出資と融資の根本的な違いとは?初心者でもわかる資金調達の基本とメリット・デメリットを徹底比較

出資と融資の根本的な違いとは?初心者でもわかる資金調達の基本とメリット・デメリットを徹底比較

0025.10.30

監修者情報

前川 英麿 さん
プロトスター株式会社 代表取締役CEO
2008年、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。エヌ・アイ・エフSMBCベンチャーズ株式会社(現、大和企業投資株式会社、SMBCベンチャーキャピタル株式会社)に入社し、ベンチャーキャピタルに従事。その後、常駐のターンアラウンド支援に特化したフロンティア・ターンアラウンド株式会社を経て、2015年スローガン株式会社に参画。投資事業責任者としてSlogan COENT LLPを設立し、執行役員カンパニープレジデント就任。2016年11月に挑戦者支援インフラを創るべくプロトスター株式会社を創業。
 
他にサイトビジット社外監査役、経済産業省 先進的IoTプロジェクト選考会議 審査委員・支援機関代表等を歴任。ホロラボ社外監査役、東京都 政策目的随意契約認定審査会 外部審査委員、青山学院大学「アントレプレナーシップ概論」非常勤教師、グローバルビジネス研究所プロジェクト研究員。早稲田大学ビジネスファイナンス研究センター招聘研究員等。日本ベンチャー学会所属。

はじめに:出資と融資の違いがわからない

起業を考える人の多くが、「いいアイデアがあるけどお金がない」と悩みます。

 

「起業したいが、お金をどう集めればいいかわからない」 「融資(借金)は返済が怖いし、出資は経営権がなくなるのでは…」

 

事業を成長させるために「資金調達」が必要だとわかっていても、その代表的な手段である「出資」と「融資」のどちらを選ぶべきか、迷っている方は多いのではないでしょうか。この2つは、お金を集めるという目的は同じでも、その性質、メリット、リスクが根本的に異なります。

 

この記事では、資金調達の基本に立ち返り、「出資(エクイティ・ファイナンス)」と「融資(デット・ファイナンス)」の決定的な違いを7つの視点から徹底比較します。

 

あなたの事業が「堅実な成長」を目指すのか、それとも「急成長」を目指すのかによって、選ぶべき最適解は変わります。この記事を読めば、あなたが今どちらを選ぶべきかが明確になるはずです。

 

(※なお、資金調達には出資や融資以外にも、補助金やクラウドファンディングなど様々な方法があります。まずは資金調達の全体像を知りたい方は、こちらの解説記事『資金調達とは?初心者でもわかる7つの方法とフェーズ別戦略』を先にご覧ください。)

 

第1章:一目でわかる!「出資」と「融資」の最大の違い

まず、両者の最も根本的な違いを理解しましょう。

 

• 融資(デット・ファイナンス): 他人(主に銀行や公的機関)からお金を「借りる」ことです。契約に基づき、元本と利息を返済する「法的な義務」を負います。

 

• 出資(エクイティ・ファイナンス): 他人(主に投資家)に自社の「株式」を渡し、その対価としてお金を「もらう(仲間になってもらう)」ことです。融資のような月々の返済義務はありません。「返済義務がない」という点は出資の大きな魅力ですが、これは「タダでお金がもらえる」という意味ではないので注意が必要です。

 

お金の出し手が「誰」で、その「目的」が何かを考えると、違いはより鮮明になります。

 

• 融資の出し手と目的: 
◦ 出し手: 銀行、日本政策金融公庫、信用金庫など
◦ 目的: 契約通りに元本と「金利」を受け取り、利益を得ること。リスクを最小限にしたい(=確実に返済してほしい)と考えています。

 

• 出資の出し手と目的:
◦ 出し手: ベンチャーキャピタル(VC)、エンジェル投資家、事業会社など
◦ 目的: 会社が将来「超」成長し、株式の価値が上がった時に、その株を売却して大きな利益(キャピタルゲイン)を得ること。リスクを取ってでも、大きなリターンを狙っています。つまり、投資家(VC)は、投資したお金を「月々の返済」で返してほしいのではなく、「将来、何十倍にもして返してほしい」のです。

その投資回収の機会こそが「EXIT(イグジット)」と呼ばれる、IPO(上場)やM&A(企業売却)です。経営者は、融資のような「返済義務」を負う代わりに、投資家に対して「EXITを実現する」という重い責任(実質的な義務)を負うことになります。

 

まずは、この基本の違いを比較表で押さえておきましょう。

比較項目 融資(デット) 出資(エクイティ)
お金の性質 借りる(負債) もらう(資本)
返済義務 あり(元本+利息) なし(借金ではない)
利息の支払い あり なし
将来への責任 完済すれば終了 EXIT(IPO/M&A)で報いる責任
提供者 銀行・公庫など(債権者) 投資家(株主)
経営への関与 原則なし あり(株主として)

第2章:【徹底比較】7つの視点で見るメリット・デメリット

 この基本を踏まえ、さらに実務的な7つの視点から、両者のメリット・デメリットを深掘りしていきます。

 

  1. 1. 経営権(コントロール)への影響
  2. • 融資(メリット大): 経営権は100%経営者のままです。銀行が経営方針に口を出すことは(原則として)ありません。自分の裁量で経営を続けたい人に向いています。
  3. ◦ デメリット: 返済が滞れば、当然ながら厳しい取り立てがあり、最悪の場合は資産の差し押さえや倒産につながります。

• 出資(デメリットあり): 経営権が「希薄化(きはくか)」します。これは、他人に株を渡すことで、自分の持ち株比率が下がることを意味します。 ◦ 具体例: 創業者が100%株を持っていた会社が、VCに20%の株を渡して出資を受けると、創業者の持ち分は80%になります。 
◦ なぜ問題か: 持ち株比率が下がりすぎると、経営者が自分で重要な意思決定(例:役員の選任、会社の売却)を行えなくなるリスクがあります。株主(投資家)は会社のオーナーであるため、経営方針に強く関与してきます。

 

 

2. 会計上(B/S)の違い
これは専門的ですが、会社の「信用力」に関わる非常に重要な違いです。
 • 融資(デメリットあり): 会社の財産状況を示す貸借対照表(B/S)において、「負債の部」に計上されます。
◦ 影響: 負債が増えると「自己資本比率」が下がり、財務体質が悪く見えます。銀行から「借金が多い会社」と見なされ、追加の融資が受けにくくなることがあります。
 
• 出資(メリット大): B/Sの「純資産の部(資本)」に計上されます。
 ◦ 影響: 自己資本が厚くなるため、「自己資本比率」が劇的に改善します。「体力のある(倒産しにくい)会社」と見なされ、社会的な信用が上がります。結果として、銀行からの融資(デット)も引き出しやすくなります。

 

 

3. コスト(費用)の性質
 • 融資(コストが明確): コストは明確な「金利」(例:年数%~)です。将来どれだけ会社が成長しても、支払う金利は(変動金利でなければ)変わりません。


• 出資(コストは青天井): 目先の金利はゼロですが、コストは「株式(会社の未来の価値)」そのものです。
 ◦ 具体例: 1,000万円の出資を受けるために株の10%を渡したとします。もし会社が将来10億円の価値になれば、投資家はその10%(=1億円)のリターンを手にします。経営者から見れば、未来の価値(9,000万円分)をコストとして支払ったとも言えます。

 

 

4. 返済・配当の義務
 • 融資(義務あり): 事業が赤字であろうと、「元本と利息の返済」が法的な義務として発生します。返済スケジュールは厳格で、これが滞れば即、信用問題となります。


• 出資(返済義務なし、だが…): 借金としての返済義務は一切ありません。事業がうまくいかなかった場合、投資家はそのリスクを共に負います(投資したお金がゼロになります)。
◦ 配当は?: 利益が出た場合の「配当」も義務ではありません。特にスタートアップは、利益をさらなる成長のために再投資するのが一般的なため、無配当のケースがほとんどです。
◦ ただし: 第1章で述べた通り、これは「責任ゼロ」という意味ではありません。投資契約に基づき、企業価値を最大化させ、IPOやM&Aで投資家に報いる(EXITを提供する)という重い責任を経営者は負います。

 

 

5. 審査のポイント
お金の出し手の「目的」が違うため、審査で見られるポイントも全く異なります。
 
• 融資(審査=減点法): 銀行や公庫は「過去の実績」と「確実な返済計画」を最重要視します。事業計画の「堅実さ」や「実現可能性」を厳しくチェックされます。
 
• 出資(審査=加点法): 投資家は「過去」よりも「未来の可能性(市場の大きさ)」を重視します。「このビジネスモデルは100倍になるか?」「この経営者はやり切れるか?」といった「爆発力(スケール)」を見られます。

 

 

6. 調達までのスピード
• 融資(比較的早い): 書類準備や面談が中心です。日本政策金融公庫の創業融資など、準備が万全であれば、申し込みから1〜2ヶ月程度で着金するケースもあります。


• 出資(非常に時間がかかる): 投資家との出会いから始まり、何度も面談を重ね、事業計画の精査(デューデリジェンス)、複雑な投資契約書の交渉など、多くのステップを踏みます。短くても3ヶ月、通常は半年以上かかる長期戦です。

 

 

7. 調達後の「支援」の違い
• 融資(支援は限定的): 基本的にお金だけの関係です。経営への口出しは原則ありません。


• 出資(支援は強力): 投資家は「株主」として、投資先が成功することが自らの利益に直結するため、経営に積極的に関与(ハンズオン支援)します。
 ◦ メリット: 投資家の持つ豊富な人脈の紹介(大企業の紹介、採用支援)、経営アドバイス、次の資金調達の支援など、お金以上の価値が得られることが最大の魅力です。 ◦ デメリット: 経営方針について投資家と意見が対立する「相性」の問題が発生することもあります。

 

 

第3章:あなたはどっち?モデル・フェーズ別の選び方

 では、あなたの会社はどちらを選ぶべきでしょうか。「ビジネスモデル」と「事業フェーズ」の2つの軸で解説します。

 

  1. ビジネスモデル別の向き・不向き
    ▼融資(デット)が向いているモデル
    ◦ 例: 飲食店、美容室、小売店、Web制作(受託開発)、コンサルティング業など
    ◦ 特徴: 売上予測が比較的立てやすく、初期投資の回収が堅実に見込める事業。「Jカーブ」のような急成長ではなく、着実な黒字化を目指す安定成長モデルです。
     
    ▼出資(エクイティ)が向いているモデル
    ◦ 例: IT(SaaS)、プラットフォーム事業、アプリ開発、AI、ディープテック(大学の研究開発型)など
    ◦ 特徴: 初期に大きな赤字を掘ってでも、開発やマーケティングに先行投資し、一気に市場シェアを取りに行く事業。急成長(Jカーブ)を描く可能性があり、大きなリターンが期待できる反面、リスクも高いモデルです。

 

  1. 2. 事業フェーズ別の使い分け 
    ここでは「使い分け」の戦略をより具体的に解説します。
    ▼フェーズ1:創業期(シード)
    ・王道は「融資」: まずは日本政策金融公庫の「新創業融資制度」などを活用し、経営権を100%保ったまま当面の運転資金を確保するのが堅実です。
    ・例外: アイデア段階から大きな開発費が必要な場合は、エンジェル投資家からの「出資」も選択肢となります。
     
    ▼フェーズ2:成長初期(アーリー)
    ・「出資」が本格化: サービスが完成し、PMF(プロダクトマーケットフィット)が見えてきた段階。融資では追いつかないレベル(数千万〜数億円)の資金を「出資」で調達し、一気に成長を加速させます。
     
    ▼フェーズ3:拡大・安定期(ミドル〜レイター)
    ・「ハイブリッド戦略」が最強: 最も賢い戦略は、両方の「いいとこ取り」をすることです。
    ①まず「出資(エクイティ)」で大きな資金を調達し、B/Sの「純資産(資本)」を厚くします。 
    ②その結果、財務体質が劇的に改善し、社会的信用が上がります。
    ③その信用力をベースに、銀行から「融資(デット)」を好条件(低金利・高額)で引き出します。
     
    このように、出資と融資は対立するものではなく、順番や組み合わせを工夫することで、調達力を最大化できるのです。

 

第4章:初心者がやりがちな落とし穴と注意点

 最後に、それぞれの方法で初心者が陥りやすい失敗を見ておきましょう。

▼ 融資(デット)の落とし穴 
 ① 返済計画が甘すぎる: 希望的観測で売上計画を立て、返済が始まった途端に資金繰りが厳しくなるケース。保守的な計画が必要です。 
 
 ② 個人保証・連帯保証を安易に受ける: 今は「経営者保証ガイドライン」により個人保証なしで借りられるケースも増えていますが、意味を理解せず契約すると、会社が倒産した際に経営者個人が借金を背負うことになります。
 
 
▼出資(エクイティ)の落とし穴 
① 「返済不要」の言葉だけを信じる: 借金としての返済義務はありませんが、投資家(VC)は「IPOやM&AによるEXIT(投資回収)」を強く期待しています。この「事業を成長させて株主に報いる」という実質的な責任を理解していないと、後で「こんなはずじゃなかった」と双方にとって不幸な結果になります。 
 
② バリュエーション(企業価値)の失敗:
▪ 安すぎる: 最初の調達で株を安売りしすぎ(例:1,000万円で株の30%を渡す)、創業者の持ち分が減りすぎて経営のやる気を失う。
▪ 高すぎる: 無理に高い企業価値で調達すると、次の調達時にそれ以上の価値を証明できず、価値を下げる(ダウンラウンド)ことになり、既存投資家との関係が悪化します。 
 
③ 投資契約書を読まずにサインする: 専門用語が並ぶ契約書を「弁護士費用がもったいない」と自分で判断し、経営者に不利な条項(例:拒否権、優先株式の条件)を見落とす。 
 
④ 投資家との「相性」を軽視する: 出資は「結婚」に例えられます。お金をくれるなら誰でもいい、と価値観の合わない投資家を入れてしまうと、経営方針を巡って長期的に対立し、苦しむことになります。
 
 

まとめ:出資と融資に優劣はない。「目的」で使い分けよう。

 「出資」と「融資」の違いを徹底的に解説してきました。

 

融資(デット)は、「経営権を守りつつ、堅実に進む」ための手段であり、「元本+利息」を返す法的な義務を負います。

出資(エクイティ)は、「経営権の一部を渡す代わりに、大きな成長を狙う」ための手段であり、「EXIT(IPOやM&A)」で報いるという重い責任を負います。

 

どちらが優れているか、という議論に意味はありません。重要なのは、あなたの事業が「どの山(着実な山か、険しく高い山か)」を目指すのか、その目的を明確にすることです。

この記事が、あなたの事業に最適な資金調達方法を見つけるための一助となれば幸いです。

 

 

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  • 🟩 この記事は StartupList編集部が作成し、プロトスター株式会社 前川英麿が監修しています。
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