資本政策とは、事業の成長に必要な資金を確保しながら、将来の株主構成や持株比率を設計する計画です。スタートアップでは、誰から、いつ、いくら調達し、その結果として誰が何%の株式を持つのかを、採用計画やIPO・M&Aまで見据えて考えます。
目の前の調達だけを見て出資を受け入れると、次の調達で創業者の持分が想定以上に下がったり、投資契約の条件によって経営判断や売却先の選択が難しくなったりします。発行済みの株式や合意済みの契約条件を変更するには、相手の同意や法的な手続きが必要です。
そのため、資本政策は調達する前に、将来から逆算して作ることが大切です。
この記事では、創業からシリーズAまでの資本政策表を株数と持株比率で計算しながら、作り方と確認すべきポイントを解説します。最初の投資家の選び方、ストックオプション、J-KISS、融資との組み合わせ、よくある失敗も取り上げます。
- この記事でわかること
- 資本政策の目的と、事業計画・資金計画との関係
- 資本政策表に載せる項目と、株数・持株比率の計算方法
- 過半数・3分の2・3分の1という議決権のラインの意味
- 投資家選び、ストックオプション、J-KISSで確認する条件
- 融資を組み合わせた場合の希薄化の違い
- 資本政策の失敗を防ぐために、調達前に決めておくこと
資本政策とは
資金調達と将来の株主構成を一緒に考える計画
資本政策には、株式の発行だけでなく、既存株式の譲渡、ストックオプションの設計、株式分割なども含まれます。スタートアップの資金調達では、まず次の4つを整理すると考えやすくなります。
| 決めること | 主な検討内容 |
|---|---|
| 誰に | 共同創業者、エンジェル投資家、VC、事業会社、役職員など |
| いつ | 創業時、シード、シリーズA、その後の調達や採用のタイミング |
| いくらで | 調達額、企業価値の評価、1株あたりの発行価格 |
| 何% | 調達後の持株比率、議決権、ストックオプションを含む将来の持分 |
この4つはつながっています。同じ評価額でも、調達額を増やせば新たに発行する株式が増え、既存株主の持株比率は下がります。必要な資金を集めることと、経営への関与や将来の利益配分をどう設計するかを、同時に考える必要があります。
資本政策を作る3つの目的
1つ目は、成長に必要な資金を確保することです。
開発、採用、営業などに必要な資金を、必要な時期までに調達できるよう計画します。持株比率を守るために調達額を抑えすぎて、次の目標に届く前に資金が尽きてしまっては意味がありません。
2つ目は、経営の意思決定の仕組みを設計することです。
誰が株主になるか、どのくらいの議決権を持つか、投資家の事前承諾が必要な事項は何かによって、経営上の決定の進め方が変わります。
3つ目は、役職員や投資家と将来の成果をどう分けるかを決めることです。
創業者の持分、採用に使うストックオプション、投資家の優先分配条件などは、IPOやM&Aの際の受取額に影響します。資本政策では、持株比率に加えて株式や契約の条件も確認します。
事業計画と資金計画から資本政策を作る
資本政策は、事業計画や資金計画と行き来しながら作ります。
| 計画 | 決めること |
|---|---|
| 事業計画 | いつまでに、どの事業上の目標を達成するか |
| 資金計画 | そのためにいくら必要か、手元資金がいつまで持つか |
| 調達方針 | 出資、融資、補助金などをどう組み合わせるか |
| 資本政策 | 出資やSOによって、株主構成・持分・権利がどう変わるか |
まず事業上の目標と必要資金を置き、その調達を実行した場合の持株比率を計算します。条件が厳しければ、事業の進め方、調達時期、出資と融資の配分などを見直します。
「何%までなら渡せるか」と「その資金で何を達成できるか」を、セットで判断することが重要です。
資本政策を後から修正するのが難しい理由
資本政策表は、事業の進捗や資金調達のたびに更新します。ただし、計画を見直すことと、すでに発行した株式や締結した契約を変更することは別です。
株式を取り戻すには相手との合意や手続きが必要になる
外部株主に渡した株式を、創業者や会社の判断だけで自由に取り戻すことはできません。売却に応じてもらえるか、価格はいくらか、譲渡承認や契約上の条件があるかを確認する必要があります。
会社が株主との合意により自社株式を買い戻す場合には、原則として会社法に基づく決議が必要です。特定の株主からの取得には、原則として株主総会の特別決議などの手続きが求められ、取得対価には分配可能額の制限もあります。
分配可能額は、預金残高や過去の利益と同じものではありません。 利益剰余金だけでなく資本剰余金なども関係し、資本金・準備金の減少等によって確保できる場合もありますが、所定の手続きと計算が必要です。
また、創業者個人や第三者が株式を購入する場合は、会社による自己株式取得とは別の取引です。修正の方法はありますが、資金、相手の同意、税務、契約条件を含めて検討しなければなりません。
社外CFOの支援現場から
社外CFOの相談では、過去の資本政策を修正したいという依頼を受けることがあります。ただ、すでに株式を渡した後、条件に合意した後の修正は、難易度が高いものです。会社の都合だけでは変えられず、株主との合意や資金、法務・税務の整理が必要になります。資本政策は、次の資金調達や将来の出口から逆算して、実行前に考えておくことが大切です。後から直せばよいと考えず、調達前に一度立ち止まって確認してほしいと思います。
プロトスター代表・前川
資本政策表の作り方
資本政策表は、現在の株主構成と、将来の調達・株式発行による変化を一覧にしたものです。Excelやスプレッドシートで、株主を行、調達ラウンドを列にして整理できます。
資本政策表に載せる項目
| 項目 | 記載する内容 |
|---|---|
| 株主名・付与対象 | 創業者、投資家、SO保有者、将来のSO予定枠など |
| 株式・権利の種類 | 普通株式、優先株式、新株予約権など |
| 株数 | 各株主の保有株数、潜在株式数、予定枠 |
| 完全希薄化後の持株比率 | SOなどの潜在株式を含めた持分 |
| 議決権比率 | その時点で議決権を行使できる株式を基準とした比率 |
| 調達時期・調達額 | いつ、いくら調達するか |
| 1株あたりの発行価格 | 投資家が新株を取得する価格 |
| プレマネー・ポストマネー | 調達前と調達後の株式価値の評価 |
実務では、資本金・資本準備金の増加額、株式分割や株式譲渡の履歴、SOの行使価格なども必要に応じて加えます。
作成の手順
ステップ1 現在の株主構成を確認する
株主名簿、登記、投資契約、新株予約権の発行内容を照合し、現在の株数と権利を確認します。J-KISSなど未転換の権利がある場合も、一覧に含めます。
ステップ2 必要な調達額と時期を置く
事業計画と資金繰りから、次の目標までの必要額を計算します。出資で賄う分と、融資などで賄う分を分けます。
ステップ3 評価額と新たに発行する株数を計算する
想定するプレマネーを置き、1株あたりの価格、新株の発行数、調達後の持株比率を計算します。
ステップ4 採用に必要なSOと次の調達を加える
将来のSO予定枠も含め、少なくとも次の2ラウンド程度までを試算します。想定どおりに進む場合だけでなく、評価額が伸びない場合や追加資金が必要になる場合も比較します。
ステップ5 議決権と契約条件を確認する
比率の計算に加え、誰の賛成や承諾が必要になるか、M&A時に誰がいくら受け取るかを確認します。
持株比率と議決権比率を分ける
資本政策表では、次の2つを分けて管理します。
| 見方 | 何を確認するか |
|---|---|
| 完全希薄化後 | SOや転換証券などが株式になった場合の持分 |
| 議決権ベース | 現時点の株主総会で、誰がどれだけの議決権を持つか |
未行使のSOには議決権がありません。一方、議決権のない種類株式や自己株式などもあるため、発行済株式数と議決権数が必ず一致するわけではありません。
また、未発行のSO予定枠まで完全希薄化後の分母に含めるかは、評価額や投資条件の交渉で確認する必要があります。予定枠と、実際に発行・付与したSOは分けて記載します。
株数と持株比率の計算式
株式による新規出資を受ける基本的なケースでは、次の式を使います。
| 求めるもの | 計算式 |
|---|---|
| ポストマネー | プレマネー+新規出資額 |
| 1株あたりの発行価格 | プレマネー÷価格算定の基準となる調達前株式数 |
| 新たに発行する株数 | 新規出資額÷1株あたりの発行価格 |
| 新規出資分の持分 | 新規出資額÷ポストマネー |
プレマネーと持株比率で、同じ株式数の基準を使うことが前提です。SO予定枠の追加やJ-KISSの転換を同時に行う場合は、それらを織り込んで計算します。
なお、既存株主の株式を売買する「セカンダリー取引」では、代金は売り手に入り、会社への新規出資にはなりません。
評価額の基本はポストバリュー・プレバリューとは、希薄化の仕組みはダイリューションとはで解説しています。
資本政策表の計算例|創業からシリーズAまで
ここからは仮の会社を使って計算します。実在企業の事例や、調達額・評価額の相場を示すものではありません。
計算例の前提
- 代表Aと共同創業者Bの2人で設立する。
- 設立時にAが8,000株、Bが2,000株を取得する。
- エンジェルから1,000万円、シードで1億円、シリーズAで3億円を調達する。
- シード前に、未発行のSO予定枠を1,000株分設ける。
- 評価額の計算には、このSO予定枠を含む完全希薄化後株式数を使う。
- 発行する普通株式・優先株式は、いずれも1株1議決権とする。
- 計算期間中にSOの発行・行使、株式譲渡、株式分割はないものとする。
全体の株数の推移
| 株主・予定枠 | 株数 | 加わった時点 |
|---|---|---|
| 代表A | 8,000株 | 設立時 |
| 共同創業者B | 2,000株 | 設立時 |
| エンジェル投資家 | 1,000株 | エンジェル後 |
| シード投資家 | 4,000株 | シード後 |
| シリーズA投資家 | 4,000株 | シリーズA後 |
| 未発行のSO予定枠 | 1,000株 | SO予定枠設定後 |
前提のとおり、各株主の株数は加わった後は変わりません。時点ごとの合計は次のとおりです。
| 時点 | 発行済株式数 | 予定枠を含む完全希薄化後株 式数 |
|---|---|---|
| 設立時 | 10,000株 | 10,000株 |
| エンジェル後 | 11,000株 | 11,000株 |
| SO予定枠設定後 | 11,000株 | 12,000株 |
| シード後 | 15,000株 | 16,000株 |
| シリーズA後 | 19,000株 | 20,000株 |
単位は株です。SO予定枠の設定は、この計算上の枠を置くことであり、新株予約権を発行したことを意味しません。
設立時
1株100円で、代表Aが8,000株、共同創業者Bが2,000株を引き受けます。払込総額は100万円です。
この時点では、Aの持株比率・議決権比率は80%、Bは20%です。
エンジェルラウンド
プレマネー1億円で、1,000万円を調達します。
- 1株あたりの価格:1億円÷10,000株=10,000円
- 新たに発行する株数:1,000万円÷10,000円=1,000株
- 調達後の発行済株式数:11,000株
- エンジェル投資家の持分:1,000株÷11,000株=約9.1%
代表Aの持分は約72.7%、共同創業者Bは約18.2%になります。
SO予定枠の設定
シードの前に、将来の採用に備えて1,000株分のSO予定枠を置きます。
予定枠を含む株式数は12,000株となり、完全希薄化後の持分はAが約66.7%、Bが約16.7%です。ただし、実際の株式やSOはまだ発行していないため、議決権比率はAが約72.7%、Bが約18.2%のままです。
シードラウンド
SO予定枠を含むプレマネー3億円で、VCから1億円を調達します。
- 1株あたりの価格:3億円÷12,000株=25,000円
- 新たに発行する株数:1億円÷25,000円=4,000株
- 完全希薄化後株式数:16,000株
- 発行済株式数:15,000株
シード投資家の完全希薄化後持分は25%です。代表Aは完全希薄化後で50%、議決権では約53.3%になります。
創業者2人の議決権は、10,000株÷15,000株=ちょうど3分の2です。
シリーズA
完全希薄化後のプレマネー12億円で、新たなVCから3億円を調達します。
- 1株あたりの価格:12億円÷16,000株=75,000円
- 新たに発行する株数:3億円÷75,000円=4,000株
- 完全希薄化後株式数:20,000株
- 発行済株式数:19,000株
シリーズA後の構成は次のようになります。
| 株主・予定枠 | 株数 | 完全希薄化後/議決権 |
|---|---|---|
| 代表A | 8,000株 | 40.0%/42.1% |
| 共同創業者B | 2,000株 | 10.0%/10.5% |
| エンジェル投資家 | 1,000株 | 5.0%/5.3% |
| シード投資家 | 4,000株 | 20.0%/21.1% |
| シリーズA投資家 | 4,000株 | 20.0%<br>/21.1% |
| 未発行のSO予定枠 | 1,000株 | 5.0%/なし |
比率は端数処理により、表示上の合計が100%と一致しない場合があります。
この計算例からわかること
| 時点 | 創業者2人(完全希薄化後/ 議決権) |
代表A単独の議決権 |
|---|---|---|
| 設立時 | 100%/100% | 80.0% |
| エンジェル後 | 90.9%/90.9% | 72.7% |
| SO予定枠設定後 | 83.3%/90.9% | 72.7% |
| シード後 | 62.5%/66.7% | 53.3% |
| シリーズA後 | 50.0%/52.6% | 42.1% |
この例では、3回の外部調達とSO予定枠の設定により、創業者2人の完全希薄化後持分は50%になります。代表Aの議決権は、シード後に3分の2を下回り、シリーズA後に過半数を下回ります。
持分が下がったことだけで、資本政策の失敗とはいえません。 調達によって事業が成長し、企業価値が高まる可能性があるからです。確認すべきなのは、調達資金で何を達成するか、その後の意思決定や次回調達にどのような影響があるかです。
シードでの調達準備はシードラウンドとはでも解説しています。
持株比率と経営権の関係
過半数・3分の2・3分の1の意味
資本政策では、経済的な持分に加えて議決権を確認します。会社法上の代表的な目安は次のとおりです。
| 総議決権に対する保有割合 | 原則的な意味 |
|---|---|
| 過半数 | 一般的な普通決議や取締役の選任などで、 他の株主が反対しても単独で可決できる水準 |
| 3分の2以上 | 一般的な特別決議で、他の株主が反対しても単独で可決できる水準 |
| 3分の1超 | 自ら出席して反対することで、一般的な特別決議を阻止できる水準 |
この表は、定款による要件の変更・加重や、種類株式などによる特別な定めがない場合の基本的な整理です。投資契約上の承諾事項は別途確認します。
普通決議は原則として、議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数で成立します。特別決議は原則として、議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成で成立します。
つまり、決議時の賛成割合は、原則として出席した株主の議決権を分母に計算します。 総議決権の3分の2を持っていなければ特別決議を一切可決できない、という意味ではありません。適法な招集と定足数などの条件を満たしたうえで、出席状況によって結論が変わります。
非公開会社の増資やSO発行は原則として特別決議
多くのスタートアップは、すべての株式に譲渡制限を設けた「非公開会社」です。ここでいう公開・非公開は会社法上の区分であり、上場・非上場と同じ意味ではありません。
非公開会社では、新株や新株予約権を発行する際の募集事項は、原則として株主総会の特別決議で決めます。一定の事項を定めて取締役・取締役会に決定を委任する仕組みもあります。
先ほどの計算例で、全議決権が出席・行使され、決議要件に特別な定めがない場合を考えると、シード後は創業者2人がそろって賛成すれば特別決議に必要な3分の2を満たします。シリーズA後は2人合計で52.6%なので、特別決議を成立させるには投資家側の賛成も必要になります。
資本政策表では、こうした変化を事前に把握します。
出典:会社法第199条・第200条・第238条・第239条・第309条
持株比率だけでは経営の自由度は決まらない
創業者が3分の2以上の議決権を持っていても、投資契約で新株発行や重要な事業変更について事前承諾を約束していれば、その承諾が必要です。種類株式の内容によって、別途種類株主総会の決議が必要になる場合もあります。
取締役の指名・選任に関する取り決めも、経営体制に影響します。資本政策の確認では、持株比率、株式の内容、投資契約・株主間契約をセットで読むことが欠かせません。
最初の外部株主を迎える前に決めること
共同創業者との配分と離脱時の取り決め
創業時に50%ずつ株式を分けると、双方が対立した場合に株主総会の意思決定が行き詰まるおそれがあります。役割、責任、今後の関与を踏まえて配分を決め、意見が分かれた場合の対応も考えておきます。
さらに、共同創業者が途中で離脱した場合の株式の扱いを、創業時に取り決めておくことが重要です。離脱した人が大きな持分を持ったままだと、その後の調達や経営に影響する場合があります。
創業者間の契約では、離脱時の売渡しや買取りの条件、価格の決め方などを検討します。会社が買い取るのか、残る創業者が買い取るのかによっても制約が変わるため、契約内容は専門家と確認します。
最初の投資家は評価額だけで選ばない
| 候補 | 期待できること | 確認すること |
|---|---|---|
| エンジェル投資家 | 経営経験、専門知識、人脈、 初期の意思決定支援 |
支援の範囲、追加投資の方針、 株主としての関与 |
| VC | 調達条件の整理、他の投資家の紹介、 成長支援 |
リード投資の方針、投資対象、 追加投資の余力 |
| 事業会社・CVC | 販路、技術、 顧客基盤などを生かした協業 |
独占条件、情報共有、 競合企業との取引やM&Aへの影響 |
| 知人・家族 | 創業者への理解や初期資金の提供 | 投資リスクへの理解、権利関係、連絡・ 同意取得の負担 |
少額の出資を多数から受けると、株主総会の招集、契約変更、株式売却時の調整が増えます。株主数が多いこと自体が問題なのではありませんが、手続きと合意形成の負担も見込んでおく必要があります。
VCのリード投資と追加投資の方針を確認する
リード投資家は、そのラウンドの投資条件の交渉や取りまとめを中心となって進める投資家です。最初にVCを迎える際は、次を確認します。
- 自らリードを取る方針か、フォロワーとして参加する方針か。
- 次のラウンドでも追加投資できるか。
- 追加投資を判断する基準は何か。
- 投資できない場合に、次の投資家の紹介などを期待できるか。
既存VCが追加投資しないと、新規投資家から理由を確認されることがあります。ただし、シード特化の投資方針やファンドの事情によって参加しないケースもあり、不参加だけで事業の評価が低いとはいえません。
最初から投資方針を把握し、次の調達でどう協力してもらうかを話しておくことが重要です。
投資家を探す際は、VC一覧などで投資ステージや領域を比較できます。
事業会社からの出資は協業と出口への影響を確認する
事業会社からの出資は、販路や技術の獲得につながる一方、競合企業との取引・出資・買収交渉に影響することがあります。
確認したいのは、出資を受けることによって具体的に何が進むのか、独占的な取引条件や優先交渉権が付くのか、将来の買い手候補を狭めないかです。
事業会社が株主になることを一律に避ける必要はありません。協業の価値と、将来の選択肢にかかる制約を比較して判断します。 詳しくはCVCとはをご覧ください。
放出率は次の調達まで含めて考える
新規出資に対する放出率は、基本的に「調達額÷ポストマネー」で計算します。
例えば、プレマネー4億円で1億円を調達すると、新規出資分の持分は20%です。さらに次のラウンドでも20%を新規投資家に渡すと、もともとの株主の持分は80%×80%=64%になります。
1回ごとの割合を足すのではなく、ラウンドごとに残る割合を掛け合わせることが基本です。SO予定枠の追加などがあれば、その影響も反映します。
放出率に一律の正解はありません。必要資金、評価額、調達回数、採用計画を置いてから、自社にとって受け入れられる条件かを検討します。
ストックオプションとJ-KISSを資本政策に反映する
SOは採用計画から必要な枠を考える
ストックオプションは、あらかじめ決めた条件で株式を取得できる新株予約権です。採用や役職員へのインセンティブに使う一方、行使によって株式が増えれば、既存株主の持株比率が下がります。
SO枠は、次のラウンドまでに採用したい人材と付与方針から逆算します。計算例の1,000株も説明のための数字であり、推奨する枠の大きさではありません。
管理する際は、次の3つを区別してください。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 未発行の予定枠 | 将来の付与に備え、資本政策表に置く枠 |
| 発行・付与済みSO | 実際に新株予約権として発行したもの |
| 行使済みSO | 行使され、株式になったもの |
予定枠を確保しただけでは、法的な発行手続きは完了しません。非公開会社では、原則として株主総会の特別決議や、その決議に基づく委任などを通じて発行します。
また、一定の要件を満たし、経済産業大臣・法務大臣の確認を受けたスタートアップには、委任できる事項や期間を拡張するSOプール制度があります。制度を利用できるかも含めて、発行手続きを設計します。
SO枠を評価額にどう織り込むかで負担が変わる
投資家との交渉では、SO枠を調達前の株式数に含めるか、調達後に追加するかを確認します。
例えば、投資家の持分を確保したうえで、SO枠をプレマネーに含めて価格を計算する条件では、予定枠による希薄化を既存株主が負担する形になります。同じ「プレマネー3億円」でも、価格計算に含めるSO枠が違えば、発行株数が変わります。
評価額だけで合意せず、SO枠を含む株数と調達後の比率まで確認することが大切です。
税制適格SOで確認する主な要件
税制適格SOは、一定の条件を満たすことで権利行使時の課税を繰り延べ、株式売却時に譲渡所得として課税される制度です。税制非適格のSOとは課税のタイミングなどが異なります。
主に次の点を確認します。
| 項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 付与方法 | 無償で付与されることなど |
| 対象者 | 自社・一定の子会社の取締役や従業員等、一定の社外高度人材。 大口株主等には除外要件がある |
| 権利行使価額 | 原則として契約締結時の株価以上であること |
| 譲渡制限 | SO自体の譲渡を禁止していること |
| 行使期間 | 原則として付与決議日後2年を経過した日から10年を経過する日ま で。 一定の設立5年未満の非上場会社は15年まで |
| 年間行使限度額 | 原則1,200万円。一定の設立5年未満の会社は2,400万円、 設立5年以上20年未満で非上場または上場5年未満の会社は3,600万 円 |
| 株式の管理 | 証券会社等への保管委託、 または要件を満たす発行会社による管理など |
年間限度額は、利益額ではなく権利行使価額の合計に関するものです。この表は概要であり、会社の設立年数等の判定時点、契約内容、申告・届出なども確認が必要です。
J-KISSでも将来の持分を試算しておく
J-KISSは、Coral Capitalが公開する、新株予約権を用いた資金調達のための契約ひな形です。投資時点で株式の発行価格を確定せず、次回の一定規模の株式調達などに合わせて株式に転換する仕組みです。
後で株数が決まるからといって、資本政策への影響がなくなるわけではありません。主に次の条件が影響します。
| 条件 | 資本政策で確認すること |
|---|---|
| バリュエーションキャップ | 転換価額の計算に使う評価額の上限。2.0はポストマネー基準 |
| ディスカウント | 次回調達の株価に適用する割引。 キャップによる転換価額との比較が必要 |
| 転換の条件 | どの規模・条件の調達で転換するか、期限を迎えた場合の扱い |
| 転換前のM&A | 金銭での取得や株式への転換など、売却時の扱い |
J-KISS 2.0で、ポストキャップ3億円、投資額3,000万円とし、キャップが適用される場合、基本的な例では次回の新規出資による希薄化前の持分を「3,000万円÷3億円=10%」と見積もれます。
この10%は、次回調達が終わった後にもそのまま残る比率ではありません。 新たな出資で株式が発行されれば、その分さらに希薄化します。ディスカウントが適用される場合やSO枠が変わる場合などは、契約上の定義に従った計算が必要です。
Coralの公開説明では、転換前の買収時には投資額の2倍での金銭償還、またはキャップによる普通株式への転換が示されています。個別契約の修正もあり得るため、売却時の扱いまで確認します。
出典:Coral Capital J-KISS、J-KISS 2.0の計算例
優先株式と投資契約で確認する条件
持株比率だけではM&A時の受取額はわからない
VCからの出資では、普通株式と異なる権利を付けた優先株式を使うことがあります。特に確認したいのは、次の条件です。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 残余財産の優先分配 | 清算時に普通株式に先立って一定額を受け取る権利 |
| みなし清算 | 一定のM&A等で、 契約などに基づき清算に準じた分配を行う取り決め |
| 参加型・非参加型 | 優先分配後、残額の分配にも参加するかどうか |
| 普通株式への転換 | 請求やIPO等の条件により普通株式に転換する仕組み |
| 希薄化防止 | 後の調達で株価が下がった場合などに転換条件を調整する仕組み |
例えば、投資家が2億円を出資して20%、創業者が80%を持ち、会社の全株式を5億円で売却するケースを考えます。投資家は1社のみ、みなし清算が適用され、費用・税金などを考慮しない仮の例です。
| 分配条件 | 投資家の受取額 | 創業者の受取額 |
|---|---|---|
| 全員が普通株式で持分どおりに分配 | 1億円 | 4億円 |
| 1倍・非参加型で、 投資家が2億円の優先分配を選ぶ |
2億円 | 3億円 |
| 1倍・参加型・参加上限なし | 2.6億円 | 2.4億円 |
参加型の例では、投資家が先に2億円を受け取り、残る3億円の20%にあたる6,000万円も受け取ります。創業者が80%を持っていても、売却額の80%を受け取れるとは限りません。
実際には優先順位、参加上限、転換比率、複数ラウンドの条件などで変わります。IPOだけでなくM&Aも想定し、売却額をいくつか置いて試算しておくと判断しやすくなります。
投資契約と株主間契約の主な確認事項
| 条項 | 確認するポイント |
|---|---|
| 事前承諾事項 | どの経営判断で、誰の承諾が必要になるか |
| 取締役の指名等 | 投資家が経営体制にどう関与するか |
| 先買権 | 株式を譲渡する際、誰にどの条件で購入機会を与えるか |
| 共同売却権 | 創業者等が株式を売る際、他の株主が売却に参加できる条件 |
| 強制売却権 | 一定の条件で、他の株主にも売却への参加を求められるか |
株式の権利は定款、株主間の約束は契約に定められるなど、条件を確認する書類も異なります。評価額や調達額だけでなく、これらの条項を合わせて検討します。
融資を組み合わせると資本政策はどう変わるか
同じ必要資金でも出資額を抑えられる場合がある
通常の融資は株式を発行しないため、それ自体では持株比率を薄めません。返済可能性を踏まえて融資を組み合わせることで、出資による希薄化を抑えられる場合があります。
先ほどのシードの必要資金1億円について、全額を出資で調達する場合と、出資6,000万円・融資4,000万円で調達する場合を比較します。
比較条件は次のとおりです。
- シードのプレマネーは、両ケースとも3億円。
- シード前の完全希薄化後株式数は12,000株、発行価格は25,000円。
- シリーズAは、両ケースともプレマネー12億円で3億円を新規出資により調達する。
- 融資には新株予約権を付けず、SO予定枠も変更しない。
| 項目 | 全額出資1億円 | 出資6,000万円+融資4,000万円 |
|---|---|---|
| シードで発行する株数 | 4,000株 | 2,400株 |
| シード後の完全希薄化後株式数 | 16,000株 | 14,400株 |
| シード後の創業者2人の議決権 | 66.7% | 74.6% |
| シード後の代表Aの議決権 | 53.3% | 59.7% |
| シリーズAで発行する株数 | 4,000株 | 3,600株 |
| シリーズA後の創業者2人の議決権 | 52.6% | 58.8% |
| シリーズA後の代表Aの議決権 | 42.1% | 47.1% |
融資併用ケースのシリーズAの理論上の1株価格は、12億円÷14,400株=約83,333.33円です。表は端数処理前の理論値で計算しており、実際の発行では株価や株数を調整します。
この仮定では、融資を組み合わせることで創業者の持分をより多く残せます。ただし、融資を受けても同じ評価額で次回調達できると仮定した比較です。実際の評価額は事業の進捗、財務状況、交渉によって変わります。
持分と返済負担を一緒に見る
融資4,000万円には、利息や元本の返済が伴います。返済によって手元資金が減るため、出資1億円の場合と資金繰りが同じになるわけではありません。
返済に充てられる収入、据置期間、追加調達までの期間を確認し、資金繰り表で比較します。研究開発などで長期間売上が立たない場合には、出資の比重を高める判断も必要です。
出資と融資の性質は出資と融資の根本的な違い、制度の選択肢はスタートアップが使える融資制度一覧で整理しています。
新株予約権付きの融資は潜在株式も確認する
ベンチャーデットには、新株予約権が付く商品と付かない商品があります。新株予約権が付く場合は、その潜在株式を資本政策表に反映します。
ベンチャーデットという名称だけで、希薄化の有無は判断できません。 金利・返済条件に加え、新株予約権の株数、行使価格、行使条件などを確認します。
資本政策でよくある6つの失敗
共同創業者の離脱時の取り決めがない
創業時には問題がなくても、退職や役割変更が起きたときに株式の扱いで対立することがあります。最初の配分と合わせて、離脱時の売渡し・買取りの条件を決めておきます。
少額ずつ株式を渡して株主が増えすぎる
協力へのお礼として株式を渡す前に、将来の手続きや合意形成への影響を考えます。現金報酬や条件を設計したSOが適している場合もあります。ただし、SOも行使されれば株主が増えるため、人数や管理負担がなくなるわけではありません。
評価額だけで投資家と条件を決める
高い評価額でも、事前承諾の範囲、優先分配、事業上の独占条件などが厳しければ、将来の選択肢が狭まる場合があります。投資家の支援方針と契約条件を合わせて確認します。
次の調達とSO枠を計算していない
今回の調達後に十分な持分が残っていても、次の調達やSO枠の追加によって大きく変わります。少なくとも次の2ラウンド程度を置き、評価額が想定より伸びなかった場合も試算します。
希薄化を避けすぎて必要資金が不足する
渡す持分を小さくすることを優先しすぎると、次の事業目標を達成する前に資金が不足し、不利な条件で追加調達することになりかねません。必要額と資金繰りの余裕を確認して調達額を決めます。
IPOだけを想定してM&A時の条件を見ていない
IPOを目指していても、途中でM&Aが有力な選択肢になることがあります。優先分配や売却に関する契約条件を確認し、売却額ごとの受取額と、売却に必要な合意を把握しておきます。
資本政策は誰に相談するか
資本政策表の計算自体は、自社でも行えます。難しいのは、調達額、評価額、投資条件、採用計画、返済負担をどう組み合わせるかという判断です。
| 相談先 | 主に相談できること |
|---|---|
| CFO・社外CFO | 事業計画、必要資金、調達時期、出資と融資の組み合わせ、 資本政策全体の設計 |
| 弁護士 | 投資契約、株主間契約、種類株式、 意思決定や売却に関する法的条件 |
| 公認会計士・税理士 | 会計・税務、株価算定、SOや株式取引の税務上の扱いなど |
| 司法書士 | 株式・新株予約権の発行、定款変更等に伴う登記手続き |
専門家ごとに経験分野は異なるため、スタートアップの調達や資本政策を扱った経験があるかも確認します。
相談は、投資条件に合意してからではなく、投資家から条件提示を受けた段階や、初めて外部株主を迎える前に行うと、比較できる選択肢が残ります。
StartupListを運営するプロトスターの社外CFOサービスでは、資本政策、事業計画、出資と融資の組み合わせ、投資家面談の準備などを支援しています。調達額や条件を決める前に、資本政策を整理したい場合にご相談いただけます。
資本政策に関するよくある質問
資本政策はいつから考えればよいですか
創業メンバーの株式配分を決める時点からです。外部調達を予定している場合は、最初の外部株主を迎える前に、将来の調達とSOまで含めて試算します。
創業者は何%の株式を持っていればよいですか
一律の正解はありません。議決権の過半数・3分の2・3分の1超は重要な目安ですが、定款や投資契約、株式の種類によって経営への影響が変わります。必要資金と成長計画を踏まえ、どの段階でどのような意思決定体制にするかを考えます。
シードで渡す持分に上限はありますか
一律の上限はありません。必要な資金と評価額から放出率を計算し、次の調達やSO枠の追加も含めて判断します。今回の割合だけを小さくしても、資金不足で次の調達条件が悪化すれば、結果的に希薄化が大きくなる場合があります。
SOは議決権に含まれますか
未行使のSO自体には議決権がありません。行使後に取得する株式に議決権があれば、その株式について議決権を持ちます。資本政策表では、将来の完全希薄化後持分と現在の議決権比率を分けて確認します。
J-KISSは転換するまで資本政策表に載せなくてもよいですか
転換前から管理します。最終的な株数が未確定でも、投資額、キャップ、ディスカウントなどを記載し、次回調達の条件を置いて転換株数と希薄化を試算しておく必要があります。
融資は資本政策表に載せますか
通常の融資は持株比率の計算には入りませんが、調達計画として資本政策と合わせて管理します。新株予約権等が付く場合は、その潜在株式を反映します。
一度実行した資本政策は修正できますか
株式譲渡、自己株式取得、契約変更などによって修正できる場合はあります。ただし、相手との合意、資金、会社法上の手続き、税務などの制約があり、希望する形に戻せるとは限りません。実行前に複数の案を比較しておくことが重要です。
まとめ
資本政策は、事業に必要な資金を調達しながら、将来の株主構成、意思決定、成果の分配を設計する計画です。
調達前には、次の点を確認してください。
- 次の事業目標までに必要な資金と、その使い道が明確になっているか。
- 次の調達とSOを含めた株数・持株比率を計算しているか。
- 完全希薄化後の持分と、現在の議決権を分けて見ているか。
- 投資家の支援方針と、株式・契約の条件を確認しているか。
- IPOとM&Aの双方で、権利や受取額を検討しているか。
- 出資だけでなく、返済可能な範囲で融資も比較しているか。
資本政策表は、条件に合意する前に判断するための道具です。 事業の成長に必要な資金を確保できるか、次の調達や出口で困らないかを、数字と契約の両方から確かめておきましょう。
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※本記事は2026年11月時点で確認した公表情報に基づく一般的な解説です。計算例は仮定によるもので、調達条件の相場や特定の配分を推奨するものではありません。実際の発行・契約・税務の判断では、最新の制度と個別条件を専門家に確認してください。



