銀行が、なぜ共同創業者になるのか
事業アイデアはある。けれど、試作品をつくる資金も、顧客の声を聞く場も、一緒に動く仲間も足りない。起業はしたものの、検証や顧客開拓が思うように進まない。
そんな起業家に向けて、秋田銀行が始めたのが「スクラム・コモンズ」です。
秋田銀行が「共同創業者」となり、事業化前からチームを組んで、最大24か月にわたり事業開発・実証を進めます。採択者1名あたり、業務委託料と実証費を合わせて、最大1,300万円相当の事業開発環境が用意されています。
銀行と一緒に事業をつくるとは、どういうことなのか。どんな方に向いているのか。StartupListを運営するプロトスター株式会社の取締役 松尾が、本プログラムの企画を担当する秋田銀行 地域価値共創部の三浦氏に伺いました。
お話を伺った方

秋田銀行 地域価値共創部 プランナー
聞き手

プロトスター株式会社 取締役
まず、どんな起業家に届けたいのか
松尾:まず、スクラム・コモンズの対象となる方と、現在どのような状況や課題を抱えている方に、特に知っていただきたいか教えてください。
三浦:起業する前の方と、起業して間もない方が対象です。たとえば、温めているアイデアはあるけれど、最初の一歩をどこから踏み出せばいいか迷っている方。仮説や試作品、顧客候補まではあって、検証を前に進めたい方。起業はしたけれど顧客が広がらず、事業を一から見直したい方。資金調達に取り組むなかで、お金だけでは足りないものがあると感じている方にも、ぜひ知っていただきたいですね。
松尾:秋田県外に住んでいる方も応募できるのでしょうか。
三浦:はい、全国から応募できます。ただ、採択後は秋田銀行と業務委託契約を結び、秋田県内で事業開発に専念していただくことが条件です。
松尾:アイデアの段階でも、応募して大丈夫ですか。
三浦:大丈夫です。完成した商品や売上の実績は求めていません。それよりも、どんな地域や社会にしたいのかという思いを持っていることが大切です。
また、急成長やIPO、M&Aだけを事業化のゴールとは考えていません。地域に根を張り、長く続いていく事業も、私たちが一緒につくりたい事業です。
松尾:これまでの創業支援から一歩踏み込み、秋田銀行が「共同創業者」として事業づくりに参加する仕組みにしたのは、なぜでしょうか?
三浦:きっかけは、前身のプログラム「スクラム」での経験です。起業家の皆さんと一緒に100社以上の企業や顧客を訪ね、その後の伴走も含めて5名の事業化につながりました。ただ、その過程で、事業になる手前の段階は、助言や紹介だけではなかなか越えられないこともわかりました。
事業化前は、収益の見通しがまだ立ちません。融資や出資では、起業家にとっても銀行にとってもリスクが見合いにくく、売上に直結しない検証に時間やお金をかけにくいのです。今ある仕組みの手が届きにくい、いわば空白地帯になっています。
そこで、事業そのものを銀行の中で立ち上げることにしました。銀行の事業として進めるからこそ、人もお金も投じられ、リスクも引き受けられます。起業家の事業を外から支える伴走ではなく、自分たちの事業として一緒につくる共創です。
自ら資金を集めて挑戦する起業家の方々には、心から敬意を持っています。そのうえで、起業の始め方はそれだけではなくてもいいはずだと考えました。地域で新規事業が絶えず立ち上がる、新しい0→1のモデルをつくりたい。それがこのプログラムに込めた思いです。
銀行と組むと、事業づくりはどう変わる?
松尾:採択後、起業家と秋田銀行は、どのように事業づくりを進めていくのでしょうか。
三浦:まず前提として、銀行は事業のアイデアを持っていません。アイデアを持っているのは起業家の皆さんです。その0.1を、一緒に1にしていくのがスクラム・コモンズです。
採択された方には、秋田銀行と業務委託契約を結び、銀行の新規事業という位置づけで、開発を進めていただきます。仮説を立て、試作品をつくり、顧客に提案し、テスト販売をして、また改良する。この流れを、最大24か月かけて何度も繰り返します。うまくいかなければ前の段階に戻って、もう一度試せばいい。短い期間での当たり外れではなく、2年という長い時間軸で事業を育てていく考え方です。
松尾:その中で、秋田銀行はどのような役割を担うのでしょうか。
三浦:銀行は、地域の信頼のハブのような存在だと思っています。秋田銀行をメインバンクとする取引先は6,000社以上あり、若手経営者や後継者のための経営塾「あきた未来塾」も運営しています。こうしたつながりを生かして、起業家が会うべき顧客や協力先につなぎ、事業が秋田の現場に合うかどうかを一緒に確かめていきます。
県外とのつながりもあります。JR東日本グループのビジネス創造拠点「LiSH」との連携や、新規事業開発の知見を持つGOB株式会社によるメンタリングなども用意しています。秋田を事業の実証フィールドにして、そこで磨いた事業を全国、そして世界へ広げていきたいと考えています。
松尾:検証がうまくいかなかった場合や、事業化できた場合は、どうなるのでしょうか。
三浦:起業家と銀行、お互いに不幸にならない仕組みにしたいと考えました。開発や実証にかかる費用は銀行が負担するので、事業化を断念しても、起業家に負債は残りません。だからこそ、思い切って挑戦していただけます。
24か月の実証を終えたら、その結果をもとに、3か月かけて起業家と銀行で事業化するかどうかを判断します。事業化する場合は、採択者が秋田県内で登記済み、または新たに設立した法人に、適正な評価額で事業を譲渡するのが基本です。譲り受けるための資金調達についても、銀行として相談に乗ります。
まずは情報を受け取るところから
スクラム・コモンズのプレエントリーは、正式応募や選考ではありません。
入力は30秒ほどで、オンラインでの個別相談やイベントの案内を受け取れます。アイデアがまだ形になっていない方も、まずは登録してみてください。
▶ スクラム・コモンズにプレエントリーする
https://www.akita-bank.co.jp/corporation/project/scrum-commons/
[StartupList編集部の整理]
融資やエクイティと比べて分かる、スクラム・コモンズの位置づけ起業家が事業のための資金を用意する方法は、一つではありません。段階によって合う方法が変わります。
【融資】
・返済:必要
・株式:渡さない
・合いやすい段階:事業計画や収益の見通しを示せる段階
【エクイティ(出資)】
・返済:不要
・株式:渡す
・合いやすい段階:大きな成長を目指し、投資家と目線を合わせられる段階
【スクラム・コモンズ】
・検証期間中の返済:不要
・検証期間中の株式提供:不要
・業務委託料:月額最大20万円(最大24か月)
・実証費:最大820万円の範囲で、事業開発・実証に必要な経費を秋田銀行が負担
・事業化時:採択者の法人が、適正な評価額で事業を譲り受けることが基本
スクラム・コモンズは、融資や出資を受ける前の、収益の見通しが立ちにくい検証段階を支える仕組みです。事業化する場合は、採択者の法人が事業を譲り受けるための資金調達が必要になります。その段階では、融資や出資も選択肢に入ってきます。
応募を迷う方へ。三浦氏からのメッセージ
松尾:銀行や地域の方々と事業をつくるうえで、どのような姿勢や行動を期待されていますか?
三浦:まず持ってきていただきたいのは、夢です。地域や社会をどう良くしたいのかという、ご自身の世界観ですね。
そのうえで、アイデアについては、誰のどんな課題を、どうやって解決したいのかを、ご自身の言葉で説明できるとよいと思います。完璧な計画である必要はありません。採択後に、銀行や地域の皆さんと一緒に検証し、磨いていけばいいのです。
もう一つ大切なのは、採択後に事業開発に専念できる状態をつくっていただくことです。2年間、腰を据えて事業に向き合うプログラムなので、そこは覚悟を持って臨んでいただきたいと思っています。
松尾:最後に、「まだアイデア段階なので、自分には早いかもしれない」と迷っている方に、メッセージをお願いします。
三浦:「銀行はどこまで本気で関わってくれるのか」と思われる方もいるかもしれません。スクラム・コモンズの事業は、秋田銀行の事業でもあります。起業家と銀行は、一緒の舟に乗っているんです。
私たちが探しているのは、支援する相手ではありません。一緒に事業をつくってくれる仲間です。アイデアがまだ形になっていなくても、地域や社会を良くしたいという気持ちがあれば、ぜひ声をかけてください。まずはプレエントリーをして、個別相談で話を聞かせていただけたらうれしいです。
スクラム・コモンズ 募集概要
※実証費は採択者に一括支給されるものではありません。事業開発・実証に必要な経費を、最大820万円の範囲で秋田銀行が負担します。業務委託料および実証費の詳細な条件は、公式サイトや個別相談でご確認ください。
募集要項を確認し、プレエントリーへ
自分のアイデアや今の状況で参加できるか気になった方は、公式サイトで募集内容をご確認ください。プレエントリーすると、オンラインでの個別相談の案内が届きます。
▶ スクラム・コモンズの詳細を見る・プレエントリーする
https://www.akita-bank.co.jp/corporation/project/scrum-commons/
※正式応募・審査の日程を含む最新情報は、公式サイトをご確認ください。
編集後記
取材を通じて感じたのは、起業家がつまずきやすい最初の壁に、正面から向き合うプログラムだということです。
事業を始めたばかりの起業家にとって、最初の顧客を見つけることは、もっとも難しい仕事の一つです。そこに、地域の多くの企業とつながる銀行が、同じ舟に乗って一緒に取り組んでくれる。業務委託料や実証費に加え、仲間や協力先と出会える機会まで含めて、起業家が本当に困る場面をよく捉えた支援だと感じました。
エクイティで一気に資金を集めるのも、一つの道です。ただ、その前に、顧客の声を聞き、仮説を検証し、事業の足腰をつくる。融資や出資を受ける前の事業検証を支える新しい選択肢として、多くの起業家に知ってほしい取り組みです。
採択されれば、秋田に拠点を移し、最大24か月にわたって事業開発に専念することになります。その決断と覚悟は、起業家自身が引き受けるものです。一方で、その条件に向き合える方にとっては、秋田銀行や地域の企業とともに、事業化前の仮説検証を大きく前進させられる、非常に有力な選択肢だと感じました。
StartupList編集部からのお知らせ|自社に合った投資家との接点を
StartupListでは、会社情報を登録することで、VC・CVC・事業会社など、スタートアップへの投資を検討する投資家からコンタクトを受け取る機会をつくれます。創業融資や保証協会付き融資など、融資を含めた資金調達のご相談にも対応しています。創業前や資金調達前の会社も登録できます。
▶ 1分でStartupListに無料登録する
https://www.startuplist.jp/signup



