公庫からVC、エンジェル投資家からの資金調達を実現するまで
創業から約8ヶ月でVCからの資金調達を実現し、その後、エンジェル投資家からの資金調達にも成功した食領域スタートアップがある。酒粕を現代のライフスタイルに合う形へアップデートする「カスフル」だ。
創業直後のスタートアップは、公庫融資とVC、エンジェル投資家からの資金調達をどのように使い分けるべきなのか。投資家とはどこで出会い、何を伝えればよいのか。初めての資本政策では、誰に相談すればよいのか。
カスフル株式会社代表取締役CEOの木築さんに、公庫の創業融資からVC、エンジェル投資家からの資金調達に至るまでの道のりを、StartupListを運営するプロトスター株式会社取締役の松尾が聞いた。
カスフル株式会社 代表取締役CEO 木築滉人
日本酒や酒蔵が地域社会に与える価値に着目し、酒粕を現代のライフスタイルに合う形へアップデートする事業を立ち上げる。酒粕由来のうま味調味料をBtoC・BtoBで展開するほか、酒粕の機能性を生かした美容ゼリーなど、新たな商品開発を進めている。
プロトスター株式会社 取締役 松尾
起業家と投資家をつなぐ「StartupList」の運営をはじめ、スタートアップの資金調達やM&A支援に携わる。融資・エクイティ双方の知見をもとに、調達方針の整理、投資家の紹介、資本政策や調達条件の検討を支援。情報経営イノベーション専門職大学では客員准教授を務める。
酒粕の価値を再定義する
――――――まず、カスフルの事業について教えてください。
酒粕を使った素材開発・商品開発を行っています。古くから受け継がれてきた酒粕を、現代のライフスタイルに合った形へアップデートしていく事業です。
現在の主力商品は、酒粕のうま味調味料です。普段の食事にかけるだけで手軽に使え、健康面にも配慮した基礎調味料として、BtoCとBtoBの両方で展開しています。
次の主力商品として、酒粕の機能性を打ち出した美容ゼリーも開発しており、早ければ2026年10月頃のリリースを予定しています。
―――――― この事業を立ち上げた背景を教えてください。
私は酒飲み一家で育ちました。
お酒の場を通して、普段は話せない本音を話し、仲が深まる。そうしたお酒のポジティブな力を、子どもの頃から感じてきました。
その経験から日本酒に興味を持ち、全国の酒蔵を訪れるようになりました。
蔵元や働く方々の話を聞く中で、酒蔵は単なるお酒をつくる場所ではなく、地域の自然、文化、雇用、コミュニティを支える地域産業の中心にある存在だと知りました。
一方で、日本酒業界は国内消費の低迷、若年層の日本酒離れ、酒蔵数の減少、収益性の低下といった大きな課題を抱えています。さらに、日本酒づくりの過程で生まれる酒粕も、栄養価や機能性、うま味を持ちながら、十分に価値化されていない現状があります。
酒蔵が地域に与える社会的インパクトの大きさを感じる一方で、このままでは日本酒文化や酒蔵が守ってきた地域の営みが失われてしまうかもしれない。そうした危機感から、この業界に自分ができることは何かを考えるようになりました。
そこで着目したのが、酒粕の価値を再定義することです。
酒粕を“捨てられる副産物”ではなく、“選ばれる次世代素材”へと変えることで、酒蔵の新たな収益機会をつくり、日本酒業界の持続可能な未来に貢献したいと考えています。
公庫からの借入を経て、半年でVC、その後エンジェル投資家からも調達
―――――― 資金調達の全体像を教えてください。
まず、2025年12月に日本政策金融公庫の創業融資を利用し、300万円を借り入れました。
その後、2026年6月にANOBAKAさんから1,200万円の資金調達を行いました。
さらに今回、事業との相性を重視して選んだエンジェル投資家からの資金調達も決まっています。
――――――最初に創業融資を選んだ理由は何ですか。
創業期に利用できる融資制度があることを知り、今後の事業展開を見据えて、このタイミングで資金を確保しておこうと判断しました。
知人にもお手伝いいただいたので、手続きで特に苦労したことはありませんでした。
――――――そこから約半年で、VCからの資金調達に踏み切った理由を教えてください。
一番は、事業成長のスピードです。
この事業は、自己資金や売上を積み上げながら、時間をかけて成長させる選択肢もあったと思います。
ただ、日本酒業界の今の状況を考えると、このタイミングで事業を早く拡大していく必要があると考えました。
美容ゼリーの開発や、さらなる素材・商品開発を進めるための資金を確保したくて、VCへのアプローチを始めました。
結果として、公庫融資は創業直後の事業を立ち上げるための資金として、VCからの資金は、その後の成長スピードを上げるための資金として活用する形になりました。エンジェル投資家には、資金面だけでなく、経営経験やネットワーク、事業とのシナジーを生かした支援にも期待しています。
投資家とどう出会い、どう事業を伝えたか
――――――VCとはどのように出会ったのでしょうか。
StartupListで、自社の事業領域や調達フェーズに合いそうな投資家を検索したほか、投資家と直接会う機会として、イベントへの参加も継続していました。
VCの担当者やエンジェル投資家が参加するイベントには、積極的に足を運びました。SNSや人づてでつながる手段もあると思いますが、弊社は食品を扱う事業です。
そのため、直接会って商品を食べてもらい、興味を持ってもらうことが一番効果的でした。ピッチイベントにもいくつか登壇しました。
――――――ピッチでは、どのようなことを意識しましたか。
大きく3つあります。
1つ目は、なぜこの事業をやるのかという背景を、熱量を持って伝えることです。
創業して間もないので十分な実績はありませんし、私自身も社会人3年目で、経歴だけで勝負できるわけでもありません。
だからこそ、自分が何を信じてこの事業を行っているのか、どのような世界をつくりたいのかという熱量では、誰にも負けないつもりでピッチしました。
2つ目は、実際の商品を用意することです。
調味料であれば、成分が入っているものと入っていないものを食べ比べてもらいます。味や風味の違いを直接感じてもらうことで、商品の価値を実感してもらえたり、日常的に使うイメージを持ってもらえたりします。
3つ目は、想定される質問への回答を事前に用意しておくことです。
ピッチ資料は、補足資料を含めると40枚ほどあります。投資家との面談でもらった質問や、事前に調べたよくある質問に対して、現時点での自分の考えを資料に落とし込んでいきました。
面談のたびに質問を記録し、次の面談までに資料を修正する。この繰り返しを続けました。
出資の決め手と、投資家から断られた理由
――――――ANOBAKAからの出資につながった理由を、どのように捉えていますか。
1つは、ANOBAKAさんの投資先に、健康食品のD2C事業で成功している企業があったことです。
近い領域の事業を支援した経験があったため、カスフルの事業についても、成長のイメージを持っていただきやすかったのだと思います。
もう1つは、私自身の熱量です。ありがたいことに、私の熱量や可能性を評価していただきました。
―――――― 一方で、出資に至らなかった投資家からは、どのようなことを言われましたか。
明確でした。「酒粕の市場が本当に来るのか」。この一言に尽きます。
酒粕そのものは昔からありますが、投資家から見ると、それが今後大きな市場になるのか、カスフルがその市場をつくれるのかという点が重要になります。
事業の可能性を信じてくれるパートナーを探す難しさはありました。
一方で、どこを説明しなければ投資家に伝わらないのかが明確になったので、指摘を受けるたびに、市場の見せ方や資料を改善していきました。
初めてのVC調達で直面した、資本政策の難しさ
――――――初めてVCから資金調達を行うなかで、難しかった点は何ですか。
条件面と資本政策です。
資金調達について、知識としてはある程度理解していたつもりでした。しかし、実際に自分の会社の条件を決めるとなると、何が適切で、どのように交渉すべきなのか分からない部分が多くありました。
今回は株式(第三者割当増資)での調達だったため、企業価値をどの程度に設定するのか、どこまで株式を放出するのかは、かなり考えました。
評価額を高くしすぎると、次回の資金調達で求められる成長水準も高くなります。一方で、評価額を低く設定しすぎると、創業者の持分を必要以上に放出することになります。
目の前の資金調達だけでなく、次回以降の調達も見据えて条件を決める必要がありました。
―――――― その判断は、どのように進めたのでしょうか。
分からないことは、先輩起業家や、StartupListを運営するプロトスターの松尾さんに相談しながら決めていきました。
初めて外部から資金調達を行う立場では、公庫融資を先に活用すべきなのか、VCから調達すべきなのか、提示された条件が妥当なのかを、自分だけで判断するのは難しかったです。
プロトスターは資金調達に関する知見を持ちながら、自ら出資する投資家ではありません。そのため、特定の投資家からの調達を前提とせず、中立に近い立場で相談できたことも安心材料でした。
実際に、複数のVCをご紹介いただき、事業領域やフェーズ、相性を踏まえて、具体的に相談すべきキャピタリストまで教えてもらいました。条件面や資本政策についても、目の前の調達だけでなく、次回以降の資金調達への影響を踏まえて相談できました。
また、資金調達は、それ自体が目的ではなく、ミッションの実現や事業成長のための手段です。ファイナンスに限らず、採用やマーケティングなどの事業課題も踏まえ、調達した資金をどの領域に配分し、どのように成長につなげていくかまで事前に整理できたことは、非常に心強かったです。
資本政策は不可逆なので、分からないまま進めず、経験のある人や、複数のスタートアップを見ている人に聞いた方が圧倒的に良いと思います。
エンジェル投資家は、事業との相性と関係性で選ぶ
――――――今回、エンジェル投資家からの資金調達も決まったそうですね。
はい。
単に資金を提供してもらうだけではなく、今後の事業を進めるうえで、ぜひ投資家として入っていただきたいと思える方から出資いただくことが決まりました。
今回出資いただくエンジェル投資家とは、松尾さんからの紹介で知り合いました。
直近で事業売却も経験されている先輩起業家で、とても相談しやすい方です。サロン経営もされているため、今後展開する美容ゼリーを含め、弊社の商材との相性も良いと感じています。
資金面だけでなく、経営経験やネットワーク、事業とのシナジーを生かしながら、今後の成長を一緒に考えていただける方だと感じています。
――――――VCとエンジェル投資家では、見られるポイントに違いを感じますか。
エンジェル投資家の場合は、特に関係性があったうえでの出資という側面が強いと感じます。
一定の期間、コミュニケーションを重ねるなかで、この経営者はPDCAを回せるのか、前回からどのような進展があったのかを見られていると思います。
毎回の面談や連絡で、何かしらのアップデートを伝えられるか。その積み重ねが信頼となり、出資決定につながったのだと思います。
これから資金調達に臨む起業家へ
―――――― 資金調達を考えている起業家に、一番伝えたいことは何ですか。
ありきたりかもしれませんが、PDCAを回すことです。
まずは一定数の投資家と話してみる。実際に話さなければ、自分の事業がVCからの資金調達に向いているのか、どのような投資家が興味を持ってくれるのかは分かりません。
そのうえで、複数の投資家から共通して聞かれる質問や、繰り返し指摘されるポイントを資料に反映し、改善し続けることが重要です。
私は、1週間に2回投資家との面談があれば、週の前半の面談で受けた指摘を、後半の面談までに修正して臨んでいました。
毎回完璧な回答を用意することよりも、指摘を受けて、次の面談までに改善していることの方が重要です。
その積み重ねが、投資家からの信頼にもつながったと思っています。
投資家に紹介しやすい起業家には、共通点がある
――――――松尾さんは、多くの起業家を見てきた立場から、木築さんをどのように見ていますか。
投資家から応援される起業家には、いくつか共通点があります。
市場の大きさや成長性、経営者としての資質はもちろん重要です。そのうえで、誰のどのような課題を、どのように解決するのか。自分が取り組む必然性と、今このタイミングで挑む理由を明確に語れることも欠かせません。さらに、構想を言葉で語るだけでなく、実際に行動へ移し、事業を前に進める実行力や推進力があるかどうかも見られています。
木築さんは、面談のたびに前回の指摘を資料や事業に反映していました。商品を持ってイベントに足を運び、投資家から受けた質問を持ち帰り、次回までに改善する。
こうした改善のスピードと実行力から、事業への本気度と、経営者としての推進力が伝わり、投資家からの信頼や応援につながったのだと思います。私たちとしても、フィードバックを行動に変え、着実に事業を前に進められる起業家だからこそ、自信を持って投資家へご紹介できました。
また、初めての資金調達では、単に資金を集めることだけでなく、どの手段で、誰から、どのような条件で調達するかを考える必要があります。
公庫融資、VC、エンジェル投資家には、それぞれ異なる役割があります。同じVCでも、担当するキャピタリストによって、得意領域や支援スタイル、起業家との相性は異なります。
カスフルの場合、公庫融資は創業直後の事業基盤をつくるための資金として、VCからの資金は商品開発や事業成長を加速させるための資金として活用しました。
エンジェル投資家については、資金だけでなく、経営経験やネットワーク、事業とのシナジーまで踏まえて選んでいます。
加えて、今回の調達条件が、次回の資金調達や将来の選択肢にどのような影響を与えるかも重要です。
融資、VC、エンジェル投資家を別々に考えるのではなく、将来のIPOやM&Aも含め、事業の現在地と目指す姿から逆算して、資金調達全体を設計することが重要だと考えています。
投資家との出会いは、StartupListで
これから初めての資金調達に挑戦する方や、自社に合う投資家を探している方は、StartupListを活用し、事業領域やフェーズに合う投資家との接点を広げてみてください。
また、融資とVCからの資金調達の使い分けや、投資家・キャピタリストの選定、資本政策や調達条件の判断に悩んでいる方は、StartupListを運営するプロトスターへご相談ください。
事業の現在地や今後の成長戦略を踏まえ、資金調達の選択肢を一緒に整理します。
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カスフル株式会社
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