VCを唸らせる「ピッチデック」の構成テンプレート|SLピッチ115回の実績から導き出した正解

VCを唸らせる「ピッチデック」の構成テンプレート|SLピッチ115回の実績から導き出した正解

0025.11.21
この記事の監修・執筆:前川 英麿(プロトスター株式会社 代表取締役 / 元VC)
早稲田大卒業後、エヌ・アイ・エフSMBCベンチャーズ株式会社(現、大和企業投資株式会社、SMBCベンチャーキャピタル株式会社)等でVC投資活動に従事。現在はプロトスター株式会社代表取締役として、起業家支援インフラ「StartupList」を運営し、115回以上続くリアルイベント「SLピッチ」を主催。現場の視点でVCのリアルを解説します。

 

「素晴らしい事業なのに、資料(ピッチデック)がわかりにくくて損をしている」

「伝えたいことが多すぎて、結局何が言いたいのかわからないと言われる」

 

私は毎月開催している「SLピッチ」の審査や、個別のメンタリングで数千社のピッチを見てきましたが、「資料の構成」だけで損をしている起業家があまりに多いのが現実です。

 

VC(ベンチャーキャピタル)は、毎日大量のピッチデックを見ています。彼らの頭の中には「この順番で、この情報が知りたい」というフレームワークがあります。そこから外れると、どんなに良い事業でも理解される前に弾かれてしまいます。

 

この記事では、過去100回以上のピッチイベント実績から導き出した、日本のシードからアーリー期の資金調達における「ピッチデックの基本構成」を公開します。

 

【まずは全体像を知りたい方へ】

VCが審査で重視している「3つの視点(チーム・市場・プロダクト)」については、先に以下の記事を読むと資料の質が上がります。

元VCが暴露。投資家が初回面談で密かにチェックしている「3つの審査基準」とは


1. 【シード期向け】ピッチデック「基本の10枚」

まず大前提として、「シード期(創業期)」と「シリーズA以降(成長期)」では、求められる資料が全く異なります。

 

ここでは、StartupListの多くのユーザーが該当するであろう「シード・アーリー期」に焦点を当てた構成を紹介します。

 

実績(数字)が少ないこのフェーズでは、「課題の深さ」と「チームの魅力」を伝えることが最優先です。

スライド 項目(タイトル例) 内容・VCが知りたいこと
1 表紙(Cover) 会社名・サービス名・一言でいうと何か(タグライン)
2 課題(Problem) 誰の、どんな「痛み」を解決するのか?(Why Now)
3 解決策(Solution) その痛みをどうやって解決するのか?(Product)
4 市場規模(Market) その市場は将来どれくらい大きくなるか?(TAM)
5 ビジネスモデル どうやって儲けるのか?(マネタイズ)
6 トラクション 進捗はあるか?(β版ユーザーの声、初期の売上など)
7 競合優位性(Moat) 他社に勝てる理由は?(ポジショニング)
8 成長戦略 今後どうやって拡大するのか?(ロードマップ)
9 チーム(Team) ※シード期は最重要。 なぜこのメンバーなら実現できるのか?
10 オファー(Ask) いくら調達して、何に使い、どうなるのか?

これが国内VCに向けた「基本の型」です。まずはこの10枚を埋めることから始めましょう。

 

【まろコメント:Yコン流との違い】

よく「Y Combinator(米国の著名アクセラレーター)のピッチデック」と比較されますが、彼らはより「Team」や「Traction(実績)」を冒頭に持ってくる傾向があります。

ただ、日本の一般的なVC面談では、まず「何の課題を解決するのか(Problem)」から入る方が、論理構成として好まれる傾向にあります。もちろん正解は一つではありませんが、まずはこの「基本の型」を押さえておくのが無難です。もちろんチームを優先するのもアリです!

 


2. 「シード」と「シリーズA」で変えるべきポイント

資金調達のステージが進むと、ピッチデックで強調すべきポイントは劇的に変化します。

 

シード期(Seed):ストーリーで売る

  • 重視点: Why(なぜやるのか)、Team(誰がやるのか)、Problem(課題)
  • VCの視点: 「まだ数字はないけれど、このチームとこの市場なら化けるかもしれない(期待値)」
  • 構成のコツ: 創業者の原体験や、課題の切実さをエモーショナルに伝える。
  •  
  •  

シリーズA以降(Later):数字で売る

  • 重視点: Metrics(KPI数値)、Unit Economics(収益性)、Scale(再現性)
  • VCの視点: 「PMF(製品が市場に適合)は完了しているか? アクセルを踏めば確実に伸びるか?(実績値)」
  • 構成のコツ: トラクション(実績)のスライドを厚くし、CPAやLTVなどの具体的な数値をロジカルに見せる。
  •  

もしあなたがシリーズAを目指しているなら、上記の「基本の10枚」に加え、詳細な「KPI分析」「財務計画」のスライドが必須になります。

 


3. 最も重要なのは「Solution」ではなく「Problem」

多くの起業家が、自分のプロダクト(Solution)の説明に時間を使いすぎます。「こんな機能があります」「AIを使っています」と熱弁しますが、VCが一番気にしているのはそこではありません。

 

「その課題(Problem)は、本当にお金を払ってでも解決したいほど深いのか?」

 

ここが最大のポイントです。

  • 悪い例: 「最新のAIを使ったチャットボットです」
  • 良い例: 「カスタマーサポートの人手不足で、応答率が50%を切り、機会損失が年間〇億円発生しています。これを解決するのが我々のAIです」

 

4. 「エレベーターピッチ」で30秒以内に要約できますか?

資料を作り込む前に、必ずやってほしいのが「エレベーターピッチ」の作成です。

もしエレベーターで投資家と一緒になった時、30秒で自社の魅力を伝えられますか?

以下のテンプレートを埋めてみてください。

【エレベーターピッチの型】

  1. [ ターゲット顧客 ] のための、
  2. [ 課題・悩み ] を解決する、
  3. [ サービス名 ] というプロダクトです。
  4. これは既存の代替品とは違い、[ 独自の強み ] があります。
  5. その結果、顧客は [ ベネフィット ] を得ることができます。

これがスラスラ言えない状態で作ったスライドは、大抵ピントがずれています。まずはこの「骨子」を固めましょう。


 

5. SLピッチの現場から:調達に成功するプレゼンの特徴

私は毎月「SLピッチ」の会場で、数多くのプレゼンを見てきました。

資金調達に成功する登壇者には、資料の綺麗さ以外に共通する特徴があります。

SLピッチ登壇風景。スクリーンを見ずに、審査員の目を見て語りかけるのがポイントです

 

成功するプレゼンの3つの法則

  1.  
  2. ①スクリーンを読まない:
    • 資料は「チラ見せ」する補助ツールです。主役はあなたです。審査員の目を見て、熱量を持って語りかけています。
  3.  
  4. ②「一言でいうと」が明確:
    • 「要するに〇〇の会社ね」と、審査員が一発でタグ付けできるキーワードを持っています。
  5.  
  6. ③リスクを隠さない:
    • 質疑応答で「競合のA社が強いですよね?」と聞かれた時、「おっしゃる通りです。しかし彼らは〇〇が弱点なので、我々はそこを攻めます」と、リスクを認めた上で対策を語ります。
    •  

6. デザインの基本:「1スライド・1メッセージ」

「デザイナーがいないので資料がダサい」と悩む必要はありません。VCが見ているのはデザインの美しさではなく「情報の伝わりやすさ」です。

以下の3原則を守るだけで、見違えるほどわかりやすくなります。

 

  1. 1スライド・1メッセージ:
    • 1枚のスライドで言いたいことは1つに絞る。情報詰め込みすぎはNGです。
  2.  
  3. フォントサイズは24pt以上:
    • VCはスマホで資料を見ることもあります。小さい文字は読まれません。
  4.  
  5. 結論をタイトルに書く:
    • スライドのタイトルを「市場規模」ではなく、「市場は年20%で成長し、5年後に1兆円になる」と、結論にしてしまいましょう。
    •  

まとめ:資料は「会うためのチケット」

完璧なピッチデックを作ることがゴールではありません。

ピッチデックの役割は、投資家に「面白そうだ、一度会って話したい」と思わせる「チケット」を手に入れることです。

まずは基本の10枚を揃え、エレベーターピッチを磨き上げてください。

 

審査員の前で試してみませんか?

「資料はできたけど、これで通じるか不安」

「実際のVCの前でピッチして、フィードバックが欲しい」

そう思ったら、ぜひ私が主催する「SLピッチ」に挑戦してください。

毎月、有力VCの担当者が審査員として参加しています。あなたのピッチを直接ぶつける絶好の機会です。

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監修者情報

前川 英麿 さん
プロトスター株式会社 代表取締役CEO
2008年、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。エヌ・アイ・エフSMBCベンチャーズ株式会社(現、大和企業投資株式会社、SMBCベンチャーキャピタル株式会社)に入社し、ベンチャーキャピタルに従事。その後、常駐のターンアラウンド支援に特化したフロンティア・ターンアラウンド株式会社を経て、2015年スローガン株式会社に参画。投資事業責任者としてSlogan COENT LLPを設立し、執行役員カンパニープレジデント就任。2016年11月に挑戦者支援インフラを創るべくプロトスター株式会社を創業。
 
他にサイトビジット社外監査役、経済産業省 先進的IoTプロジェクト選考会議 審査委員・支援機関代表等を歴任。ホロラボ社外監査役、東京都 政策目的随意契約認定審査会 外部審査委員、青山学院大学「アントレプレナーシップ概論」非常勤教師、グローバルビジネス研究所プロジェクト研究員。早稲田大学ビジネスファイナンス研究センター招聘研究員等。日本ベンチャー学会所属。著『起業の壁 ―安易な起業はおススメしません

 

 

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