「素晴らしい事業なのに、資料(ピッチデック)がわかりにくくて損をしている」
「伝えたいことが多すぎて、結局何が言いたいのかわからないと言われる」
私は毎月開催している「SLピッチ」の審査や、個別のメンタリングで数千社のピッチを見てきましたが、「資料の構成」だけで損をしている起業家があまりに多いのが現実です。
VC(ベンチャーキャピタル)は、毎日大量のピッチデックを見ています。彼らの頭の中には「この順番で、この情報が知りたい」というフレームワークがあります。そこから外れると、どんなに良い事業でも理解される前に弾かれてしまいます。
この記事では、過去100回以上のピッチイベント実績から導き出した、日本のシードからアーリー期の資金調達における「ピッチデックの基本構成」を公開します。
【まずは全体像を知りたい方へ】
VCが審査で重視している「3つの視点(チーム・市場・プロダクト)」については、先に以下の記事を読むと資料の質が上がります。
1. 【シード期向け】ピッチデック「基本の10枚」
まず大前提として、「シード期(創業期)」と「シリーズA以降(成長期)」では、求められる資料が全く異なります。
ここでは、StartupListの多くのユーザーが該当するであろう「シード・アーリー期」に焦点を当てた構成を紹介します。
実績(数字)が少ないこのフェーズでは、「課題の深さ」と「チームの魅力」を伝えることが最優先です。
| スライド | 項目(タイトル例) | 内容・VCが知りたいこと |
|---|---|---|
| 1 | 表紙(Cover) | 会社名・サービス名・一言でいうと何か(タグライン) |
| 2 | 課題(Problem) | 誰の、どんな「痛み」を解決するのか?(Why Now) |
| 3 | 解決策(Solution) | その痛みをどうやって解決するのか?(Product) |
| 4 | 市場規模(Market) | その市場は将来どれくらい大きくなるか?(TAM) |
| 5 | ビジネスモデル | どうやって儲けるのか?(マネタイズ) |
| 6 | トラクション | 進捗はあるか?(β版ユーザーの声、初期の売上など) |
| 7 | 競合優位性(Moat) | 他社に勝てる理由は?(ポジショニング) |
| 8 | 成長戦略 | 今後どうやって拡大するのか?(ロードマップ) |
| 9 | チーム(Team) | ※シード期は最重要。 なぜこのメンバーなら実現できるのか? |
| 10 | オファー(Ask) | いくら調達して、何に使い、どうなるのか? |
これが国内VCに向けた「基本の型」です。まずはこの10枚を埋めることから始めましょう。
【まろコメント:Yコン流との違い】
よく「Y Combinator(米国の著名アクセラレーター)のピッチデック」と比較されますが、彼らはより「Team」や「Traction(実績)」を冒頭に持ってくる傾向があります。
ただ、日本の一般的なVC面談では、まず「何の課題を解決するのか(Problem)」から入る方が、論理構成として好まれる傾向にあります。もちろん正解は一つではありませんが、まずはこの「基本の型」を押さえておくのが無難です。もちろんチームを優先するのもアリです!
2. 「シード」と「シリーズA」で変えるべきポイント
資金調達のステージが進むと、ピッチデックで強調すべきポイントは劇的に変化します。
シード期(Seed):ストーリーで売る
- 重視点: Why(なぜやるのか)、Team(誰がやるのか)、Problem(課題)
- VCの視点: 「まだ数字はないけれど、このチームとこの市場なら化けるかもしれない(期待値)」
- 構成のコツ: 創業者の原体験や、課題の切実さをエモーショナルに伝える。
シリーズA以降(Later):数字で売る
- 重視点: Metrics(KPI数値)、Unit Economics(収益性)、Scale(再現性)
- VCの視点: 「PMF(製品が市場に適合)は完了しているか? アクセルを踏めば確実に伸びるか?(実績値)」
- 構成のコツ: トラクション(実績)のスライドを厚くし、CPAやLTVなどの具体的な数値をロジカルに見せる。
もしあなたがシリーズAを目指しているなら、上記の「基本の10枚」に加え、詳細な「KPI分析」や「財務計画」のスライドが必須になります。
3. 最も重要なのは「Solution」ではなく「Problem」
多くの起業家が、自分のプロダクト(Solution)の説明に時間を使いすぎます。「こんな機能があります」「AIを使っています」と熱弁しますが、VCが一番気にしているのはそこではありません。
「その課題(Problem)は、本当にお金を払ってでも解決したいほど深いのか?」
ここが最大のポイントです。
- 悪い例: 「最新のAIを使ったチャットボットです」
- 良い例: 「カスタマーサポートの人手不足で、応答率が50%を切り、機会損失が年間〇億円発生しています。これを解決するのが我々のAIです」
4. 「エレベーターピッチ」で30秒以内に要約できますか?
資料を作り込む前に、必ずやってほしいのが「エレベーターピッチ」の作成です。
もしエレベーターで投資家と一緒になった時、30秒で自社の魅力を伝えられますか?
以下のテンプレートを埋めてみてください。
【エレベーターピッチの型】
- [ ターゲット顧客 ] のための、
- [ 課題・悩み ] を解決する、
- [ サービス名 ] というプロダクトです。
- これは既存の代替品とは違い、[ 独自の強み ] があります。
- その結果、顧客は [ ベネフィット ] を得ることができます。
これがスラスラ言えない状態で作ったスライドは、大抵ピントがずれています。まずはこの「骨子」を固めましょう。
5. SLピッチの現場から:調達に成功するプレゼンの特徴
私は毎月「SLピッチ」の会場で、数多くのプレゼンを見てきました。
資金調達に成功する登壇者には、資料の綺麗さ以外に共通する特徴があります。
SLピッチ登壇風景。スクリーンを見ずに、審査員の目を見て語りかけるのがポイントです
成功するプレゼンの3つの法則
-
①スクリーンを読まない:
- 資料は「チラ見せ」する補助ツールです。主役はあなたです。審査員の目を見て、熱量を持って語りかけています。
-
②「一言でいうと」が明確:
- 「要するに〇〇の会社ね」と、審査員が一発でタグ付けできるキーワードを持っています。
-
③リスクを隠さない:
- 質疑応答で「競合のA社が強いですよね?」と聞かれた時、「おっしゃる通りです。しかし彼らは〇〇が弱点なので、我々はそこを攻めます」と、リスクを認めた上で対策を語ります。
6. デザインの基本:「1スライド・1メッセージ」
「デザイナーがいないので資料がダサい」と悩む必要はありません。VCが見ているのはデザインの美しさではなく「情報の伝わりやすさ」です。
以下の3原則を守るだけで、見違えるほどわかりやすくなります。
-
1スライド・1メッセージ:
- 1枚のスライドで言いたいことは1つに絞る。情報詰め込みすぎはNGです。
-
フォントサイズは24pt以上:
- VCはスマホで資料を見ることもあります。小さい文字は読まれません。
-
結論をタイトルに書く:
- スライドのタイトルを「市場規模」ではなく、「市場は年20%で成長し、5年後に1兆円になる」と、結論にしてしまいましょう。
まとめ:資料は「会うためのチケット」
完璧なピッチデックを作ることがゴールではありません。
ピッチデックの役割は、投資家に「面白そうだ、一度会って話したい」と思わせる「チケット」を手に入れることです。
まずは基本の10枚を揃え、エレベーターピッチを磨き上げてください。
審査員の前で試してみませんか?
「資料はできたけど、これで通じるか不安」
「実際のVCの前でピッチして、フィードバックが欲しい」
そう思ったら、ぜひ私が主催する「SLピッチ」に挑戦してください。
毎月、有力VCの担当者が審査員として参加しています。あなたのピッチを直接ぶつける絶好の機会です。
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