元VCが暴露。投資家が初回面談で密かにチェックしている「3つの審査基準」とは

元VCが暴露。投資家が初回面談で密かにチェックしている「3つの審査基準」とは

0025.11.21
この記事の監修・執筆:前川 英麿(プロトスター株式会社 代表 / 元VC)
早稲田大卒業後、エヌ・アイ・エフSMBCベンチャーズ株式会社(現、大和企業投資株式会社、SMBCベンチャーキャピタル株式会社)等でVC投資活動に従事。現在はプロトスター株式会社代表取締役として、起業家支援インフラ「StartupList」を運営し、115回以上続くリアルイベント「SLピッチ」を主催。現場の視点でVCのリアルを解説します。

 

「VCとの面談、手応えがあったのに断られた…」

「『検討します』と言われたきり連絡がない。どこが悪かったんだろう?」

資金調達に動く起業家にとって、VC(ベンチャーキャピタル)の審査基準はブラックボックスです。彼らは面談でニコニコ話を聞いてくれますが、その裏では極めてシビアな「採点」を行っています。しかし、その採点基準は決してランダムではありません。どこのVCでも共通して見ている「3つの視点」が存在します。

 

この記事では、元VCであり、現在は投資家と起業家をつなぐ立場にある私が、投資家が面談中に密かにチェックしているポイントと、起業家の本性を見抜くための「キラークエスチョン」を包み隠さず公開します。

 

【まずは全体像を知りたい方へ】

VCの仕組みや、資金調達全体の流れを知りたい方は、以下のメイン記事を先にご覧ください。

VC(ベンチャーキャピタル)とは?元VCが教える「仕組み」と「資金調達」の全知識


1. VCの審査基準は「T・M・P」で決まる

結論から言うと、VCが見ているのは以下の3要素です。よく「Team(チーム)」「Market(市場)」「Product(プロダクト)」と言われます。

 

  1. ①Team(ヒト・組織): 誰がやるのか? 実行力はあるか?
  2. ②Market(市場): その市場は十分に大きいか? 成長しているか?
  3. ③Product(優位性): なぜこのサービスなのか? 他社に勝てる理由は?
  4.  

ステージによって比重は変わりますが、シード・アーリー期においては「Team(ヒト)」が9割と言っても過言ではありません。なぜなら、初期の事業プラン(Product)はピボット(方向転換)する可能性が高いですが、創業メンバー(Team)は簡単に変えられないからです。

 

2. Team(ヒト):経歴よりも「素直さ」と「執着心」

「優秀な経歴(学歴や職歴)」があれば投資されるわけではありません。VCが見ているのは、もっと人間臭い部分です。

チェックポイント

  •  
  • 巻き込み力: 創業者が一人でやっていないか? 優秀なNo.2、No.3を口説き落とせているか?
  • GRIT(やり抜く力): 困難に直面しても逃げ出さない執着心があるか?
  • 素直さ(Coachability): 投資家や顧客からのフィードバックを素直に受け入れ、改善できるか?
  •  

【まろコメント】

私が投資判断で一番重視していたのは「愛嬌」と「素直さ」です。

VCとは投資後、5年〜10年の付き合いになります。どんなに優秀でも「人の話を聞かない」「嘘をつく」起業家とは、苦しい時に一緒に戦えません。「この人を応援したい、支えたい」と思わせる人間力こそが最強の武器です。


3. Market(市場):ニッチトップは評価されない?

次に重要なのが市場規模(TAM:Total Addressable Market)です。

ここで多くの起業家が勘違いするのが、「ニッチな市場で確実にNo.1を取ります!」というアピールです。

 

VCは「ホームラン」を狙っている

以前の記事(VCの仕組み)でも解説しましたが、VCは「10倍以上のリターン」を狙っています。

そのため、市場規模自体が小さい(例えば上限が10億円程度の)ビジネスだと、たとえ独占できてもVCのリターン要件を満たせません。

 

  • × 今ある市場: 「既存の〇〇市場の1%を取ります」
  • ◎ 未来の市場: 「今は小さいが、5年後にスマホのように普及し、〇〇兆円市場になります」
  •  

VCが見ているのは、「今はニッチでも、将来それがメインストリームになるか?」という市場の爆発力です。

なぜVCは急成長を求めるのか?ファンドの「仕組み」と「償還期限」を図解


4. Product(プロダクト):Googleが参入してきたらどうする?

プロダクトの良し悪しはもちろん見ますが、VCが気にしているのは「機能の多さ」ではありません。

  • 「Moat(モート=お城の堀)」があるかどうかです。
  •  

競合優位性の正体

「大手IT企業が明日、同じサービスを無料で始めたら勝てますか?」

この質問に答えられるだけの「堀」が必要です。

  • ネットワーク効果: ユーザーが増えるほど便利になる(例:LINE、メルカリ)。
  • スイッチングコスト: 一度使うと他社に乗り換えにくい(例:SaaS、ERP)。
  • 泥臭いオペレーション: 大手が真似したくても面倒くさくてできない現場の仕組み。

特に初期のスタートアップは、技術特許よりも「泥臭いドブ板営業で築いた顧客との関係」が最強のMoatになることが多いです。

 

【まろコメント:審査員の視点は一つじゃない】

私は自社のイベントだけでなく、福岡銀行(FFG)主催の「X-Tech Innovation」など、大手金融機関や自治体のピッチコンテストでも審査員を務めています。

そこで弁護士の先生や銀行の役員の方々と並んで審査をして感じるのは、「立場によって見ている景色が違う」ということです。

 

  • 銀行の方: 「財務の健全性」や「実現可能性」を重視します。
  • 弁護士の方: 「法的なリスク(規制)」や「知財」を厳しく見ます。
  • 私(元VC): 「市場の爆発力」や「化けた時のホームラン性」を見ます。
  •  

資金調達のピッチでは、目の前の相手が「VC」なのか「銀行」なのかを見極め、相手が懸念しているポイントを先回りして話すことが、採択への近道ですよ。


5. 【実録】元VC前川が実際に投げかけていたキラークエスチョン

面談中、VCは何気ない会話の中に、あなたの「本性」や「リスク」を見抜くための質問(キラークエスチョン)を混ぜています。私が現役時代によく使っていた質問と、その意図を公開します。

 

Q1. 「この事業をやめる条件(撤退ライン)はありますか?」

  • 意図: 「諦める基準」を聞いているのではありません。「この事業に人生を賭けているか(覚悟)」を見ています。
  • NG回答: 「資金が尽きたらですね」「受託開発に戻ります」
  • Good回答: 「やめる選択肢はありません。成功するまでピボットし続けます」
  •  
  •  

Q2. 「共同創業者と大喧嘩したことはありますか?」

  • 意図: 「チームの健全性」を見ています。一度も喧嘩していないチームは、本音で議論できていないか、これから来るハードシングスで空中分解するリスクがあります。
  • Good回答: 「実は先月、サービスの方向性で怒鳴り合いになりました。でも徹底的に話して、今は雨降って地固まっています」
  •  
  •  

Q3. 「競合他社のA社についてどう思いますか?」

  • 意図: 「市場解像度」「他者へのリスペクト」を見ています。
  • NG回答: 「あそこは大したことないですね(根拠なしの批判)」
  • Good回答: 「A社はUIが素晴らしく、営業力も強いです。ただ、〇〇という顧客課題には対応できていません。我々はそこを一点突破します」
  •  

6. SLピッチの現場から:投資家の「メモ」は何を書いている?

私が主催する「SLピッチ」の審査員席では、VCたちが真剣な表情でメモを取っています。

SLピッチ審査員の様子。あなたのピッチを聞きながら、彼らは頭の中で「T・M・P」の採点をしています

 

彼らがメモしているのは、「この事業のダメなところ」ではありません。

「この事業が化けるとしたら、鍵となる変数は何か?(Key Success Factor)」

「次の面談で確認すべきリスクはどこか?」

を書き留めています。

 

つまり、鋭いツッコミやメモは、あなたの事業に興味を持ち、投資を検討しているサインでもあります。面談でメモを取られたり、痛いところを突かれても、落ち込む必要はありません。「対話」ができている証拠です。

 

まとめ:審査基準を知れば、ピッチ資料が変わる

VCが見ている「3つの視点(Team・Market・Product)」と、その裏にある意図を理解できましたか?これを知っていれば、ピッチ資料(プレゼン資料)の作り方も変わるはずです。

 

  • 単なる機能説明ではなく、「Moat(優位性)」を語る。
  • 単なる経歴紹介ではなく、「チームの絆と覚悟」を語る。
  • 現状の売上だけでなく、「未来の市場規模」を語る。
  •  

「じゃあ、具体的にどういう資料を作ればいいの?」と思った方は、以下の記事で「VCを唸らせるピッチデックの構成」を詳しく解説しています。

VCを唸らせる「ピッチデック」の構成テンプレート|SLピッチ115回の実績から導き出した正解

 

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監修者情報

前川 英麿 さん
プロトスター株式会社 代表取締役CEO
X:https://x.com/proto_maro
2008年、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。エヌ・アイ・エフSMBCベンチャーズ株式会社(現、大和企業投資株式会社、SMBCベンチャーキャピタル株式会社)に入社し、ベンチャーキャピタルに従事。その後、常駐のターンアラウンド支援に特化したフロンティア・ターンアラウンド株式会社を経て、2015年スローガン株式会社に参画。投資事業責任者としてSlogan COENT LLPを設立し、執行役員カンパニープレジデント就任。2016年11月に挑戦者支援インフラを創るべくプロトスター株式会社を創業。
 
他にサイトビジット社外監査役、経済産業省 先進的IoTプロジェクト選考会議 審査委員・支援機関代表等を歴任。ホロラボ社外監査役、東京都 政策目的随意契約認定審査会 外部審査委員、青山学院大学「アントレプレナーシップ概論」非常勤教師、グローバルビジネス研究所プロジェクト研究員。早稲田大学ビジネスファイナンス研究センター招聘研究員等。日本ベンチャー学会所属。著『起業の壁 ―安易な起業はおススメしません

 

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