エンジェル投資とは、個人が自分の資産から未上場のスタートアップへ出資し、その企業が成長したときに株式の売却益を得る投資のことです。日本にはエンジェル税制という優遇制度があり、投資した年の所得税を減らせます。要件を満たす場合には、売却益が最大20億円まで非課税になる特例もあります。
この記事では、これからエンジェル投資を始める個人向けに、いくらから始められるのか、税制優遇をどう使うのか、投資先をどう見つけるのかを順に解説します。スタートアップと投資家のマッチングサービス「StartupList」を運営し、2016年の創業以来10,000社以上のスタートアップと接点を持ってきたプロトスター株式会社が、投資家の方から実際に寄せられる質問をもとにまとめました。
エンジェル投資とは
エンジェル投資とは、個人投資家が自分の資産から創業まもない未上場企業へ出資することです。出資する個人をエンジェル投資家と呼びます。ベンチャーキャピタル(VC)がファンドの資金を運用するのに対し、エンジェル投資家は自分のお金を自分の判断で出す点が決定的に違います。
| 項目 | エンジェル投資 |
|---|---|
| 資金の出どころ | 個人の資産 |
| 投資先 | 創業前後〜シード期の未上場企業 |
| 1件あたりの金額 | 数十万円〜数千万円 |
| リターンの形 | 投資先がIPOまたはM&Aに至ったときの 株式売却益 |
| 回収までの期間 | 5〜10年。途中で現金化する手段は ほとんどない |
| 税制優遇 | エンジェル税制(後述) |
意思決定が速いこと、金額が小さくても成立すること、投資家個人の経験や人脈をそのまま提供できることが、VCにはないエンジェル投資の特徴です。創業直後でVCの投資対象になりにくい段階の会社にとっては、エンジェル投資家が最初の資金の出し手になります。
エンジェル投資はいくらから始められるか
数十万円から始められます。金額の下限を定めた法律上のルールはなく、初回は1件あたり100万〜300万円程度から始める人が多い水準です。
| 投資の入口 | 1件あたりの目安 |
|---|---|
| 株式投資型 クラウドファンディング |
10万円前後から (1社あたりの年間投資上限は50万円) |
| 個人での直接出資 | 100万円〜1,000万円程度 |
| エンジェル投資家の グループ・シンジケート |
50万円〜300万円程度 (複数人で1社に出資する) |
ただし1社だけに投じるのは避けるのが原則です。後述のとおりスタートアップ投資は失敗する確率のほうが高く、複数社に分散して初めて期待値が成立します。「余裕資金のうち、全額失っても生活に影響しない範囲」で、何社に分けられるかから逆算するのが現実的な始め方です。
もうひとつ、金額を決めるときに効いてくるのが税制優遇です。後述するエンジェル税制の優遇措置Aは所得控除なので、軽減される金額は投資額ではなく自分の税率で決まります。所得税と住民税を合わせた税率は課税所得に応じて約15%から約56%まで開きがあり、税率の低い人は同じ額を投じても軽減額は小さくなります。少額から始められること自体は事実ですが、税制優遇まで含めて手ごたえが出るのは、年間で数百万円規模を複数社に投じられる人です。ここを最初に把握しておくと、期待と実際がずれません。
エンジェル税制とは
エンジェル税制とは、一定の要件を満たすスタートアップへ投資した個人投資家が、税制上の優遇を受けられる制度です。経済産業省が所管しています。他人が経営する会社へ投資する場合に使えるのは次の3つで、投資先の設立年数などによって使えるものが変わります。なお、自分で設立した会社に自己資金を入れる創業者向けには、別に起業特例があります。
| 種類 | 優遇の内容 | 対象企業 |
|---|---|---|
| 優遇措置A | (投資額-2,000円)を その年の総所得金額から控除 上限は総所得金額×40%と 800万円の低いほう |
設立5年未満 |
| 優遇措置B | 投資額の全額を その年の他の株式譲渡益から控除 上限なし |
設立10年未満 |
| プレシード・ シード特例 |
株式譲渡益を元手に再投資した分が 最大20億円まで非課税 20億円を超える分は課税繰延 |
設立5年未満で 営業損益0未満など 追加要件を満たす企業 |
優遇措置Aと優遇措置Bはどちらを選ぶべきか
その年に株式の譲渡益があるかどうかで決まります。
- 選び方の目安
- 給与所得が中心で株式の売却益がない年:優遇措置A。総所得から直接引けるため、所得税が減る
- 株式や投資信託の売却益が大きい年:優遇措置B。上限がないため、譲渡益が大きいほど効果が出る
- 会社を売却した資金で再投資する場合:プレシード・シード特例。売却益そのものが最大20億円まで非課税になる
同一の投資について優遇措置AとBを重複して使うことはできません。どちらが有利かは所得の内訳で変わるため、金額が大きい場合は確定申告の前に税理士へ相談してください。
プレシード・シード特例が最も大きい
3つのうち効果が突出しているのがプレシード・シード特例です。株式の譲渡益を元手にスタートアップへ再投資すると、その譲渡益が最大20億円まで非課税になります。20億円を超える部分も課税されなくなるわけではなく、課税が繰り延べられます。
会社を売却した起業家が、その資金で次の世代へ投資する流れを想定した制度です。この特例を使う場合、投資先には「営業損益が0未満」などの追加要件があり、そのかわり外部資本比率の要件は6分の1以上から20分の1以上に緩和されます。
ほかの制度と比べたときの位置づけ
個人が使える控除の枠としては大きいほうですが、元本を失う可能性も比べものにならないほど大きい制度です。
| 制度 | 年間の控除枠 | 留意点 |
|---|---|---|
| ふるさと納税 | 年収に応じて 数万〜数十万円 |
借入は不要。減税というより 税の前払いに近い |
| iDeCo | 働き方により 年14.4万〜81.6万円 |
借入は不要。原則60歳まで 引き出せない |
| 不動産投資 | 物件の規模次第で 大きい |
数千万円の借入を伴うことが 多い。空室・価格下落のリスク |
| エンジェル税制 | 措置A:年800万円が上限 措置B:上限なし |
借入は不要。投資先の大半は 回収できず、分散が前提 |
枠の大きい制度には借入や長期の拘束が伴うのが普通で、その点エンジェル税制は借入なしで数百万円規模の控除枠を使えます。ただし節税だけを目的に使う制度ではありません。控除で戻る額には上限がある一方、投資した元本は全額失う可能性があります。投資先を応援したいという動機が先にあって、税制はその負担を軽くする仕組みだと考えてください。
対象になる企業の要件
エンジェル税制はどの未上場企業への投資でも使えるわけではありません。投資先が要件を満たしている必要があります。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 設立年数 | 優遇措置Aは5年未満 優遇措置Bは10年未満 プレシード・シード特例は5年未満 |
| 外部資本比率 | 特定の株主グループ以外からの投資が 優遇措置A・Bは6分の1以上 プレシード・シード特例は20分の1以上 (特定の株主グループの持株割合が 6分の5を超えないこと、と同じ意味) |
| 事業の状況 | 設立経過年数の区分ごとに、研究開発費の 比率・営業損益・売上高成長率などの 要件が定められている。設立後まだ最初の 事業年度を経過していない会社は、 適用される要件が異なる |
| 会社の属性 | 中小企業者であること 大規模法人グループの子会社でないこと 未上場・未登録であること 風俗営業等に該当する事業を 行っていないこと |
要件は投資先の側で満たすものです。投資家が単独で判断できるものではないため、出資を検討する段階で「エンジェル税制の対象になるか」を会社に確認するのが実務上の手順になります。すでに確認を受けている企業もあります。
細かい区分は中小企業庁が公開している「エンジェル税制企業要件判定シート」で確認できます。設立からの年数が同じでも、最初の事業年度を経過しているかどうかで判定が変わるため、投資先の決算期も合わせて確認してください。
投資家として会社に聞いておきたいのは、次の4点です。
- 出資前に会社へ確認すること
- エンジェル税制の対象になる見込みがあるか:設立年数と株主構成で決まる。対象外なら優遇は使えない
- どの優遇措置を想定しているか:会社の設立年数によって、投資家が使える措置が変わる
- 過去に確認書を取得した実績があるか:実績のある会社は手続きに慣れており、交付までが早い傾向がある
- 今回の出資でも申請する意思があるか:申請するのは会社側。会社が動かないと投資家は優遇を受けられない
手続きの流れ
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 1. 事前の確認 | 投資先がエンジェル税制の対象要件を 満たすか確認する |
| 2. 出資 | 払込みを行い、株式を取得する |
| 3. 確認書の取得 | 投資先の会社が都道府県または 経済産業局へ申請し、確認書の交付を受ける 投資家はその確認書を受け取る |
| 4. 確定申告 | 確認書などの必要書類を添えて 確定申告を行う |
注意が必要なのは3の確認書に時間がかかることです。確定申告期限の直前に申請すると交付が間に合わないおそれがあると、経済産業省も申請ガイドラインで注意喚起しています。年内に出資したら、年明けを待たずに会社側へ申請状況を確認しておくのが安全です。
なお、認定を受けた投資事業有限責任組合(LPS)や株式投資型クラウドファンディング(ECF)を経由した投資も、非課税措置の対象になります。制度の詳細と最新の要件は経済産業省・中小企業庁の公式ページで確認してください。
URL:経済産業省 エンジェル税制
エンジェル投資のリターンとリスク
税制優遇は投資の判断材料の一部でしかありません。前提として、エンジェル投資は投じた資金が戻らない可能性が高い投資です。
- 始める前に理解しておくこと
- 大半は回収できない:スタートアップの多くはIPOにもM&Aにも至りません。投資先の大半が価値を失うことを前提に、少数の成功で全体を回収する構造です
- 回収まで5〜10年かかる:未上場株は市場で売買できません。IPOかM&Aが起きるまで現金化する手段は実質ありません
- 途中で追加の資金が必要になることがある:次のラウンドで出資しないと持分が薄まります
- 情報が少ない:上場企業と違い、決算情報も適時開示もありません。判断材料は経営者との対話が中心になります
この構造上、1社に集中せず、複数社に分散することが前提になります。1社あたりの金額を抑えてでも社数を確保するほうが、期待値は安定します。エンジェル税制の優遇は「損失を減らす仕組み」ではなく「利益が出たときの手取りを増やす仕組み」だと理解しておいてください。
エンジェル投資の始め方
投資先と出会うルートは5つあります。それぞれ金額の下限も、関与の深さも違います。
| ルート | 特徴 | 向いている人 |
|---|---|---|
| 株式投資型 クラウド ファンディング |
10万円前後から参加できる 審査済みの案件が並ぶ 1社あたり年間50万円の 投資上限がある |
まず少額で 経験を積みたい人 |
| 投資家 マッチング サービス |
起業家から直接オファーが届く 事業計画や経営者の経歴を 見てから会える 金額と条件は個別交渉 |
自分の基準で 選びたい人 |
| 知人・ 紹介 |
信頼できる相手に限られる 案件数は少ない |
すでに起業家の 知り合いがいる人 |
| ピッチ イベント |
複数社をまとめて見られる その場で経営者と話せる |
相場観を つかみたい人 |
| 投資家 コミュニティ 会員制 プログラム |
月例のピッチや勉強会で 継続的に案件を見られる 会費がかかるものが多い 審査を設けている場合もある |
年に何社かに 継続して 投資したい人 |
単発で1社を探すのか、毎年何社かに投じ続けるのかで、選ぶルートは変わります。年に複数社へ分散するつもりなら、案件が継続的に流れてくる仕組みを持っているかどうかが効いてきます。
最初の1件は、金額を抑えて経験を積むところから始めるのが現実的です。契約の形式、確認書の取得、確定申告までを一度通しておくと、2件目以降の判断が速くなります。
StartupListで投資先を探す
StartupListは、起業家と投資家をつなぐマッチングサービスです。8,500社以上のスタートアップと3,700名以上の投資家が登録しており、資金調達を進めている企業の事業内容・調達希望額・経営者の経歴を見たうえでコンタクトできます。起業家側からオファーが届く形でも案件に出会えます。
現在の登録対象はベンチャーキャピタル(VC)とCVCで、個人のエンジェル投資家については個別にご相談をお受けしています。個人で利用したい場合は、投資家登録フォームから必要事項を入力してください。運営するプロトスター株式会社から連絡し、面談のうえでご案内します。投資の方針や金額がまだ固まっていない段階でも構いません。
URL:投資家登録フォーム
投資先を見極める4つの視点
VCが投資判断で見ている点は、個人のエンジェル投資でもそのまま使えます。
- 最低限確認したいこと
- 市場:解決する課題の深さと市場の大きさ。課題が浅い、市場が小さい事業は、成功しても大きな回収にならない
- 経営チーム:やり切る力と、その人がその事業をやる理由。シード期は事業計画より人で決まる比重が大きい
- 資本政策:すでに誰がどれだけ持っているか。創業者の持分が極端に少ない会社は、次の調達で行き詰まりやすい
- 次の資金の出し手:自分の次にVCが入る見込みがあるか。続く資金がないと、投資先は成長の途中で止まる
とくに資本政策は、上場企業への投資にはない確認項目です。株主構成と発行済株式数、過去の調達条件は必ず見せてもらってください。ここが歪んでいる会社は、その後どれだけ事業が伸びても投資家のリターンにつながりにくくなります。
VCがどのような基準で投資先を選んでいるかは、VC(ベンチャーキャピタル)一覧で各社の投資条件を確認できます。プロがどの段階にいくら出しているかを知ると、自分の投資判断の基準を作りやすくなります。
エンジェル投資に関するよくある質問
エンジェル税制とは何ですか?
一定の要件を満たすスタートアップへ投資した個人が、税制上の優遇を受けられる制度です。他人が経営する会社へ投資する場合に使える優遇は3つあり、投資額を総所得から控除する優遇措置A、他の株式譲渡益から控除する優遇措置B、株式譲渡益を元手にした再投資が最大20億円まで非課税になるプレシード・シード特例があります。
エンジェル税制のデメリットは何ですか?
手続きに手間と時間がかかることです。投資先の会社が都道府県または経済産業局へ申請し、確認書の交付を受ける必要があり、確定申告期限の直前に申請すると間に合わないおそれがあります。また、優遇措置Aで控除を受けた金額は取得価額から差し引かれるため、将来売却したときの譲渡益が大きくなります。制度自体が投資の損失を補填するものではない点にも注意が必要です。
エンジェル投資は節税になりますか?
エンジェル税制の要件を満たす企業への投資であれば、投資した年の所得税・住民税を軽減できます。ただし軽減される金額は投資額ではなく本人の税率で決まり、所得税と住民税を合わせた税率は課税所得に応じて約15%から約56%まで幅があります。また優遇措置Aで控除を受けた金額は株式の取得価額から差し引かれるため、将来売却したときの譲渡益はその分大きくなります。節税だけを目的にした投資には向きません。
エンジェル投資はいくらから始められますか?
数十万円から可能です。株式投資型クラウドファンディングなら10万円前後から参加でき、1社あたりの年間投資上限は50万円です。個人での直接出資は100万〜1,000万円程度で、初回は100万〜300万円程度から始める人が多い水準です。ただし1社に集中せず複数社へ分散することが前提になるため、「全額失っても生活に影響しない資金を、何社に分けられるか」から逆算してください。
エンジェル投資の成功率はどのくらいですか?
投資先の大半はIPOにもM&Aにも至りません。少数の成功で全体を回収する構造のため、1社ごとの成功率で考えるのではなく、複数社に分散したポートフォリオ全体で判断する投資です。回収までは5〜10年かかり、その間は現金化できません。
エンジェル投資家になるのに資格や届出は必要ですか?
個人が自己資金で未上場株を取得することに、資格や登録は必要ありません。ただし他人から資金を集めて運用する場合は金融商品取引法の規制対象になります。自分の資産の範囲で投資する限りは届出なしで始められます。
エンジェル投資家とVCは何が違いますか?
資金の出どころが違います。エンジェル投資家は個人の資産、VCは投資家から集めたファンドの資金です。VCにはファンドの運用期間があるため回収時期の制約を受けますが、エンジェル投資家は自分の判断で期間を決められます。金額はエンジェルが数十万〜数千万円、VCは1,000万円以上が中心です。詳しくは【図解】VC・CVC・エンジェル投資家の違いで解説しています。
投資した会社が倒産したらどうなりますか?
株式の価値はゼロになります。株主は債権者への弁済が終わったあとの残余財産を受け取る立場のため、実質的に回収できないと考えてください。なお、エンジェル税制の対象企業への投資で損失が出た場合、その損失を株式譲渡益と通算し、翌年以降3年間繰り越せる仕組みがあります。
まとめ:はじめてのエンジェル投資で押さえること
- この記事の要点
- エンジェル投資は数十万円から始められる。株式投資型クラウドファンディングなら10万円前後から
- エンジェル税制には優遇措置A・優遇措置B・プレシード・シード特例の3つがあり、その年に株式譲渡益があるかで選ぶものが変わる
- 最も効果が大きいのはプレシード・シード特例で、譲渡益を元手にした再投資が最大20億円まで非課税になる
- 確認書の交付には時間がかかる。確定申告期限の直前に動くと間に合わないことがある
- 投資先の大半は回収できない。1社に集中せず分散することが前提になる
- 市場・経営チーム・資本政策・次の資金の出し手の4点は最低限確認する
税制の適用可否や控除額は、個々の所得の状況と投資先の要件によって変わります。金額が大きい場合は、確定申告の前に税理士へ相談してください。この記事は制度の概要を解説したもので、個別の税務判断を示すものではありません。また、特定の企業への投資を勧誘・推奨するものでもありません。投資の判断はご自身で行ってください。
この記事について:スタートアップと投資家のマッチングサービス「StartupList」を運営するプロトスター株式会社が執筆しました。2016年の創業以来、10,000社以上のスタートアップ・ネットワークをもとに資金調達を支援し、エンジェル投資家からのご相談も受けています。
最初の1件は、案件を見て相場観をつかむところからで構いません。StartupListを個人で利用したい場合は、投資家登録フォームから入力してください。運営するプロトスター株式会社から連絡し、面談のうえでご案内します。
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