み」を見つけることがスタートです。
▼仲間集めの情熱を漫画や映画から学びたいなら
学生起業のリアルと熱狂!モチベが爆上がりする厳選漫画&映画 15選
STEP 2:プロトタイプ開発とMVP検証(2〜3ヶ月)
実際に動くモノ(MVP:Minimum Viable Product)を作ります。プログラミングができなければ、NoCodeツールを使ってもいいですし、最初は手動(人力)で代行してもいいです(例:AIサービスと言いつつ、裏で人間が動く)。
ここで重要なのは「実際に売ってみる(トラクションを作る)」ことです。「無料なら使うよ」という友達100人より、「500円でも使うよ」という他人10人の方が、ビジネスの価値は高いです。この「売上の事実」が、後の資金調達で最強の武器になります。
STEP 3:メンター(師匠)を見つける
自分たちだけで悩んでいても進みません。StartupListなどのプラットフォーム使い、学生起業に理解のある投資家や先輩起業家に壁打ちをしてください。
「学生です、話を聞いてください!」と言えば、多くの先輩が時間を割いてくれます。SLピッチのようなイベントに参加し、フィードバックをもらうのも有効です。
▼学生起業家を応援してくれる投資家の探し方
[【2025年最新版】エンジェル投資家とのマッチングサービス5選!注意点も解説]
STEP 4:資金調達と法人化
手応えを感じたら、ここで初めて法人化(登記)と資金調達を検討します。学生の場合、最初から銀行融資はハードルが高いため*「日本政策金融公庫」か「エンジェル投資家/シードVC」が選択肢になります。
▼資金調達の全体像を知る
[資金調達とは?元VC・事業再生のプロが教える「成功」と「破綻」の分岐点【2025年決定版】]
5. 学生起業家が選ぶべき「ビジネスモデル」の正解
学生には「資産」と「信用」がありません。したがって、大企業と同じ土俵で戦ってはいけません。
避けるべき「NGモデル」

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設備投資型(店舗・工場):
初期費用で数百万〜数千万円が必要です。失敗した時の借金リスクが大きすぎます。
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在庫リスク型(大量仕入れ):
アパレルなどで在庫を抱えると、資金ショートの原因になります。そもそも物があるということは初期費用が相当かかるはず。そこのハードルも高いです。
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労働集約型(受託の拡大):
「学生を集めて営業代行」などは日銭を稼げますが、資産(プロダクト)が残りません。起業というより「事業主」に近くなります。ただ、まずはビジネスを学ぶという意味は良い選択肢になることも当然あります。
6. よくある質問(FAQ)と親ブロック対策
Q. 親に反対されています。どう説得すればいいですか?
A. 「期限」と「条件」を提示しましょう。
「大学は卒業する」「2年やってダメなら就職する」という約束をすれば、多くの親は応援(または黙認)してくれます。感情論ではなく、キャリアプラン(メリット②の就活無双説)をロジカルに説明してください。
Q. 共同創業者と喧嘩しました。どうすればいいですか?
A. 「株」と「役割」の話を避けてきたツケです。
感情的にならず、契約書(創業者間契約)を結び直してください。「もし辞める場合は、持っている株を創業価格で会社に買い戻させる(ベスティング条項)」を決めておくのが、後腐れなく別れるコツです。
Q. 起業アイデアがありません。
A. StartupListに登録している企業のインターンに参加するのも一つの手です。
「起業家のカバン持ち」をすることで、課題の発見方法や、創業期のカオスを体感できます。アイデアは机の上ではなく、現場の違和感から生まれます。
まとめ:行動した時点で、あなたは「上位1%」
この記事を最後まで読んだあなたは、すでに学生の中で上位数%のリテラシーを持っています。しかし、知識だけでは何も変わりません。
「起業したい」と言う学生は1万人にいますが、「実際にプロダクトを作った」学生は100人、「登記した」学生は1人です。失敗しても失うものはありません。あるのは「経験」という財産だけです。
まずはStartupListに登録し、投資家や先輩起業家のエコシステムに飛び込んでみてください。大人は、あなたが思っている以上に、若者の無謀な挑戦を待っています。
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