VC(ベンチャーキャピタル)とは?元VCが教える「仕組み」と「資金調達」の全知識

VC(ベンチャーキャピタル)とは?元VCが教える「仕組み」と「資金調達」の全知識

2025.11.21
この記事の監修・執筆:前川 英麿(プロトスター株式会社 代表 / 元VC)
早稲田大卒業後、エヌ・アイ・エフSMBCベンチャーズ株式会社(現、大和企業投資株式会社、SMBCベンチャーキャピタル株式会社)等でVC投資活動に従事。現在はプロトスター株式会社代表取締役として、起業家支援インフラ「StartupList」を運営し、115回以上続くリアルイベント「SLピッチ」を主催。現場の視点でVCのリアルを解説します。

 

 

「VC(ベンチャーキャピタル)って、銀行や個人投資家と何が違うの?」

 

「急成長を求められると聞くけれど、実際はどんな支援をしてくれるの?」

 

資金調達を考え始めた起業家にとって、VCという存在は少しハードルが高く、ブラックボックスに見えるかもしれません。

 

しかし、VCの仕組みを正しく理解し、彼らの論理を知れば、VCは決して「怖い株主」ではなく、事業を爆発的に成長させる最強のパートナーになります。

 

この記事では、元VCであり、現在は国内最大級の起業家・投資家マッチングプラットフォーム「StartupList」を運営する私が、「教科書には載っていないVCのリアル」を解説します。

 

【手っ取り早く投資家を探したい方へ】

仕組みはなんとなくわかっているから、具体的なVCのリストが見たいという方は、以下の記事をご覧ください。

【2025年最新版】VC(ベンチャーキャピタル)一覧!シード向けや独立系VCを紹介

 

1. VC(ベンチャーキャピタル)とは? わかりやすく図解

一言で言えば、VC(ベンチャーキャピタル)とは、「高い成長が見込まれる未上場企業(スタートアップ)に出資を行い、株式公開(IPO)やM&Aによる売却益(キャピタルゲイン)を狙う投資会社」のことです。

 

銀行融資との決定的な違い

銀行とVCの最大の違いは、「デット(借金)」か「エクイティ(資本)」かです。

 

  • 銀行(デット): お金を「貸す」場所。元本と利息の返済義務がある失敗したら借金が残る。
  • VC(エクイティ): お金を「出資する」場所。返済義務はないその代わり、会社の「株式(経営権の一部)」を渡す。
  •  

VCは、あなたが失敗してもお金を返せとは言いません。その代わり、成功した時に会社が大きくなっていること(株価が上がっていること)を期待してリスクマネーを投じているのです。

 


2. なぜVCは「急成長」を求めるのか? ファンドの仕組み

多くの起業家が疑問に思うのが、「なぜVCはそんなに急いで成長させようとするのか?」という点です。これはVCの性格がせっかちだからではなく、「ファンドの仕組み」に理由があります。

 

GP/LP構造と「10年」の壁

実は、VCが投資しているお金の多くは、自分たちのお金ではありません。LP(リミテッド・パートナー) と呼ばれる機関投資家や事業会社から預かったお金です。

これを「ファンド(投資事業組合)」という箱で運用するのですが、このファンドには通常「10年」という寿命(償還期限)があります。

 

  1. ①お金を集める
  2. ②スタートアップに投資する
  3. ③企業を育てて上場(Exit)させる
  4. ④10年以内に現金化してLPに返す
  5.  

このサイクルを回す必要があるため、VCは「ゆっくり30年かけて大きくなります」というビジネスには投資しづらく、「数年で急成長し、上場できるモデル(Jカーブ)」を求めるのです。

 

【まろコメント:VCの本音】

私がVC時代、最も頭を悩ませたのもこの「時間軸」でした。どんなに良いプロダクトでも、ファンドの満期までにExitが見えないと投資決断ができません。「急成長」は意地悪で言っているのではなく、背後にいる出資者への説明責任があるからなのです。

なぜVCは急成長を求めるのか?ファンドの「仕組み」と「償還期限」から理解する投資家の論理


 

3. VC・エンジェル・銀行融資の違い比較表

あなたの会社のステージによって、最適な資金調達先は異なります。主な3つの調達先を比較してみましょう。

比較項目 VC(ベンチャーキャピタル) エンジェル投資家 銀行融資(デット)
調達金額 数千万〜数十億円 数百万〜数千万円 実績・担保による
スピード 中〜遅(1〜3ヶ月) 早い(即日〜1ヶ月) 早い(審査次第)
返済義務 なし なし あり
経営関与 あり(ハンズオン) 人による 基本なし
主なステージ アーリー〜レイター シード(創業期) 全般
  • 創業直後で実績がない: まずはエンジェル投資家や日本政策金融公庫の創業融資。
  • PMF(製品が市場に適合)して一気に拡大したい: ここで初めてVCの出番です。
  •  

詳しくはこちら:【図解】VC・CVC・エンジェル投資家の違い|あなたのスタートアップは誰から調達すべき?

あわせて読みたい:【2025年最新版】エンジェル投資家8選!有名な個人投資家を紹介


 

4. VCから出資を受けるメリット・デメリット

「お金がもらえる」以外にも、VCを入れることには大きな意味があります。

 

メリット

  1. ①巨額の資金調達: 借入では不可能な数億円単位の資金を得て、採用やマーケティングに投下できる。
  2. ②ハンズオン支援: 経営戦略の壁打ち、採用支援、顧客紹介など、VCのリソースを活用できる。
  3. ③社会的信用(お墨付き): 「あの有名VCが投資した企業」となれば、採用や大手との提携がスムーズになる。
  4.  
  5.  

デメリット

  1. ①株式の希薄化(ダイリューション): 創業者の持株比率が下がるため、経営権の維持に注意が必要。
  2. ②経営の自由度への影響: 重要な決定には株主(VC)の同意が必要になる場合がある。
  3. ③Exitへのプレッシャー: 上場やM&Aを目指さない(やっぱり中小企業でいいや、という)方向転換は難しくなる。
  4.  

SLピッチ交流会の様子。VCは単なる出資者ではなく、事業の悩みを共有できるパートナーでもありますSLピッチ交流会の様子。VCは単なる出資者ではなく、事業の悩みを共有できるパートナーでもあります

 

5. いくら調達できる? 投資ラウンドと相場目安

スタートアップの資金調達は、一度で終わりではありません。成長段階(ラウンド)ごとに繰り返します。

 

  • ・シードラウンド(創業期)
    •     調達額:500万円〜5,000万円
    •     目的:プロトタイプ開発、仮説検証
    •  
  • ・シリーズA(成長初期)
    •     調達額:1億円〜5億円
    •     目的:PMF後の組織拡大、マーケティング
    •  
  • ・シリーズB以降(拡大期)
    •     調達額:数億円〜数十億円
    •     目的:黒字化、新規事業、IPO準備
    •  

VCが主役になるのは、一般的に「プレシリーズA」や「シリーズA」あたりからです。最近ではシード期に特化したVCも増えています。

 

詳しくはこちら:シード・シリーズAの「VC投資額」相場は?投資ラウンドごとの定義と必要なKPI

あわせて読みたい:シードラウンドとは?資金調達手法や特徴を解説


 

6. 【元VCが暴露】審査で投資家が見ている「3つのポイント」

では、VCは数多くのピッチを聞いて、どこで投資判断をしているのでしょうか?第115回以上続く「SLピッチ」の現場や、私自身の経験から言うと、見るべきポイントは以下の3つに集約されます。

 

  1. ①Team(誰がやるのか):
    • 特にシード・アーリー期はここが9割です。創業者の熱量、巻き込み力、そして「素直さ」があるか。
  2.  
  3. ②Market(市場性):
    • その市場は十分に大きいか(TAM)。今後伸びる市場か。「ニッチすぎて上場できない」と判断されると投資されません。
  4.  
  5. ③Product(競合優位性):
    • なぜ「今」、なぜ「あなたたち」が勝てるのか。他社が真似できない強み(Moat)があるか。
    •  
    •  

【まろコメント:面談の裏技】

VCとの面談で答えられない質問をされた時、知ったかぶりをするのが一番NGです。「現時点では仮説ですが〜」「検証中です」と正直に答える、あるいは「次回までに調べてきます」と言える起業家の方が、実は信頼度(誠実さ)が高く評価されます。

プロトスター開催のイベントの様子。鋭い質問は、事業への興味の裏返しでもありますプロトスター開催のイベントの様子。鋭い質問は、事業への興味の裏返しでもあります

詳しくはこちら:元VCが暴露。投資家が初回面談で密かにチェックしている「3つの審査基準」とは

 


7. 資金調達を成功させるためのステップ

VCからの調達は、以下のようなフローで進みます。平均して3ヶ月〜半年程度かかります。

 

  1. ①資料作成(ピッチデック): 事業計画書を作成する。
  2.  
  3. ②VCリストアップ&アプローチ: 投資家を探してコンタクトを取る。
  4.  
  5. ③初回面談・ピッチ: 事業のプレゼンを行う。
  6.  
  7. ④デューデリジェンス(DD): 詳細な審査(財務、法務、ビジネスなど)。
  8.  
  9. ⑤タームシート(条件提示): 投資金額や株価などの条件合意。
  10.  
  11. ⑥契約・着金: 投資契約を締結し、口座に振り込まれる。
  12.  

8. VCと出会うための効率的な方法

「良い事業を作っていれば、向こうから見つけてくれる」残念ながら、これは間違いです。VCは多忙であり、起業家側からアプローチしなければ出会えません。主な方法は以下の3つです。

 

  1. 知人の紹介(リファラル):
    • 最も確度が高いですが、強力なコネが必要です。
  2.  
  3. コーポレートサイトへの問い合わせ:
    • いわゆる「コールドメール」。返信率は低く、根気が必要です。
  4.  
  5. ピッチイベント・マッチングサービスの活用:
    • これが最も効率的です。 資金調達意欲のあるVCが集まる場に行くことで、一度に多数の接点が作れます。コネクションがない状態から、自力で投資家の連絡先を調べてコールドメールを送るのは膨大な時間がかかります。

資金調達の準備に集中するためにも、まずは国内最大級のマッチングプラットフォームで、自社に興味を持ってくれそうなVCを探すのが近道です。

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詳しくはこちら:VCへの「会い方」と「投資家の探し方」4選|コネなしからの資金調達方法

 


まとめ:VCは事業を加速させるパートナー

VC(ベンチャーキャピタル)とは、単なる金貸しではありません。あなたの事業のリスクを共に背負い、急成長という夢を共有して並走してくれるパートナーです。

仕組みやリスクを正しく理解した上で活用すれば、自社だけでは到達できないスピードで世界を変えることができます。

まずは、どんなVCが日本にいるのかを知り、実際に接点を持つことから始めましょう。

監修者情報

前川 英麿 さん
プロトスター株式会社 代表取締役
X:https://x.com/proto_maro
2008年、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。エヌ・アイ・エフSMBCベンチャーズ株式会社(現、大和企業投資株式会社、SMBCベンチャーキャピタル株式会社)に入社し、ベンチャーキャピタルに従事。その後、常駐のターンアラウンド支援に特化したフロンティア・ターンアラウンド株式会社を経て、2015年スローガン株式会社に参画。投資事業責任者としてSlogan COENT LLPを設立し、執行役員カンパニープレジデント就任。2016年11月に挑戦者支援インフラを創るべくプロトスター株式会社を創業。
 
他にサイトビジット社外監査役、経済産業省 先進的IoTプロジェクト選考会議 審査委員・支援機関代表等を歴任。ホロラボ社外監査役、東京都 政策目的随意契約認定審査会 外部審査委員、青山学院大学「アントレプレナーシップ概論」非常勤教師、グローバルビジネス研究所プロジェクト研究員。早稲田大学ビジネスファイナンス研究センター招聘研究員等。日本ベンチャー学会所属。著『起業の壁 ―安易な起業はおススメしません

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